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私的映画録…「嗤う伊右衛門」2004年 [映画感想文]

あちこちでいろいろな文章を書いたり、本を出したり、セミナーで話したり、Web関連を中心としたPRのディレクションをしたり、音楽作品を出したり、アーティスト紹介サイトの運営をしたり、うさぎの動画を作ったり…なんてことをしているけれど、そのどこでも書けていない、これまでに観た映画等の感想でも書いておこうかと書き始めた第458弾。

今回は、恐怖より切なさが圧倒的に勝っていた作品「嗤う伊右衛門」のお話。

先に書いておくと、原則としてネタバレとかまったく気にせず書いているので、まだ観てない方やネタバレが気になる方はお読みにならない方がいいかもと思います。

ちなみに先に言い訳しておくと、この感想もだいぶ前に書いているものをちょっとなおして載せているので、まさに今の情報とは違っていることもあるかもしれませんので、そういった点もお許しください(毎回冒頭から言い訳が多い)。


公開:2004年2月7日
監督:蜷川幸雄
脚本:筒井ともみ
原作:京極夏彦
製作:中川好久、道祖土健、椿宜和、前田茂司
製作総指揮:角川歴彦
出演者:唐沢寿明、小雪、香川照之、池内博之、椎名桔平、六平直政、井川比佐志、松尾玲央、清水沙映、 MAKOTO、大門伍朗、不破万作、妹尾正文、新川将人、月川勇気、冨岡弘、谷口高史、藤村志保、等
配給:東宝

元ネタは四谷怪談で、それを京極夏彦さんが大幅に改作した原作をベースにした映画。
四谷怪談なんだからジャンル的にはホラーなんだろうけど、ホラー要素はほぼなく、これがまたホントに切ない。

世界観的には以前観た「必死剣鳥刺し」や「一命」にも通じると思えた。
つまり、切なさの根っこにあるのはどうしようもない理不尽さなのだ。

封建社会であり儒教的な教えが根付いていた江戸時代。
上役の言うことには逆らいにくく、また逆らったとすれば多くのものを失う覚悟が必要だった社会の中で、岩(演・小雪さん)の亡父・又左衛門(演・井川比佐志さん)から岩と家督、そしてその役職を託されている主人公・伊右衛門(演・唐沢寿明さん)はまさに、窮屈や理不尽に耐えて毎日を過ごしている。
そんな姿がそのまま、現代社会にも通じているように思えて、思い切り共感してしまう。

そこに登場するのが悪い上司・伊東喜兵衛(演・椎名桔平さん)である。
役職を盾に部下に横柄…というか現代なら完璧にパワハラ。
気に入った女性はなんだかんだと策略を巡らせては手篭めにしてしまう。

そんな伊東喜兵衛が岩にも目をつける。
そして伊右衛門に長期の出張を命じ、その間に岩に嘘を吹き込み、伊右衛門と岩を別れさせてしまう。
それも、二人はそれぞれ相手を思いやり、その思いやりが裏目に出て伊東喜兵衛に陥れられていくのだからさらに切ない。

しかしそれでも、そこで腐らずに、その温かい思いを大切に、地味にでもしっかり貫いていく姿がいいなぁ。
しかしだからこそより一層切なさが増す。

それにしても、こういう映画を観ていると、弱き者でも牙はしっかり持たないとダメかもなぁと強く思ってしまう。
負けると分かっていても、相手にせめて一矢を報いる力。
それがあれば少なくとも無闇に蹂躙されることはなくなる。
結果その牙の存在が少しは抑止力になって、こういう悲劇も減るのではないかと思う。
弱者が耐えている絵は美しいが、実のところそれは、単に強者に利を与えているだけなのかもしれないとも思える。
そんなことを思えるのも、この作品が最終的にああいう結末になるからだろう。

まだ書いてなかったけどこの作品に登場する伊右衛門はほぼ表情のない、いわば笑わない男なのだ。
それがタイトルにある通り「嗤う」。
しかも使われている漢字が示す通りこの笑いはむしろ、冷笑や嘲笑であり、そう言ったネガティヴな感情を持ちながら大きく笑って見せる行為なのだ。

さてこの笑わない伊右衛門がいつそんな嗤いを見せるのか。
そしてその嗤いの意味は?…と考えると、やはり彼がその武器を振るうのが遅すぎたのだと思えたりするのだ。
そしてそこに至るまでの彼の心の動きを考えてはまたさらに切なくなる…ね、この流れ、ホラーなんかじゃないでしょ?

そして岩を演じた小雪さんがとても素敵だ。
この作品で岩は疱瘡を患って顔の半分が爛れている女性という設定なので、かなり厳しい特殊なメイクをしているんだけれど、これが不思議といつもよりもさらに小雪さんの美しさが際立たせていると感じる。
そしてその表情や振る舞いから、岩という女性の温かさや気丈さ、愛情の深さをしっかりと強く感じ取ることができる。
しかしそれは、鋭利なガラスのようにも感じられる、そんな美しさだとも感じた。

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