建築家は何を「見る力」として鍛えてきたのか── 眼を養い、手を練るということ
住宅設計を始めたころ、右も左も分からないまま図面を描いていた。
そんな時、机の上にいつも開かれていたのが
『眼を養い 手を練れ』(宮脇檀・宮脇塾講師室 編)だった。
そこに書かれている一言一言が、
迷いながらも前に進む自分を導いてくれた。
「敷地を読む」「光を感じる」「空間を観察する」——
それは単なる設計技術ではなく、ものを見る“眼”を養い、手で考えることの大切さを教えてくれる言葉だった。
本の概要と魅力
この本は、住宅設計を志す者に向けて書かれた“実践の書”だ。
紙面には、敷地やまちなみの読み方、家具と空間の関係、光の入り方や陰の扱いまで、住宅を「生活の場」として捉えるための基本が詰まっている。
中でも印象的なのは、随所に添えられたイラストとスケッチ。
線一本、陰の描き方一つに至るまで、設計者の思考の流れが感じ取れる。
それらは当時の私にとってまさに“お手本”であり、模写を通して建築を理解することを覚えた。


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宮脇檀という建築家
宮脇檀は、戦後の日本で住宅建築を生活の中心として捉え直した建築家だ。
彼の設計は、単なる「家づくり」ではなく、「人の暮らしとまちの関係」を設計することに重きを置いている。
大学で開設した「住宅設計塾(居住空間デザインコース)」では、自ら学生を率い、敷地に立ち、スケッチを描き、模型をつくる——そのすべてを通じて「眼を養い 手を練る」教育を行った。
それは、図面の上で考える前に、
現場で“空気を読む”設計者を育てる教育だった。
“眼を養い 手を練れ”の意味
この言葉には、設計における二つの柱が込められている。
眼を養う——よく見ること。
土地の傾斜、風の流れ、光の向き、そしてそこに暮らす人々の気配。
図面の上ではなく、実際の風景の中で“感じ取る力”を磨く。
手を練る——手を動かすこと。
スケッチを描き、模型をつくり、素材を触り、線を引く。
手を通して初めて、思考が形になる。
つまり「設計とは、頭で考えることではなく、身体で感じること」。
この考え方こそ、宮脇の設計哲学の核心であり、
今も設計者の根幹に息づいている。
私にとっての“原点”
この言葉は、いまも私の仕事の支えであり、心の指針だ。
新しいプロジェクトに向き合うとき、思うように形が見えてこないとき、
ふとこの本を開くと、そこに描かれたスケッチが静かに語りかけてくる。
「まず見よ。そして、手を動かせ。」
その声に背中を押され、私は再び鉛筆を握る。
吉村順三氏の「簡素で気持ちよい場を」という言葉とともに、
宮脇檀の思想は、自分の設計哲学の根になっている。
結びに
『眼を養い 手を練れ』は、設計を学び始めた人にとっても、
長く設計を続けてきた人にとっても、
「原点を思い出させてくれる一冊」だと思う。
どんなに時代が変わっても、建築は“見る力”と“手の力”でつくられる。
この本は、その当たり前のことを静かに、しかし確かに教えてくれる。
眼を養い 手を練れ——
今日もまた、その言葉を胸に、スケッチブックを開く。

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