【長編ホラー小説】地元の幽霊#12
逃げる!
ぶつかるようにフェンスに取りすがり、がしゃんがしゃんと激しく音を立てながらもつれる手足を懸命に動かして上っていった。
天辺をまたいで反対側に体を入れ替え、フェンスの半ばからアスファルトの路面に飛び降りた。上手く着地ができずに足が痛んだが、気にしている余裕などない。
街灯に照らされた夜道を全力で駆け出した。絶対に後ろを振り返らず、大通りを目指して懸命に走った。
霊だった。あの男は噂の用務員の幽霊に違いない。
猛ダッシュで大通りへ出て、車が通り過ぎる横を駅に向かい走っていった。
佐々木を置いてきたことは意識から除外されていた。それどころではない。あの男が追いかけてくるかもしれない恐怖に、がくがくと震えが止まらなかった。安易に肝だめしなどするのではなかった。田中は軽率な行動を心から悔やんだ。
駅まで半ばといった辺りまで走ってくると、はじめて首を捻って後ろを確認した。車道を走る車のヘッドライトは通っていくが、歩道には人の姿が少ない。工場の用務員らしき男の姿はない。走るのを止めて、深呼吸をしながら早足で歩いた。ここまで来ればもう追ってくる心配はないだろう。
いくらか余裕が出てくると、佐々木の消息が気になった。
もしや佐々木もあの男に脅されて帰ったんじゃないだろうか、と田中は思った。カップルの二人も同じく恐怖におののいて帰ったのかもしれない。そう考えるとつじつまが合う。
三人の姿が突然消えたのは、あの幽霊に脅されて逃げたからだったんだ、と確信した。田中が工場の外にいたとき、三人が外へ出てくる姿は見ていなかったが、別の出口から逃げたのだろうと推測した。
前方に交差点が見えた。右に曲がれば駅の北口へ続く通りに出る。横断歩道の手前で信号待ちをしている人が数人いた。彼らの姿を見て安堵し、ゆっくりと歩いていった。あの中に佐々木がいるかもしれないと視線を走らせてみたが、それらしい姿はなかった。
田中は交差点を右に折れた。通りに沿ってカフェや薬局や定食屋やシャッターの閉まった銀行が並んでいる。その先はバス停のある駅前ロータリーだった。
まだ息が苦しく胸が上下しているが、冷静に思考できるようになっていた。
佐々木は用務員の幽霊に会い、逃げ出す際に携帯を落としたのだろう。田中は、佐々木が電車には乗らず豊田駅で待っているかもしれないと期待した。だが駅前にたどり着いて周囲をさがしてみても、階段を上がって改札前に行ってみても、佐々木の姿はどこにもなかった。
恐怖に怯えて真っすぐ家に帰ったのだと考え、自宅まで携帯を届けにいくことにした。田中は自分が下車する駅をやり過ごして、二つ先の駅で電車を降りた。
佐々木の家には高校時代に何度か遊びにいっている。駅からの道順は覚えていた。
時刻は十時になろうとしている。急ぎ足で住宅の並んだ裏道を進んだ。駅から徒歩で十分もかからないはずだった。
