【長編ホラー小説】地元の幽霊#18
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今の俺には趣味というものがない、と気づいた。
高校時代まではお笑い番組を観たり、マンガを読んだり、それこそ古文の授業で森本が語ったような怪談を読んだり聴いたり、また心霊系のユーチューブを観たりするのも、趣味というほどではないが普通に楽しんでいた。
それが、浪人してからは勉強一本やりになっている。
一学期が終了したばかりなのだから、今日はもう勉強は止めにしようと思い直した。問題集を閉じてバックにしまった。
スマホを手にして、見たいページはないかと考える。すぐに指が動いた。
「豊田 廃工場 幽霊」
と入力して、検索ボタンを押す。
森本の怖い話は本当なのだろうかと思ったのだ。世間に知られた心霊スポットなら検索に引っかかるはずだ。
画面が変わり、検索結果が表示される。
一番上は、愛知県豊田市の心霊スポットに関する見出しだ。その下、二つ目のタイトルに目が留まった。
「○○製作豊田工場跡で、中年男性の霊を目撃」
これだ、と春彦はその見出しをクリックした。ホームページに画面が変わる。
『霊感ゼロの怪奇探検家』
というのがサイト名のようだ。
「心霊マニア、霊感ゼロのタカオ・タサカが、現場に直行! 体を張って幽霊とのコンタクトをレポートします」
と、サイトのコンセプトが書かれている。その下に、
「豊田幽霊工場跡地」
の紹介記事が載っている。
ページには画像が掲載されている。顏に犬の絵が張り付けてある黄色いTシャツを着た男が、だだっ広い駐車場の前に立って写真に収まっている。彼がこのサイトを作っているタカオ・タサカらしい。顔が犬の絵で隠されているのでよくわからないが、体つきや服装からして二十代半ばからか三十代前半といった印象だ。
「以前、テレビの心霊番組で特集していた廃工場ですが、すでに解体されて跡形もなくなっていました。番組では実際に幽霊を目撃したというディレクターが出演して、体験談を語っていました。なんでも、この工場で働いていた用務員のおじさんが亡くなっていて……」
以下に続く文章は、今日森本が話していた内容と酷似していだ。
春彦はぴんときた。タカオ・タサカの言う、テレビに出演したディレクターとは、森本の教え子であり、仮名で田中と呼んでいた人物に違いない。確か森本は、教え子はテレビ局でプロデューサーをしていると言っていたので、タカオ・タサカが間違えているのかもしれない。
タカオ・タサカの記事の続きを読むと、幽霊だと判明するカップルがやって来るところや、用務員のおじさんの幽霊に声をかけられるくだりなどが森本の話と共通していた。大きく違っているのは、佐々木という友人と一緒に工場に行ったとは書いていないところだ。
あくまでディレクター(プロデューサー?)が大学時代に、一人で肝だめしに行ったことになっている。
番組の構成上複雑になり過ぎるので省いたのか、テレビで自分の亡くなった友人について話すのがためらわれたのか、それとも森本に語った話にフェイクが混ぜられていたのか、いずれにせよ記事を読むだけでは真実を知ることはできない。
怪談には、こういった「編集」が多いように春彦には思われた。
同じ話でも、話し手が違うと、内容も変わっていることさえある。それどころか、同じ話し手が同じ話を語る場合でも、内容に違いが見られるケースすらある。同じ話なのに、テレビでは三人で肝だめしに行ったと語っていたが、書籍では二人で肝だめしに行ったと記述されていたことがあった。やはりそこに、ある種の演出の存在を認めないわけにはいかない。
春彦としては、本当は友人の佐々木は存在せず、加えてカップルも幽霊ではなくあくまで現実の人間だった、というバージョンが事実なのではないかと推測している。
廃工場にいた霊はあくまで用務員のおじさんだけだった。せいぜいカップルも幽霊だったというケースがあったとして、ぎりぎり事実の体験として受け入れられる許容範囲だろう。
やはり幽霊と一緒に肝だめしに行くとなると、話が出来過ぎていると疑いを持たずにはいられない。
スマホをテーブルの上に置いた。
一つ大きく息を吐き出す。
怪談について頭を悩ませても仕方がない。同じ脳細胞を使うなら、英文読解や、現代文の難解な評論を読み解くために使うべきだ。
今晩は外食で済ませてあるので、まだ時間に余裕がある。しばらくこのカフェでゆっくりして頭を休めようと思った。
春彦は立ち上がり、アイスコーヒーのお代わりを注文するためレジに向かった。
