「次やったら、〇爆な」── ミラノの経理おじさん
ミラノの会社で働きはじめた頃、僕には分からないことが、言葉以外にもうひとつあった。 それは——いま自分が、叱られているのか、冗談を言われているのか、ということ。
イタリア人は、とにかく表情もジェスチャーも大きい。声も大きい。 だから新米の僕には、ただの世間話なのか、本気の説教なのか、区別がつかなかった。 その筆頭が、経理のジャンカルロだった。
——初めて言われたとき、正直、心臓が止まりかけた。 原爆。 日本人にとって、その二文字がどれだけの重さを持っているか。彼は、たぶん知らない。

でも、何度かやりとりするうちに、だんだん分かってきた。 ジャンカルロの「原爆落とすぞ」は、彼にとって最上級の「頼むから、もう間違えないでくれよ」だったのだ。 大げさに言って、バンと肩を叩いて、ガハハと笑う。それが、彼なりの距離の縮め方だった。
言葉の重さは、国によって、まるで違う。 日本人なら、絶対に選ばない言葉。 それでも、その不器用すぎる大げささの奥には、ちゃんと僕を気にかけてくれる温度があった。
……とはいえ。 日本人の僕に、その冗談はやっぱり、ちょっとだけ重かったです。
次回は、仕事中でもおかまいなしに恋人へ電話をかけ続ける、自由すぎる同僚たちの話を。
