なぜ民主社会主義を名乗る人物がニューヨーク市長に当選したのか

民主社会主義を名乗る人物が ニューヨーク市長になった。これまで共産主義や社会主義を蛇蝎(だかつ)のように嫌っていた国、アメリカで、少なくとも「社会主義」というフレーズが入る主義主張をもつ人物が当選するとは、隔世の感。でも、不思議とは思わない。
https://news.yahoo.co.jp/articles/6bb64c995e92cb214539df28a6a6cd9d800a932a

第二次大戦後のアメリカだけを見ていたら、アメリカと共産主義・社会主義は真っ向から対立するように見えるけど、戦前のアメリカではかなり共産主義勢力が強かった。なぜか。戦前のアメリカは、貧富の格差が非常に大きかったためだ。

チャップリンのモダンタイムスなんかを見ると、アメリカでも工場労働者は低賃金で生活するのも苦しかったことがうかがえる。「怒りの葡萄(ぶどう)」という小説でも、小規模農家ではやってけないと、町で工場労働者になろうとするけれど、低賃金過ぎて生活に苦しむ姿が描かれている。

戦前のアメリカは、資本家と労働者で貧富の格差が大きく、その怒りがマルクス主義者をたくさん生み出すことになった。もしアメリカが貧富の格差問題に手を付けていなかったら、アメリカも共産主義国になっていた可能性が十分にあった。

アメリカが共産主義国にならずに済んだのは、ケインズ経済学を採用したから。ケインズは、富裕層には多くの税負担を求め、低賃金労働者に「再配分」する社会システムを構築することで、貧富の格差を小さくすることを目指した。アメリカはこれを見事に実行し、成功した。世界一豊かな国に。

ケインズ経済学は、西欧や日本など、いわゆる「西側」諸国で採用され、お金持ちからお金をとって、貧しい人たちに再配分する社会システムにすることで、分厚い中間層を育て、全国民的に豊かな生活を享受できる国にした。
ではなぜ、欧米や日本の金持ちは、高い税金を容認したのか?

「殺されるよりはマシ」と思ったからだろう。ソ連など共産主義化した国では、金持ちは全財産を没収されたあげく、シベリア送りなどにされ、事実上殺された。共産化したら全財産を失うだけでなく、命まで奪われてしまう。資本主義国のお金持ちは恐怖した。

そこで、税金はたっぷり取られるかもしれないけど、一応相対的にはお金持ちのままでいられて、命も失わずに済むケインズ経済学の採用を容認した。「マイルドな社会主義」と言えるケインズ経済学をアメリカなど先進諸国が採用したのは、「共産主義よりマシ」と考えたから。

その後、共産主義国は次々に破綻。完全平等を目指したため、頑張って働いた者もサボった人間も同じ給料となり、手を抜く人間だらけとなった。また、計画経済を採用したけど、経済なんて計画通りにいくはずがない。いろんな所で現実的にうまくいかず、共産国は軒並み貧しくなった。

他方、西側先進国は、ひどすぎる格差は是正するけど、相対的な金持ちがいることは否定しないし、頑張った人間はそれなりに高給取りになることも否定しないケインズ経済学のおかげで、経済の活気は失わず、しかも全国民的に豊かになれたので、共産国は「私たちも資本主義国に」と望むようになった。

ところが。そうした共産国の失敗を見越してか、西側先進国では「お金持ちの復権」を目指す動きが加速し始めていた。フリードマンはケインズ経済学を「社会主義」と批判、毛嫌いし、金儲けに国民全員が走ればいいという新自由主義を掲げ、イギリス、そしてアメリカがケインズ経済学を捨て始めていた。

多くの共産国が崩壊した時、本当ならケインズ経済学を採用するはず、だった。もしそれが実現していたら、旧共産国も貧しさから抜け出し、豊かな国になれていたかもしれない。しかし、当時、世界の頂点にいたアメリカは、レーガン大統領という新自由主義者が支配していた。

このため、多くの人々が「先進国は新自由主義によって豊かになった」と勘違いしてしまった。実態は違う。戦後、西側先進国が豊かになったのはケインズ経済学のおかげ。なのに、アメリカは巧みに新自由主義を豊かになるための手段だと信じさせ、それに成功した。

しかし新自由主義は、どれだけ理屈や言い訳を並べ立てようと、「金持ちが好きなだけ金儲けし、貧乏人は食い物にされ、搾取される」社会システム。戦前のアメリカを支配した自由主義と何ら変わらない。理屈を充実させただけだと言える。

新自由主義は、お金持ちに高い税負担をしてもらうケインズ経済学さえも「社会主義」だとして非難する。みんな金儲けに奔走すればいいのだ、うまくいかないやつは能力がないのだから自己責任、見捨てればよい、という発想。まさにこの発想でアメリカはここ数十年運営されてきた。その結果。

一兆円を軽く超える資産をもつ超富裕層がいるかと思えば、食料の配給を受けなければ生きていけない貧困層が増え、貧富の格差が拡大している。一所懸命に働いているのに、お金持ちから「お恵み」をもらわないと生きていけないという、誇りを奪われた生活を余儀なくされている。しかし。

実は、労働者がそんなに貧しいのは、労働者が受け取るべき報酬を減らし、その分のお金をお金持ちが搾り取っているから。いわゆる搾取。
労働者への給料は減らし、浮いたお金を株主に還元する。株をたくさん持っているお金持ちは、働かなくても左うちわでお金を手に入れられる。まさに搾取。

それでいて、捨てる直前の食料を配る活動に寄付することで、お金持ちは貧困層に「お恵み」をしている格好。でも違う。お金持ちが持っているそのお金は、もともと労働者に支払われるべき給料だったもの。それを強奪した盗賊が「恵んでやる」と言ってるような構図。

私は、新自由主義の経済システムは「合法的盗賊」を生み出すシステムだと思う。合法的に労働者の稼ぎをはぎ取り、お金持ちが自分の利益とする社会システム。確かに彼らは法律通りに活動している。しかし問題は、盗賊行為を合法だとしている法体系にある。新自由主義はここの設計が実に巧い。

マイケル・サンデル氏やトマ・ピケティ氏は、こうした「合法的盗賊」を認めてしまう社会システムを問題だとして批判している。私もそうだと思う。マジメに働いている人間が貧しくて、株を持っているだけで働きもせずに金持ちがさらに金持ちになるシステムはおかしい。

こういう批判をすると「投資にリスクは必要。リスクを取っているのだからリターンは当然」と主張する人間がいるけど、生活に支障の出ないよう、肝腎のお金は大事にとっておいた上で、失ってもいい金額のお金だけ投資してるのだから、リスクなんか全然取っていない。なのに労働者は。

真面目に働いているのに、病気になったら全てを失うリスクにさらされている。労働者のほうがはるかにリスクに置かれ、金持ちはリスクを取らずに済ませている。「投資リスク」はヘリクツでしかないと私は考えている。

さて、貧富の格差が戦前より増して拡大したアメリカで、「民主社会主義」を名乗る人物が登場したのは、当然といえば当然。トランプ氏は「共産主義者」と批判しているようだが、たぶんケインズ経済学あたりの、「マイルドな社会主義」をニューヨーク市長は目指していると見てよいだろう。

気になるのは、民主党の動き。民主党は実は、超お金持ちを支持者に持つ党。民主党の超お金持ちは、アメリカの有名大学に(恐らくお金の力で)入学し、世界の優秀な人材を留学生として迎え入れ、卒業時にはベンチャー企業を立ち上げさせ、彼らにお金持ちは投資する。すると。

元留学生の移民たちは資金を手に入れて起業でき、お金持ちは彼らと同級生になることで「学力ロンダリング」ができ、賢いフリができ、しかも移民が立ち上げたベンチャー企業が大儲けし、投資したお金を何倍にも増やしてくれる。移民とお金持ちのウィンウィンの関係。これが民主党の力の源泉でもあった。

しかし、貧富の格差がひどくなりすぎ、民主党を支持するお金持ちは、次第に批判の的になり始めた。また、トランプ大統領は、民主党の力の源泉であるハーバード大学など有名大学を狙い撃ちし、「移民と(民主党的)お金持ちの結託」ができないようにし始めた。まあ、自業自得感。

民主党は、ニューヨークの超富裕層を優遇する政策を取り続けすぎて、労働者を貧しくし、労働者たちの支持を失いつつある。民主党がもう一度人気を得るには、貧富の格差を是正し、労働者が豊かに生活できる社会システムを提案する必要がある。

実は、貧富の格差是正という意味では、大いに歪みがあるものの、トランプ大統領の独壇場にこれまでなっていた。他の主要な政治家は、民主党も共和党も金持ち優遇策ばかりで、労働者など眼中になかった。そんな中、労働者に目を向けたトランプ氏が大統領になるのは当然の流れのように思える。

しかし、トランプ氏自身がお金持ち。また、Facebookやアップルなど、GAFAMの経営者たちがトランプ氏の大統領就任パーティーで雁首そろえたことでもわかるように、トランプ大統領は、労働者に多少の還元はするものの、基本的に金持ちに有利な政策を続けるのが本音のように思われる。

それでは、アメリカの労働者はいつまでたっても貧困から抜け出せない恐れがある。アメリカでもう一度、全国民的に豊かになるには、ケインズ経済学のような「マイルドな社会主義」が必要だと考える人が増えてくるだろう。ニューヨーク市長は、その皮切りになったように思われる。

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