見出し画像

【長編ホラー小説】地元の幽霊#14

幽霊

「でも、そんな……」
 言葉に詰まった。夕方に待ち合わせて以来ずっと佐々木と一緒だった。今朝事故に遭ったなんてありえない。
「田中君、どういうことなの? 何があったのか話してちょうだい」
 佐々木の母親は迫るような勢いで懇願した。
 午前中に佐々木から電話があったこと。夕方に顔を合わせ、ファミレスで食事をしながら話をしたこと。豊田の廃工場に肝だめしに行ったこと。途中で佐々木の姿が見えなくなったこと。田中は一連の出来事をかいつまんで説明した。
 話しながら舌がもつれた。震えてくる体をどうすることもできなかった。佐々木は今朝、死んでいたのだ。
 俺は死んだ佐々木と会っていた。つまり、幽霊とファミレスで飯を食い、豊田の使われなくなった工場に肝だめしに行った。
 恐怖に震えながらも、田中は、佐々木の死を完全に受け入れることはできなかった。
 今日会った佐々木は、振り返ってみても、どうしたって生きている人間としか思えなかった。あれが幽霊なわけがない。
 しかし翌日斎場で、棺に横たわるもの言わぬ佐々木と対面して、彼の死を受け入れないわけにはいかなかった。
 田中は佐々木の霊と会い、肝だめしに行った。
 廃工場に現れた中年の男は、噂で囁かれる用務員の幽霊だったのだろう。その噂を教えてくれたのは佐々木の霊なのだが、ネットで調べてみると廃工場と用務員の実話は確かに存在した。
 佐々木の姿が消える前にカップルと思われる男女が肝だめしに来たが、おそらく彼らも生身の人間ではないと考えて差し支えないだろう。
 あの時廃工場にいた田中以外の全員が存在しない人間、すなわち幽霊だったという結論になる。
 田中がテレビ局で働くようになったあと、番組制作に協力してくれた、ある霊能者と話をする機会があったそうだ。
 その霊能者にこの話をすると、あの二人は以前廃工場に肝だめしに来たことのあるカップルで、後に二人とも事故で亡くなっているのだと告げられた。
 海水浴に行き、まず女の子のほうが溺れ、助けに入った彼氏も波にさらわれて亡くなったとのことだった。霊能者にはその時の情景が見えるのだという。
 その後、廃工場は取り壊されて更地になり、現在その跡地は駐車場として使用されているようだ。
 田中は当時使っていた携帯電話を今でも持っている。着信履歴には、午前中に佐々木から電話がかかって来た時間が確かに記録されている。佐々木の母親から聞いた彼が亡くなった時刻は、その一時間ほど前だった。
 あの時亡くなっていたはずの佐々木は、一体どのようにして電話をかけてきたのだろうか……。


いいなと思ったら応援しよう!