初開催「あられ、せんべい、いとをかき。」@阪急うめだ本店9階で思った米菓流行の背景 〜「舌触りを楽しむ時代」から「歯触りとASMRを楽しむ時代」へ〜
阪急うめだ本店9階で催されている
初開催
「あられ、せんべい、いとをかき。」
(2026年6月15日(月)まで 最終日は午後5時まで)
に行ってきた。
平日金曜日の午前中にもかかわらず、「米菓子が好きなひとがこんなにいるのか」と驚くほどの賑わいだった。
いぶし銀な企画だと思ったが、この催事は大成功だろう。
一つには、阪急うめだ本店でも初開催というくらい、「あられ・せんべい・おかき」が、言わば盲点をつくテーマだったというのがあるかもしれない。
あられ・せんべい・おかきは間違いなく和菓子なのだが、「和菓子」で真っ先に浮かぶジャンルではないと思う。
よほどの米菓好きでない限り、「和菓子」という言葉から、みたらし団子は浮かんでも固焼きせんべいは浮かばない。落雁は浮かんでもおかきは浮かばない。カステラは浮かんでも瓦せんべいは浮かばない。
★阪急の特設サイトより、「あられ・せんべい・おかき」の定義
おかき・・・もち米から作られる、5cmより大きい焼菓子・油菓子
あられ・・・もち米から作られる、5cmより小さい焼菓子・油菓子
せんべい・・・うるち米から作られる焼菓子・油菓子
→バリッと香ばしい“草加型”
→ソフトに焼きあげた“新潟型”
→しっとりやわらかな“ぬれせんべい”
などがある。
単価が比較的安くちょっとした贈り物にも便利ということもあって(同じ300円でも、袋入りの飴やせんべいはプレゼントしやすいが、上生菓子や大福餅をプレゼントするにはシーンを選ぶ)、まとめ買いでき、結果として客単価を上げやすいという経営的な事情もあるかもしれない。他の和菓子ーー大福や団子、上生菓子の類だと、当日か翌日までに食べないといけないものが多いから客単価は意外と低い。
特に単身世帯や核家族などの家庭にとって、「毎日少しずつ、長く食べられる美味しい米菓」は生活を豊かにしてくれる。あられ・せんべい・おかきは日持ちする商品が多く、原則常温保存できるのもありがたい。
洋菓子に比べて低カロリーなところも健康志向のひとにはうれしいだろう。
またーー個人的には過剰反応の気味がないでもないと思うのだがーー昨今のグルテンフリー指向(小麦粉を原料とした食品の回避)トレンドも追い風になっているように思う。数年前から小麦粉の代わりに米粉を使用した洋菓子が店頭に並ぶようになった。グルテンフリー派にとって、昔ながらの日本の米菓は福音だろう。
日本の和菓子業界を盛り上げたいというのもあるかもしれない。日本のお米の良さ、日本の職人仕事の誠実さに触れてみたい、それらを守りたいというのは、日本人として自然な情感だと思う。
だが、「あられ、せんべい、いとをかき。」の盛況の理由は、それだけではないと思う。
従来の催事で取り上げられたテーマーーあんこやクッキーは、舌触りを楽しむところがある。舌の上で食材がほどけたときの食感やコク、甘みを楽しむところがある。
それに対して、今回のあられ・せんべい・おかきのような、米や小麦で作られた米菓は、歯触りを楽しむところがある。噛みしめることで口の中で生まれる米の旨み、醤油や味噌、香辛料や果物の風味を頼りに、ひとしきり懐かしさに浸る楽しさもある。
時代の嗜好は、「なめる快楽」から「噛む快楽」に移ってきているのではないか。
これは阪神梅田本店の話になるが、期間限定で今ポップアップストアを出店しているカンロのヒトツブカンロ(グミッツェルなど)を求める行列は恐ろしいほど長かった。最後尾は2時間近く待たされるのではないかと同情してしまったほどだ。
グミキャンディも米菓も、噛まないと食べられない。
もう一点。
最近、ストレス解消や睡眠導入に活用されているASMR「Autonomous Sensory Meridian Response(自律感覚絶頂反応)」ーー聴覚や視覚から受ける心地よい刺激によって、脳がゾワゾワとリラックスする現象ーーも、米菓子流行に一役買っている気がする。
あられ・せんべい・おかきの流行と最注目は、食べるというセルフ・コンフォート(自分への慰め)におけるプリミティブな感覚への回帰ーー食の原点回帰の表れではないか。
言い換えれば、原点回帰したくなるほど(心理学で出てくる防衛機制の一つ「退行/子どもがえり」というのは言い過ぎだろうか?)、今までよりも原始的な刺激で心身のバランスを取らなければならないほど、ストレスフルな社会、時代であるということなのかもしれない。
だが、社会や時流についての管見はさておこう。
あられ・せんべい・おかきは、普通に美味しい。
美味しくなければ生き残れるはずもない。
抹茶であれ煎茶であれ、米菓は本当に緑茶に合う。
日本人で良かった、日本で生まれ、日本で育ってきて良かったと思える。
海外のひとに日本の食文化を紹介する機会を与えられたら、わたしは迷うことなく、せんべい・おかき・あられを出すだろう。
ぜひ、阪急うめだ本店の9階催場で、日本の米菓の進化と保守の奇跡的な両立に驚いてほしい。
できれば、阪急の特設サイトでお目当てのお店の予習してから行かれることをおすすめします。できれば。
ちなみに、わたしが購入したせんべい・あられ・おかきは下の通り。
どれも「老舗をかき」のコーナーで購入できる。
ご参考までに。
●田中家せんべい総本家(岐阜・大垣)


●米菓桃乃屋(ももちゃんのおかきせんべい)(大阪・八尾)


●増田米菓(高砂アラレ)(和歌山)


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