ナポレオンに学ぶ、組織の“無秩序期”突破マネジメント術
制度導入がもたらす文化的ギャップ
組織が新しい制度や仕組みを導入する時、構造的な「正しさ」とは裏腹に、現場では混乱や足並みの乱れが起きることがある。
以前支援に入らせていただいた企業では、個人の業務単価を可視化し、個人の業務年間合計額で評価する定量的仕組みを設計し導入したが、導入後ほどなくして、自分の成果だけを優先するような利己的な言動があちこちで目立ち、チーム内の協働力や集団性が低下したということがあった。
悲しいかな、昼ドラに近い人間性の醜さみたいなものが露骨に露呈した、というやつである。
例えばメンバーの業務にヘルプで入っても、分前が極端に少ないとか。
例えば業績が上がらない後輩を押しのけて、手軽で高く稼げる業務を先輩が威厳を使って奪っていくとか。
制度を導入した管理側としては「そういう争いを引き起こしたかったわけじゃないのに」というやりきれない思いである。
制度そのものは個人とチームが会社貢献に直接関与できる公平かつ効果的なものだったのだが、なぜこのようなことが起こったのか。
このような混乱ともいえる「無秩序現象」は、組織改善活動では典型的に見られるステップで、チームビルディングなどでも必ず発生するフェーズとして認識されている。
この混乱は、「やろうと思えば可能な限り小さく納めることはできる」ものの、その実態や様相がわからないと、最小限に納めるような事前手立ては打ちにくい。
よって、「起こるべくして起こった」と捉えたうえで、その時点で必要な「手立て」を打つことが必要なのだが、
このような現象は、歴史を振り返っても頻繁に起こっていて、そのたびに混乱を鎮め秩序を形成・定着させ、文化を築いていった実績が数多く残されている。
現代を生きる我々もその歴史の積み上げの上に立っているわけだが、今回は、フランス革命とナポレオンを例にとり、組織改善活動時に起こる「無秩序期」をどのように乗り越えて行くとよいかを考察する。
主語が”自分”になった瞬間、起きること
組織改善による制度から得られる「自己裁量」や「自律性」は、時として、メンバーに「利己感」を生じさせる事がある。
それは、自身の成果や得を意識することに起因することであり、特にチーム効力感の低い集団にとっては、急激な前向き活動の動きが見られる変化であるため歓迎されるものの、
それを上回るレベルで自分KPI偏重の行き過ぎが露呈するようになり
「グループ目標や協調なんぞ知らんがな」
などという概念すら生まれる。
歓迎感は光の速さで失せるのだ。
これは制度そのものが悪いとか、欲まみれにも見える人たちの意識レベルが低いとかではなく、
それを下支えする文化が未整備・未熟なことによる副作用によって引き起こされる「症状」、すなわち季節風邪みたいなもんである。
文化が未成熟なまま制度を導入すると、個々がバラバラに動きやすくなり、組織全体の統合性が損なわれるのだ。
フランス革命とナポレオンから学ぶ「変革の無秩序期」
文化に変革をもたらす動きによって訪れる「無秩序期」の存在と対処法については、歴史を遡ると参考になる例が数多くある。
日本でも、第二次世界大戦直後のアメリカ軍統治時期から日本国憲法が制定されて秩序を形成・定着させていった流れもある。
フランス革命を例に考えると、
民衆が絶対王政を崩壊させ、新たな自由と権利を手にしつつあったが、王政の崩壊後、獲得した自由や権利をどう扱うべきかについて共通認識がないまま、指導者不在と価値観の分裂が社会のいたるところで混乱を引き起こし、収束の目処がつかない状況になる。
長期的混乱の中、最終的に秩序の再構築を担ったのがナポレオンである。
彼は、市民の権利を法制度に落とし込みつつ、一部の自由を制限しながらも社会の安定を優先した。
個々人の行動を公平に扱う民法として、社会の”行動ルール”を可視化したナポレオン法典などの制度的整備は、秩序を回復するための明文化されたルールとして機能し、国民にとっても「守る意味」が理解しやすい構造だった。
歴史上の評価では独裁的とされる側面もあった点は否めないものの、権利を公平に取り扱うことで秩序を整えたナポレオンの思想と実績は、現代の組織文化改革においても示唆に富む。
では、現代の組織改革で直面する「無秩序期」を、ナポレオンの思想に従って考える時、どのような手を打てるだろうか。
無秩序を突破する3ステップ
無秩序期の突破には、
■ 無秩序を引き起こしている原因や背景を調べる
■ 原因の是正対策を立てる
■ 対策を実行し効果持続を測る
の3ステップを進めることで乗り越えることができる。
集団は個性の集まりであるがゆえ、無秩序のような混乱が発生した時に集団がどのような様相になるのかの予想は困難だ。
評価される行動と成果の基準や、許容される最良の範囲、責任の所在と判断構造などが不在であることが主な原因ではあるが、
その具体性は実際に発生しないと、どこまでの粒度でルール設計しておけばよいか判断がつかない。
そういう点では、「無秩序」は、大なり小なり発生して然るべきと捉え、
発生した状況から原因究明し、的確に事態を把握したうえで、制度が健全的に運用できるようなルールを設定・明文化し、遵守する事を狙うほうが効果的である。
こうした線引をチーム全体に共有していくことで、行動の安定性は向上し、未成熟な文化の段階では、共感や空気を前提にせず、制度的足場づくりが確実に進む。そういうものの上で徐々に文化が育まれていく。
混沌を“観察可能な現象”として捉える
こうしてみても、混乱は否定すべき対象ではなく、効果的な設計を行う上で必要な「材料」である。
どのような場面で連携が崩れるのか
どのような意図のすれ違いがはっせいしているのか
制度のどの部分が誤解を招いているのか
こうした観察により、次に整備すべき仕組みや再定義すべき価値観が明確になる。
新たな制度を設計しチームに導入するだけでも「ひと苦労」なのに、更に混乱も起きる予定なの!?カオスじゃん!
と思われるだろうが、
チーム成長には文化醸成が必要不可欠であり、その醸成には設計と試行錯誤、すなわちカオスとも呼ばれる混沌状態との往復は起こる。
無秩序期を乗り越える組織の進化
制度導入直後に生じる混沌は、組織文化が進化する契機である。
最初から理想的に整う仕組みは存在せず、混乱を前提に設計と再設計を繰り返すことが、組織文化の熟成につながる。
ナポレオンが国家の混乱期を秩序に変えたように、組織にも「制度に遅れて秩序を整える」という戦略的な設計が重要になる。
制度導入
↓
混乱発生(発生率や度合いはチーム文化醸成レベル次第)
↓
原因の観察と分析
の流れを進んでいく中で、組織は少しずつ成熟し、混沌は失敗ではなく次の秩序構築への材料として活用されるものになっていく。
そのうえで、制度の導入は文化形成のための触媒となる。
無秩序を恐れず、むしろそれを起点に文化と制度の整合性を育てていくプロセスが、組織の進化そのものだと言えるだろう。
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