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ズレの正体 #3|ズレを最小化する“認知の設計”

会議室で、あるいはチャットの画面越しで、どうにも議論が噛み合わない。
そんな時、私たちはつい「相手の理解力が足りないのではないか」とか「自分の説明スキルが不足しているからだ」と、個人の能力に原因を求めてしまいがちです。

しかし、本当にそうでしょうか。
多くの場合、その奥にあるのは能力の問題ではなく、ものごとを捉える「認知の構造そのもののズレ」です。

第2話では、そのズレの正体が、同じ対象に意識を向ける「共同注意」の欠如にあると書きました。
では、失われた共同注意を、私たちはどうやって再構築し、設計していけばよいのでしょうか。
ここでは、しくみのスキマらしく、“レイヤー構造”で認知を扱う視点から整理していきます


■ 認知のズレは“3層構造”で起きている

議論のズレには、表に見えるものと、水面下に潜んで見えないものがあります。
私たちが普段意識しているのは、氷山の一角にすぎません。

表に表れるのは 「視点のズレ」です。
そして、水面下にあるのは 「フレームのズレ」 と 「暗黙の前提のズレ」です。

この3つの層が縦に貫かれて揃って初めて、議論は同じ方向に、しかも驚くほど静かに動くようになります。
ひとつずつ、その構造を覗き込んでみましょう。

■ ① 視点を揃える(行動レベル)

もっとも表に出やすく、かつ対処しやすいズレが「視点の違い」です。
同じ会議室で、同じプロジェクターの画面を見ていれば、同じ情報を共有していると錯覚してしまいます。
しかし、営業担当者はスケジュールの欄を睨み、開発担当者は仕様の例外処理を気にして、管理者はコストの数字だけを追っているかもしれません。
同じ資料を広げていても、目に留まる場所は人によってまったく異なります。

これは、物理的な行動レベルで調整することができます。
・いま話している箇所を指差す(あるいは画面上でカーソルを合わせる)
・複雑な関係性をその場で図解する
・空中戦になっている言葉を、メモとしてリアルタイムで可視化する
・指標の「どこ」を見て、その判断を下しているのかを言葉にする

いずれも、「同じ点を同時に見る」ための具体的な技法です。
視点が揃う。ただそれだけで、無駄な反論や誤解が消え、議論は驚くほど静かに進みはじめます。

■ ② フレームを揃える(思考レベル)

視点が揃い、同じものを見ていたとしても、その“見方”がバラバラだと、やはり合意には向かいません。
ここからが、少し水面下に潜る作業になります。

フレームとは、「目的」「前提」「評価軸」「期待しているアウトプット」といった、“思考の枠組み”のことです。

たとえば、「この業務フローをもっと使いやすくしたい」という改善案があったとします。
現場の担当者にとっての「使いやすさ」は、入力の手間が減ることかもしれません。
しかし、管理者にとっての「使いやすさ」は、エラーがなくデータが綺麗に揃うことだったりします。
どちらも間違っていませんが、フレームが違えば、導き出される解決策は真っ向から対立します。

だからこそ、議論が迷走しそうになった時に投げかける、 「そもそも、この取り組みの目的は何でしたっけ?」 というよくある問いは、フレームを揃えるための最も強力なツールのひとつになります。
目的や評価軸を繰り返し確認することは、ただの確認作業ではなく、共同注意の“土台”を整えるという重要な設計行為なのです。

■ ③ 暗黙の前提を棚卸しする(コンテクストレベル)

議論が最も深く、そして致命的にずれるのは、この一番下の層です。
ここを静かに扱えるようになると、チームの空気は本当に変わります。

暗黙の前提とは、普段は決して言葉にされない背景のことです。
・その人が過去に経験した成功体験や、手痛い失敗
・部署ごとの役割や立場がもたらす、暗黙の理解(重力)
・その組織特有の文化やタブー
・個人が拠り所にしている“物語”

たとえば、新しいシステムの導入に対して、どうしても腰が重い人がいたとします。
それは彼が変化を嫌う保守的な人間だからではなく、過去のプロジェクトでシステム障害が起き、現場がパニックになったという「経験」が、リスクに対して過敏にさせているのかもしれません。

共同注意をつくるには、この“地下のレイヤー”をどれだけ見える化し、共有できるかが鍵になります。
「この判断軸は、過去のどんな経験から来ているのだろうか?」
「なぜ、あの人はそのリスクをこれほどまでに重く見ているのだろうか?」
そういった相手の背景に対する静かな問いは、文脈の非対称を解消し、お互いの前提を棚卸しするためのものです。

■ PDCAや1on1と決定的に違うところ

近年、多くの組織でPDCAサイクルを回したり、定期的な1on1ミーティングが導入されたりしています。
しかし、それらがうまく機能しない理由の多くは、この“3層構造”を扱っていないところにあります。

行動(視点)の改善だけを促す。
目的(フレーム)が揃っていないまま、目標設定だけを行う。
背景(暗黙の前提)が異なるまま、表面的なコミュニケーションで終わらせる。

これでは、いくら時間をかけて丁寧に対話しても、奥底のズレは縮まりません。
必要なのは、ただの対話ではなく、認知構造そのものを整えるという「設計」の視点なのです。

■ ズレはなくならない。だから構造で扱う

最後に確認しておきたいのは、認知のズレは完全にはなくならないということです。
私たちはそれぞれ、違う立場に立ち、違う経験を積み、違う背景を持っています。
ズレがあること自体は、決して悪いことではありません。

だからこそ、ズレが生じた時に、それを「個人の能力や性格の問題」として責めるのではなく、「構造の問題」として静かに扱うことが重要なのだと思います。

視点を揃え、 フレームを揃え、 暗黙の前提を棚卸しして扱えるようにする。

その小さな設計の積み重ねが、摩擦を減らし、チームに静かな一体感を生み出していきます。

──あなたのチームではいま、どの層のズレが一番大きいのでしょうか。

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