パクチーは、いつ主役になったのか
冷凍餃子があるありがたさ
私は、餃子は断然手作り派でした。けれど最近は、たまに冷凍餃子にも頼っています。
自分で作る、ニラたっぷりの餃子が一番好き。でも、これがなかなか大変です。餃子の皮26枚に合わせて餡を作り、ひたすら包む作業は、かなりの労力。やる気と時間があるときは餃子に挑みますが、そうでない日は冷凍で済ませます。
「絶対に手作り!」という気持ちを手放してから、暮らしがだいぶ楽になりました。
子どもの頃、餃子は酢醤油で食べるものでした。中学生くらいになると、ラー油を入れる技を覚えます。大人になってからは、酢胡椒を真似してみたり。最近のお気に入りは、自分で作るパクチー醤油です。たっぷりのパクチーを刻んで餃子に合わせると、これがとても美味。
パクチーとの出会い
そういえば、私はいつからパクチーを食べているんだろう。
子どもの頃には、知らなかった食べ物です。
私の世界にパクチーが入ってきたのは、大学生だった90年代のタイ料理ブームの頃でした。
高校時代まで、タイ料理なんて食べたことがなかった私。大学近くのエスニック料理店ではじめて出会ったパクチーは、添え物みたいな存在なのに、妙に存在感がありました。忘れられない味です。
私は小さい頃から薬味類が好きでした。春菊を好み、菜の花やウド、フキの季節を楽しみにするような子どもだったので、パクチーもすんなり好きになりました。
一方で、苦手な人も多かった。
みんな決まって、「カメムシみたい!」と言うのです。
でも、そのたびに思いました。
「カメムシ、食べたことあるの?」
私は触ったことも、見たこともないよ。あなた、都会育ちでしょ。そんなふうに心の中でツッコんでいました。
エスニック料理の脇役だった頃
2000年代に入っても、パクチーはまだ「エスニック料理の添え物」という存在な印象でした。
コリアンダーという名前でインド料理の主要スパイスだったり、中華料理ではシャンツァイと呼ばれていたり。そういう知識は増えましたが、まだ“エスニック”という大きなジャンルの一角にいる存在でした。
ベトナム旅行が流行り、生春巻きが定番になり、シンガポールチキンライスが人気になっても、主役は別にいました。パクチーは、まだ脇役です。
2000年代当時は、普通のスーパーでは取り扱いがないことも多く、たとえば、「チャイニーズチキンサラダを作りたい」と思っても、まずパクチー探しから始まりました。
Instagram時代の「パクチスト」
そんなパクチーが一気に勢いを得たのは、Instagramが広がり始めた頃だった気がします。
Facebook時代との境界線が曖昧な流行として、パンケーキやエッグベネディクトを思い出します。でも、パクチーは特にInstagramとの相性が抜群でした。
2014年から2016年頃の、あの“パクチー狂想曲”。
あれは単に「味が好まれた」だけではなく、Instagramというプラットフォームが持つ「視覚的な拡散力」が大きかったのだと思います。
麺や肉が見えないほど、こんもり盛られた「パクチー爆盛り」。鮮やかな緑色と圧倒的なボリューム感は、とにかく写真映えしました。
ちょうど「インスタ映え」という言葉が定着し始めた時代。料理には、驚きや過剰さが求められていました。
パクチーは、その条件にぴったり合っていたのです。
「好き」を記号化する食べ物
この頃、「パクチスト」という言葉も生まれました。
Instagramでは、#パクチスト や #パクチー部 といったハッシュタグを通じて、同じ嗜好を持つ人たちがつながっていきます。
#カレー部や#生姜部のようなタグもありましたが、写真として見ると地味。パクチーは違いました。
写真とタグを組み合わせたとき、「私はこれが好き」という自己表現として、非常に強い記号になったのです。
好き嫌いが分かれる食材だからこそ、“自分らしさ”の演出にも使いやすかった。
さらに、モデルやインフルエンサーたちが「デトックス効果」「美容にいい」といった文脈でパクチー料理を投稿したことも大きかったと思います。
それまでの「エスニック料理界隈の一食材」から、「意識の高い大人が選ぶヘルシー食材」へ。パクチーのイメージは、大きく変わっていきました。
パクチーが主役になった時代
Instagramがデビューした2014年頃からは、パクチー専門店が増え始め、山盛りサラダがSNSで話題になりました。
私の周りにも、“パクチー女子”がわらわらと現れます。
「そんな食べ方する?」
と思うような妙な組み合わせまで登場しました。当時の違和感を具体的に思い出せないのが、ちょっと悔しい。いろいろやりすぎていたんだよね。
料理を食べる前に、まず写真を撮る、あの時間。
Facebook時代の「パンケーキと私」だった構図が、Instagram時代には「パクチーそのもの」へ変わっていったのは、大きな変化でした。
2016年には、ぐるなびの「今年の一皿」にパクチー料理が選ばれます。パクチーは、社会現象になりました。
あの頃は、Instagramを開けば、誰かがパクチーを食べていました。
「スマホで撮って共有する」という新しい食文化が、パクチーを“薬味”から“コンテンツ”へ押し上げた。今振り返ると、そんな時代だった気がします。
古参ファンの母心
今では、スーパーのハーブコーナーに普通に並び、八百屋さんでは束で売られているパクチー。
その姿を見るたびに、私は少し誇らしい気持ちになります。
日本でまだヨチヨチしていた頃のパクチーを知っているからでしょうか。
「すっかり人気者になっちゃって」
そんな、古参ファン的な母さんみたいな感情が湧いてくるのです。
スーパーで、まばゆい存在感を放つパクチーを見るたびに、なんだか鼻高々になるアラフィフ。
餃子をパクチー醤油で食べる世界線に幸せを感じています。

50代の三種の神器。
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