【13】ウィルコ
Wilcoのライブに行った知人がライブのセットリスト順に並んだ音源を送ってくれたが、私は旅の途中でスマートフォンでは各曲数秒しか聴けないという仕様だった。
その人の送ってくれたアプリで聴くのは諦めて、一曲目の「Infinite Surprise」だけYouTubeで聴くことにした。全部聴きたいところだが、Wi-Fi通信でない環境で動画を流すには予め購入している通信量では足りなさそうだった。海辺のパラソルの下でビーチベッドに横たわり、サングラス越しに太陽を眺めて、頭の中の音楽を見ていた。音が曲がったり広がったりした。
知人はWilcoの演奏を聴いてひどく心が動いた。お腹が痛くなるほどだった。ある三曲の流れを聞いた時は自然と涙が流れ、過去や現在、未来について思いを巡らせ、今、こんなに豊かに音楽を聴けるようになったのは何故だろうと考えた。
私の横にいたかなり迫力のある身体つきの若い白人女性の二人連れがいなくなると、白人のカップルが新しくそのブースを借りて日光浴を始めた。
女性は宿泊先のホテルのレストランで見かけた、ビキニの上にセクシーなカバードレスを纏った人だった。今はドレスを着ておらず、豊満な身体の肉と腰と太もものタトゥーが剥き出しだった。手足がタトゥーだらけの男性にも見覚えがある。男性のタトゥーの一部は目を瞑った人間の顔がグラデーションがかった感じで描かれていて、「幻の顔」という言葉が私の頭に浮かんだ。二人は特に話もせず肌が焼けるのを各々に待っていた。男女二人で旅行だなんて良いなあ。何泊するの。あなたたちこの旅で何を持って帰るの。
知人は「ほんとWilcoは正義。アメリカの音楽の良いところ全部持ってるよ。ライブの後、一緒に行ったみんなで飲み行こうってなったけど、感動をそのまま持ち帰りたいからまっすぐ帰ってる」と、胸をいっぱいにして電車に揺られている。
