チップは、おつりごと ── 憎めないミラノの同僚たち
キッチンカーで、パニーニを買った。 会計のとき、どうも値段が、地元の人より高い気がした。 思い切って理由を聞くと、店主はにやりと笑って、こう言った。 「お得意さんになったら、安くしてあげるよ」
——なるほど。僕はまだ、「お得意さん」ではないらしい。 妙に納得はしたものの、毎回この値段差を払うのは、正直、しゃくだった。 会計のたび、財布より先に、心がひやっとする。 海外で暮らしたことのある方なら、この感覚、うんうんと分かってもらえるかもしれない。
そこで、一計を案じた。 イタリア人の同僚に、代わりに買ってきてもらうのだ。 これなら、外国人価格を払わずに済む。我ながら、名案だと思った。
作戦は成功——のはずだった。
戻ってきた同僚は、パニーニだけを僕に渡し、おつりを渡してくれない。 「あれ、おつりは?」と聞くと、彼はけろっとした顔で言った。 「買いに行ってあげた、チップだよ」
……

チップの習慣は、頭では分かっていた。 分かっていたけれど。 外国人価格を避けたくて頼んだはずが、結局、「同僚チップ」という名の手数料を払っている。 どっちにしても、僕のランチは割高なのだ。 釈然としないまま、しばらくのあいだ、お昼のたびに僕の胃は消化不良気味だった。
それでも——彼らを、嫌いにはなれなかった。
一度仲良くなってしまうと、今度は、おせっかいなくらい世話を焼いてくるのだ。
少し咳をしただけで、「風邪か? これを飲め」と、謎の飲み物を差し出してくる。 道に迷えば、暇なのか何なのか、目的地のすぐ近くまで、わざわざ一緒に歩いてくれる。 集合写真を撮ろうとすれば、頼んでもいないのにカメラを取り上げ、 「そこじゃない、もっと寄れ」「顔はこっちだ」と、構図まで指図してくる。
損得勘定は、驚くほどしっかりしている。 かと思えば、見返りなどまるで考えず、お節介を焼いてくる。 この振れ幅の大きさこそが、彼らの本当の姿なのだと思う。
チップは、ちゃっかり取られる。 でも、風邪をひけば、本気で心配してくれる。 そのアンバランスさごと、僕はいつのまにか、彼らを好きになっていました。
