見出し画像

肉球の汗。昭和の夏。

クーラーのない夏休み

昭和50年代、小学生の頃、実家にはクーラーがありませんでした。扇風機のみ。それでも夏を凌げました。神奈川県の海辺の住宅地は、朝晩は涼しかったし、日中も簾越しに涼しい風が吹くこともありました。

南向きのリビングや子供部屋は暑いので、夏休みは、直射日光が当たらず、風が抜ける玄関に机を移して座布団を敷いて昼ごはんを食べることがよくありました。玄関をあけると二人の子ども。側から見たらおもしろいですね。近所の方も慣れていて、玄関に座って、母とおしゃべりしていました。
それでも暑い真夏日の午後は、プールに行ったり、図書館に涼みに行ったり。塾の夏期講習も涼しいから好きでした。行き帰りの電車も涼しかったし。
昭和の夏は、クーラーなしでも普通に暮らせたのです。

暑いのは猫も同じ

夏が大変なのは人間だけではありません。猫も暑くて大変です。
小学四年生の春から猫を飼い始めて、中学生の頃は猫を2匹飼っていました。
キジ猫のアリスと、その娘で、和顔シャム猫のリラちゃん。柄も目の色も体格も違う母娘。リラちゃんは他所のお宅に半年くらい住んだ出戻り猫、二人には親子の記憶がなくて、仲が悪いメス猫同士でした。とくにアリスが、リラちゃんを侵入者とみなして、攻撃をしかけていました。

仲が悪い二人は、ふだんは距離をとって生活しています。リビングのピアノやサイドボードの上など高い場所はアリス、リラちゃんは父の書斎の和室。日向ぼっこが好きな二人の拠点は南向きで、日差しが入って暑い。
子どもたちが玄関に避難するような暑い日は、猫にも暑いので、2匹も玄関に移動します。アリスは冷たい玄関タイルの上、リラちゃんは風が通る廊下へ。2匹ともだらーんと伸びて過ごします。いつもより近づいているけれど、喧嘩にはならない。

二人とも毛皮を着て暑そう。撫でるのも暑いので、たまに名前を呼びます。二人とも尻尾と耳の動きでお返事。柄も目の色も似ていない親子ですが、反応はそっくりでした。
あと、甲子園のサイレンの音がすると、イカ耳になるところもそっくり。テレビがある部屋が暑いので、ラジオで甲子園を聴いていました。上宮高校の元木の打順になると、テレビを観に行く。笑

肉球にかく汗

暑い日には、2匹とも肉球に汗をかいていました。肉球がうっすら湿っているのです。団扇で仰ぐと目を細めました。涼しくなったのでしょう。

夕方になると机を片付けます。涼しい時間になると、アリスは自分のテリトリーのパトロールに出かけ、リラちゃんも和室に戻って、父の机の上や床の間などひんやりするところでくつろぎます。

夏の喧嘩と仲裁

夏は、リラちゃんのテリトリーの書斎のドアも開け放しているので、アリスが和室の書斎に侵入することがあり、二人は喧嘩をして、家中を走り回りました。
女子猫が悲鳴を上げながら、取っ組み合いの喧嘩をする。小柄なアリスに追い詰められたゆったりボディのリラちゃん。白い毛がふわりと舞います。あんな毛が密集した毛皮を着ているんだもん、暑いよね。
だいぶひどい喧嘩になったときには、母が「やめなさい!」と叫んで仲裁します。
劣勢のリラちゃんをだっこして、書斎に避難させたときに、グレーの肉球に汗をかいていました。暑いよね。怖かったよね。汗かいちゃうよね。しばらく団扇で仰いであげました。リラちゃんは、目を細めて気持ち良さそうにしていました。

アリスは涼しい顔をして、扇風機があたるところで毛繕いしています。真っ黒い肉球で顔を洗って、全身をくまなく舐めて。人間なら汗みどろになるような喧嘩をしても、気高さを失わず澄ましたものです。

ピアノに残る肉球の跡

でも、夏は、ピアノを斜めの視線でよく見ると、アリスの肉球の跡がうっすらついていることがありました。我が家のピアノはダークブラウンで、滑らかな断面をしていました。ピアノを磨くお手伝いは、子どもの仕事。夏の時期は、ごく稀に肉球の跡がついていることがあったので、入念にお掃除をしました。
涼しい顔のアリスも汗をかくのね。あれだけ走り回ったら、汗もかくよね。

ピアノ磨きのお手伝いから、暑いときに、猫は肉球に汗をかくと学びました。
肉球がじんわり湿っている日には、鼻も湿っていました。でも、毛皮部分には汗をかかないのです。だから猫が汗だくになることはないし、臭くなることもありません。アリスもリラちゃんも、いつもお日様の香ばしい匂いがしました。匂いは、母娘でそっくりでした。

猫の夏を思う

昭和から平成にかけても、外で過ごす猫には夏の暑さは堪えたと思います。あの頃の夏でも、毛皮を着た猫たちは暑そうでした。
夜も30度あるような猛暑と超熱帯夜の現代。全身で汗をかける人間は、汗をかきながら、体温調節をしますが、猫は肉球と小さな鼻のみ。外で暮らす猫は大変でしょう。熱を発散できない毛皮が身体の大半を占めるからです。

近所で猫を見かけることはありませんが、いつも猫のことがよぎります。
暑い日に思い浮かぶのは、じっとり湿った肉球の手触りです。


いいなと思ったら応援しよう!

シェヘ|アラフィフ視点 応援ありがとうございます。とっても励みになります:)

この記事が参加している募集