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何かを始める前の、何も起きていない時間

昼間の光は、もう春の顔をしている。ような・・・

けれど、
わたしの体はまだ追いついていない。

窓辺に立つと、空気の奥にやわらかな気配を感じるのに、
朝晩の冷えはまだ確かで、
指先はどこか冬のまま。

外の季節は、ゆっくりと動きはじめている。
自分の内側は、まだ静かにとどまっている。

周りでは、何かが始まりそうな気配がする。
新しい計画。
新しい目標。
新しい季節。

その横で、
わたしはまだ、何も始めていない。

動きたいわけではない。
けれど、動いていないことに、少しだけ落ち着かない。

焦り、というほど強くはない。
ただ、胸の奥に小さな波が立つ。

2月の後半は、
そんな時間なのかもしれない。

春は来ている。
でも、まだ芽吹かない。

種はいつも、
地上に出る前に長い時間を過ごす。

土の中で。
光の届かないところで。

何も起きていないように見える時間。

けれど、
見えない場所では、
何かがほどけ、
何かが結ばれている。

芽が出る瞬間だけが「始まり」なのだろうか。

もしかしたら、
芽が出るまでの時間のほうが、
ずっと深く、始まっているのかもしれない。

何も決まっていない。
何も形になっていない。
何も動いていない。

それは、止まっているのではなく、
まだ外側に現れていないだけ。

わたしたちはつい、
目に見える変化に安心し、
目に見えない時間を、不安に思う。

けれど。

体がまだ追いついていなくても、
気持ちが春に向かっていなくても、

言葉にならないままの何かを、
ただ抱えている時間があっても。

それはきっと、
芽吹き前。

何も起きていない時間が、
いちばん深く動いている。

だから今は、
無理に始めなくていい。

まだ動かなくてもいい。

決めなくてもいいし、
誰かに説明しなくてもいい。

外に見せる前の時間を、
自分のために、
静かに持っていればいい。

2月の終わりにある、この空白を。

春に向かう途中で、
まだ芽吹かない時間を、生きている。

空白は、
失われた時間ではない。

やわらかな助走。 

3月から、
旅する香りの日記を、また少しずつ。

これまで書いてきた季節の記録も、
どこかで静かにつながっている。

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