「ようこそ」 4日前、地球に産まれたあなたへ。
娘へ
君はまだ文字を読むことはないが、冷静でない今のうちに、父の気持ちを表明しておく。
冷静ではないが、本心である。
誕生おめでとう。
地球にようこそ。
地球は、分かっている中で
宇宙で最も素敵な星だ。安心してほしい。
白状すると、父は誤っていた。
周囲に
「お前は娘を持つとダメになる」
と揶揄されるたび、こう反論していた。
分かってないな、むしろ娘に対しては
厳格な父であろうと心を強くする、
決して甘やかしはしないのだ、と。
しかし、白旗をあげることにする。
あれは妄言だった。
もう「溺愛」は避けられそうにない。
初めて抱いた時のその重み。
開いた目のみずみずしさ。
君は、父にとって、幸福そのものだ。
妻と、息子2人と、産まれたばかりの妹。
人生で最も甘美な時間が、今こそ始まる。
父はそう予感した。
兄たちは、態度に見えなくなるかもしれないが、
君のことを大切に思っていて、
手を伸ばせば、必ず助けてくれるはずだ。
母は、尽きることのない愛を君に捧げ、
誰よりも君の幸福を願っている。
ときには君の手本となり、友にもなるだろう。
父は…どうだろう。
できることなら、
これから君の身にふりかかる悲しみや痛み、
理不尽の全てを引き受けたい。
ただ、君が気負うことはない。
君の幸せは別にあり、
それは大概、父から離れた場所にある。
それに、豊かな人生を得るために
君に必要な経験というものが、
ときに厳しく、苦しいことも知っている。
覚えておいてほしいのは、
この世にいると、沸き立つような感動が
心身を満たすことがある、ということだ。
それは、今まさに
父が君を見て感じているものである。
そんな幸せを、君は、君の足で、
これから探しに生きるのだ。
父や母がそうしてきたように。
父は丘になり、ここで君の母を守る。
いつでも君が安心して戻ってこれる
この場所を死守する。
父は、今ここに表明する。
2025.9.20
収蔵No.022

