理美容業の魅力発信プロジェクト【シマウマフォーカス】 #7~hair room 和_児玉 義孝~
─義を貫き、和を育む─
川のせせらぎと豊かな緑が心を落ち着かせる和歌山県紀の川市。この地に、まるで隠れ家のような趣で佇む一軒のサロンがある、「hair room 和(なごみ)」。その名の通り、訪れる人の心を和ませ、温かい繋がりを生み出す場所だ。
今回フォーカスするのは、オーナーの児玉義孝氏。柔らかな物腰と、時折見せる少年のような笑顔。しかし、その瞳の奥には、幾多の経験を経て培われたであろう、深く、揺るぎない芯の強さが宿っている。
名は体を表す、と言う。
彼の名にある「義」の文字は、まるで彼の生き方そのものを指し示しているかのようだ。人を想い、義理を大切にし、真っ直ぐに己の道を歩む。児玉義孝という一人の人間の魅力に、深く迫ってみたい。

─奔放な父と、大きな愛をくれた母。価値観の礎となった幼少─
「昔から、周りからは優しいとよく言われていましたね。でも、めちゃくちゃ活発というわけでもなく、ごく普通の子供だったと思います」
和歌山県紀の川市、
自営業の瓦工場を営む家に、児玉氏は次男として生を受けた。当時は工場も大きく、裕福な家庭だったという。しかし、その内情は少し複雑だった。
「父は良くも悪くも自由奔放な人で。外ヅラはいいんですが、家では絶対的な支配者。亭主関白そのものでした。母親に靴下を履かせているのを見たこともあります。父に遊んでもらった記憶は、ほとんどないですね」
そんな家庭環境の中、彼の心の拠り所となったのは、母親と母方の祖父母だった。週末になると祖父母の家に遊びに行くのが何よりの楽しみで、たくさんの愛情を注がれて育った。
そして、彼の人間性の根幹を形作ったのは、いつもそばで見守ってくれていた母親の存在だった。
「挨拶をしなさい、靴を揃えなさい、人に迷惑をかけちゃいけない。そういう人としての基本的なことを、母から教わりました。商売人の家で育ったからか、親の背中を見て自然と身についたのかもしれません。僕の価値観のベースは、間違いなく母から受け継いだものですね」
中学・高校時代は、X JAPANのhideに憧れてバンド活動に明け暮れた。担当はギター。目立つボーカルではなく、全体を支えるパートに惹かれたというのも、彼の性質を物語っているようだ。

─人生の灯台となった美容師との出会い─
多感な思春期。複雑な家庭環境も相まって、彼の心は時に不安定に揺れ動いた。そんな彼の暗闇を照らす、一筋の光となる出会いが訪れる。それは、通っていた美容室の担当美容師だった。
「僕にとって美容室は、単に髪を切る場所じゃなかった。何でも相談できる、心の拠り所だったんです。担当してくれていたお兄さんのような存在の美容師さんが、僕の話を親身に聞いてくれて。本当に救われました」
髪を切ることで人を笑顔にし、話を聞くことで人の心に寄り添う。その姿に、児玉さんは強く心を揺さぶられた。
「髪を綺麗にするだけじゃない。人の人生をも変えることができる仕事なんだ、と。こんなに素晴らしい仕事はない。僕も、この人みたいになりたい。そう思ったのが、この道を志したきっかけです」
この決意は固く、高校時代から美容室でアルバイトを始め、夢中で技術を学んだ。バンドとバイトに明け暮れた日々は、彼の青春そのものだった。

─挫折と栄光。大阪での武者修行─
高校卒業後、「理容と美容、両方の免許を持っていた方が絶対にいい」という美容の先輩方のアドバイスに従い、まずは理容の専門学校へ進学。卒業後は通信制で美容師免許も取得し、二足の草鞋を履く。
しかし、地元でのキャリアに限界を感じた彼は、22歳で故郷を離れ、大阪での武者修行を決意する。
「最初の店では、新規のお客様に入る機会がほとんどなかったんです。
人の出入りが少ない地方の難しさですね。新規での担当になれる機会がほとんどない。このままでは成長できないと思い、大阪に出ることにしました」
だが、大阪での道もまた、試練の連続だった。最初に勤めたサロンのレベル、お客様への対応の仕方に疑問を感じて半年で退職。次に選んだのは、泉佐野にある低料金の理容室だった。
「とにかく数をこなして技術を磨きたかった。がむしゃらでしたね」
ここで彼は7年間、腕を磨き続けた。そして30歳を過ぎた頃、自ら志願して店長に就任する。それは、いずれ控えている独立という大きな目標に向けた、ある「実験」のためだった。
「自分の考えややり方で、どれだけの仲間がついてきてくれるのか。どれだけの数字を上げられるのか。それを試したかったんです」
結果は、想像を超えていた。彼が率いた店舗は、全国に300店舗以上あるチェーンの中で、売上全国1位を達成。この成功は、彼に大きな自信をもたらした。
しかし、栄光の影で、彼は人生最大の悲しみに直面する。長年、彼を支え続けてくれた最愛の母親が、この世を去ったのだ。

─母への最後の親孝行。故郷・紀の川への帰還─
母との別れは、彼の人生の舵を大きく切らせるきっかけとなった。
「母は亡くなる間際まで、父のことをすごく心配していました。『私がおらんなったら、あの人はどうなるやろか』って。破天荒な父の唯一の味方が、母でしたから」
幼い頃から 体が弱かった自分を、誰よりも心配し、支えてくれた母。親孝行らしいことなど、何一つできていなかった。そんな後悔の念が、彼を突き動かした。
「母が心配していた父のそばにいて、見ていてあげることが、僕にできる最後の親孝行なんじゃないか、と。妻にも正直に話しました。『最後の親孝行がしたい。全く知らない土地だけど、ついてきてくれるか?』と。妻は『いいよ』と言ってくれました」
多くの顧客を抱える大阪を離れ、故郷・紀の川市へ。それは、彼の人生における、最も「義」を重んじた決断だった。

─人と人、心と心を結ぶ『hair room 和』─
帰郷後、独立の準備期間として和歌山市のサロンでフリーランスとして働きながら、着々と開店の準備を進めた。
店名は『hair room 和(なごみ)』。
妻・和可子さんの名前にもある「和」。
故郷・和歌山の「和」。
そして、訪れる人に「和んでほしい」という想い。
全ての意味が込められた、夫婦二人の決意の証だ。
「美容室っぽくない店にしたかった。他と同じことをしていても埋もれてしまう。だから、外観はガラッと変えて、純和風にこだわりました。最初は料理屋さんと間違われることもありましたけどね(笑)」
その狙いは見事に当たり、ユニークな外観はオープン前から口コミで話題を呼んだ。2019年11月、夫婦の想いが詰まったサロンは、多くの人の祝福を受けてスタートを切った。

─未来へつなぐ「なごみファミリー」という夢─
オープンから6年。水害で店が浸水するという大きなピンチも乗り越え、『hair room 和』は地元の人々に愛される地域密着サロンへと成長した。今後の展望を尋ねると、意外な答えが返ってきた。
「店舗展開は考えていません。この田舎では、人材を確保するのが現実的に難しい。それよりも、今いるスタッフや、これから出会う若い子たちを育てて、この業界に貢献できる人材として送り出してあげたいんです」
かつて自分が恩人たちから受けてきたように、技術だけでなく、人としての在り方を伝えたい。若い世代が輝ける場所を提供し、理美容業界全体を盛り上げていきたい。それは、彼の歩んできた人生への感謝、恩返しの気持ちだ。
「昔、親族間でお金のことで揉めるのを間近で見てきたから、お金で人が変わる醜さを知っているんです。だから、損得勘定で動く人間にはなりたくない。人を助けたり、喜んでもらえたりすることの方が、僕にとっては幸せ。お店も、そんな家族のような仲間が集まる場所にしていきたいですね」
それはまるで「なごみファミリー」。児玉氏の温かい人柄に惹かれて集まった仲間たちが、また新たな「和」を広げていく。そんな未来が、すぐそこに見えるようだった。
「義孝さんにとって【魅力的】だと思う人って、どんな人ですか?」
記者の質問に対して、「そうだなぁ」と考えてから児玉氏は答える。
「自分のことより、人のことを優先に考えられる人ですね。損得じゃなくて、 損してでもいい と考えられる人。妻や亡くなった母が、まさにそういう人でした。そういう生き方をしている人に、僕はすごく惹かれますし、尊敬します」
インタビュー中、児玉氏は何度も「母には恩しかない」と口にした。
彼の優しさ、義理堅さ、そして人としての強さ。そのすべては、偉大な母親から受け継いだ、何より尊い財産なのだろう。

児玉義孝の人生は、義を貫き、和を育む物語。
これからもきっと、多くの人の心を和ませ、笑顔の輪を広げ続けていくに違いない。
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魅力の連鎖を生み出す「シマウマフォーカス」
理美容業の魅力発信プロジェクト【シマウマフォーカス】は、理美容師たちの“人としての魅力”に焦点を当てた連載企画。自分の生き方を真摯に語るインタビューが、読者の背中をそっと押す力になることを目指しています。
「この記事を読んで、私も頑張ってみようと思った」 「魅力アップ、してみたいなと思った」
そんな声が、また次の魅力的な誰かを生み出して。
その人が、また誰かの背中を押していく──
“魅力の好循環”を、理美容の世界から。
それがシマウマが描く世界。
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