漫画の”ネーム”を設計図に例えるのは適切か?元エンジニア的見解として
こんにちは。40代オッサン商業漫画家志望者です。
原稿も完成したので、前から書き溜めていたことをUPしてみようと思います。
漫画を描くうえで避けて通れない「ネーム」について、私なりの見解を述べて脳みその棚卸作業です。
20年近く前の経験談なので、今は色々変わっているかもしれませんし、うろ覚えの部分もあるのでご了承ください。
全く漫画を描いたことない人は「ネーム」という概念がなくいきなり原稿に下書きしてペン入れ、仕上げにとりかかるものだと思ってしまうかもしれませんが、普通はネームという下書きの前段階を描いて手がけるのが普通です。

もともとはセリフを指す言葉だったものが、簡易な絵や構図、構成全般を含めたものをネームと呼ぶようになったようですね。
私はネーム作業が楽しく、ある程度自信もあり、かつ、出力もめちゃくちゃ早いわけれはないけれど、わりと早いようです。
また、ライトノベルのコミカライズ作品の「ネーム作家」の打診があったことがありますが、異世界ものは全く気が乗らないのでお断りさせていただきました。
さて、ネームについては「下書きの下書き」や「漫画の設計図」などと例えられるのですが、私は元土木エンジニアなので「設計図に例えるのは適切か?」という観点で少しモヤっているので、記事としてアウトプットし整理、かつ自分なりの解釈ができないかと思い立ちました。
モヤっているのは”設計”の理解度によっては適切であるし、理解がない場合は設計図に当てはめるのは適切ではない、という感じですね。
下記ポストは、設計の理解があると感じました。
【漫画ネームは、家を建てる前の設計図だ❗️】
— 漫画家・高橋 幸慈 /『押忍‼︎空手部』作者 (@370119) May 29, 2026
家は建ててからでは、
あとから直すのが大変です。
でも設計図なら、消しゴムで消して、
何度でも描き直せる。
漫画ネームも同じ❗️
設計図の段階で、
コマ割り、セリフ、表情、間、
感情の流れを
徹底的に設計しておけば、
完成原稿になった時に、…
ネーム=設計図にたとえるならば
設計図を描き直すことは普通にあるので、ネームは描き直すことが前提
と、元土木エンジニア的に思うのですね。
「設計図を描き直すって」そんな事あるの?と思うかもしれませんが、実際にやってみないとわからない事が結構あるんですね。
たとえば、土の中は掘ってみないとわからない事が多いので、設計図を描き直すことはわりとあります。
私は土木のほうに従事していたので、安全かつ丈夫に構造物を建てるための「基礎工」を事例にしてみます。
(解体の経験が長いので、基礎工の経験値は少ないではありますが…)
本土の古い木造建築などでは石の上に構造物を建てる簡素な構造もあるようなのですが、鉄筋コンクリート造など重量のある構造物の場合、「支持層」と呼ばれる硬い地層に至る基礎を作ることが多いです。
浅ければ直接コンクリートを打設して基礎を作るでしょうし、深ければ支持層まで複数の杭を打つなどして、地上の構造物を支えます。
・基礎の構造や方式(安全性やコスト、工期、実際に施工できるか等)
・たとえば杭を打つ方式ならば、どのような形式の杭を、どようような工法で何本打つか?
・支持層まで達しない場合、他にどのような工法が考えられるか?
などを理論的に検討するのが”設計”であり
設計を見える化したものが設計図にあたります。
基礎工の設計に先立ってボーリング調査(地質調査)を行い、地層の状態や支持層の深さなどを調べるのですが、ボーリング調査や設計はいわゆる「アタリ」であり、「実際に掘らないとわからない」のです。
たとえば設計(ボーリング調査)では12mの深さに支持層があることがわかったけれど、1本目の杭は10m、隣の杭は15mに支持層があった、なんてことがありうるわけです。
杭を打つ場所すべてで事前にボーリング調査をすればわかるじゃないか、という考えが浮かんできそうですが、そもそも、ボーリング調査をしなければどこに何本杭を打つのか、杭じゃなくていい、または杭以外の方法が適切という判断…つまり設計はできません。
余談ですが、沖縄の特殊事情として「不発弾」の存在があるので、杭打ちに先立って、不発弾探査を兼ねたボーリング調査を行ったりします。不発弾が見つかると、警察に通報→自衛隊の不発弾処理隊により回収または安全化がなされます。
ハイサイ!
— 第101不発弾処理隊 (@jgsdf_101eod) May 27, 2026
新しい仕様の戦闘服が支給されたことに伴い、これまでの「腕章」に代わる「ワッペン」を作成しました!
今後、不発弾を処理する際は、着用する戦闘服に応じて「腕章」又は「ワッペン」を装着します。
引き続き、安全確実な不発弾処理を行なってまいりますので、宜しくお願いします。 pic.twitter.com/wkTRFtYh7W
また、設計基準(設計するうえでの手引書のようなもの)では、A工法が適切とされていたけれど、実際に施工したら上手くいかなかったので、別のB工法に変えることもあります。
このような変更を文字どおり「設計変更」と呼びます。
土の中は見えないので一般的には目に見えてわかるものではありませんが、ある程度の規模の工事では設計変更を伴いがち…というか普通なのではと思うのです。
テレビ番組を例にすると
「劇的ビフォーアフター」では、住宅リフォーム工事における機能性やデザインに目がいきがちですが、想定外の腐食や貧弱な基礎が見つかり対策をする…つまり設計変更がわりと頻繁に行われています。
「魔改造の夜」は考察と設計、制作、失敗、再設計と制作を繰り返していますから、やはり設計(図)どおりには上手く行かない事って多いのです。
だから、設計(図)は描き変える事はありえないのではなく、当たり前なのです。
なお、工事によっては概略設計で施工(工事)し、施工しながら設計変更して構造物を完成させるパターンもあります。
というわけで
・「設計図を描き変えることはありえない」という観点でネームを設計図に例えるなら適切ではない
・「設計変更が前提」という観点でネームを設計図に例えるなら適切
であると私は考えています。
また、設計図に例えるならば
・ボーリング調査や環境調査、交通量調査などの事前調査
・都市計画や関係法令、各種設計基準などの根拠資料
・工法や概算費用、工期の算出と比較検討
・各種構造計算
などの膨大な検討資料が付随されていることも踏まえておきたいです。
(官公庁の設計・調査業務では、黒いファイルに金文字にまとめられている事が多いですが、民間事業でもそんな感じなのでしょうか。厚みがあり分冊になっていることも)
ネームの場合は設計図の裏付けとなる膨大な資料をまとめる必要はありませんが、ネーム作成に至るまでのインプットや、場合によっては企画書であるとかキャラ表などが必要になることがあります。
そう考えると、設計における事項をネームにあてはめて考えることはできそうです。
・設計基準≒漫画の基礎的ルール
日本の漫画ならセリフは縦書きで、右から左、上から下に読む。
単行本化される事を考えるなら、タチキリの外まで描くとか、基本枠に重要なセリフを収める
漫画フォントを使い、今はスマホで読まれるので字が小さくならないように工夫する…など
・比較検討≒企画の制作立案
などですね。
私のような現実世界を漫画にしている者にとっては、ボーリング調査や環境調査のような、事前調査にあたる取材やネタ集めは重要です。
(いわゆるインプットの一部になりますが)
あと、大規模工事では概略設計(基本設計)と詳細設計に分かれていることもあります。
たとえば道路工事なら、どのルートに道を通すのが安全かつ適切か。橋がいいかトンネルがいいか、住宅等の移転補償や用地買収にいくらかかるか、工期はどのくらいかかり実現性があるか、などが概略設計。
概略設計をもとに、実際に作る構造物の設計を図化したものが詳細設計です。
ネームに例えるならば、概略設計は読み切り、詳細設計は連載という感じでしょうか。
というわけでネーム=漫画の設計図に当てはめるのは適切か?
という私の脳みその整理であり
描き変えることが前提であるという理解があり、かつ、設計図の裏付けになる調査検討が付随しているならば、ネームとは漫画の設計図に例えられるのではないかと、元エンジニア的には思います。
ちなみに私にとってネームとは「調整資料の一種」であり、企画段階であれ原稿に進む段階であれ、修正が前提ととらえています。
なので相手方(編集者や第三者)に伝わるものであれば、絵は簡素なもので良いし、要求されるならある程度描き込みします。
原稿執筆段階でもっと良い構図や構成が案が思いつくなら、描き直すこともあります。
趣味で描く分には自分がわかれば十分なのですが、いきなり原稿に入って「何描いてるかわかんない」となるよりも、ネームでみっちり練ったほうが良い作品になると思いますし、描きたい欲が強まるので、めんどうでもネームをしっかりやっておいたほうが良いと思います。
漫画を描きたいけど描けないという方も多いと思うのですが、「これは描かざるを得ない」というところまで到達できれば、自然と手が動きます。
私の場合は、これが原動力なんです。
あと、できれば家族でも友達でもいいので、ネーム段階で第三者目線の観点を取り入れたほうがいいです。
というのも、ネーム段階で意味がわからない漫画は、超絶画力をもって完成させても、意味がわからないためです。
恐縮ですが、あまり絵が上手くないと思える作品や、絵柄が好きではない作品でも面白い漫画は面白いし、好みの絵柄でも中身が意味不明だと、読む気を無くします(漫画というより一枚絵を見たい)
「意味がわからない」は読み手側にとっては面白い以前の問題で、超絶なストレスになってしまうのです。
ストレスの根源となる「意味がわからない」を潰すのも、ネーム工程の重要な要素だと思います。
なお、字が読めないことはストレスになるので、第三者に見せる前提なら私のように字が汚い人は、初稿は手書きしても、セリフだけはデジタルできちんと文字を打ってネームを描く(切る)ほうがよいです。
以前、ネームを見てくれとアポなしで突然現れた方がおり、字も汚くて読めないし世界観も意味不明で、ある種の地獄を見たことがあります。
(なので、私は初稿というかページの積算をする時は手書きですが、ネーム行程からはデジタルです。切り張りや描き直しも楽ですからね)
ネームに苦手意識のある方も多いようなのですが、ネームの出来が面白さとか仕上がり、原稿に入る時のモチベーション維持に直結すると思うので、漫画を描きたい方はめんどくさがらずに、ネームに力を入れてみてください。
こうして書き出してみたうえで、ネームとは何かを考えてみたのですが
もしかすると
ネーム=骨、筋肉、臓器
原稿=服、髪、肌(ビジュアル)
に例えることもできそうな気がしています。
余裕ができたら、私なりのプロットからネームにいたるまでの作業行程をとりまとめたいと思います。
