冷たい熱狂の夏。青大将と桜色のタクシー
虎ノ門で青大将に出会った日
先日のnoteに、我が家の猫アリスがヤマカガシ(毒蛇)と戦っていた記事を書きました。
そういえば、私も街中で蛇を見たなと思い出して、カメラロールから見つけたのがこの写真。青大将がオフィス街に現れた瞬間です。
2021年6月29日(火)の午後1時。虎ノ門にて。
コロナ禍の梅雨の晴れ間、
在宅勤務が続いていましたが、その日はオフィスに出勤していました。珍しく同僚とランチに行く途中に、アスファルトに蠢く物体を見つけました。オリーブ色のニョロニョロ。
「あ!蛇だ!」
体長1.5メートルくらいある?立派な蛇!
同僚の男性は、和歌山県の田舎で育った30代。
「これは青大将だから、毒はないよ」
と言って、植え込みに蛇を誘います。
「道路に出ると危ないよ。自分の家に帰りな」
蛇はニョロニョロしながら、植え込みの緑に吸い込まれていきました。
青大将って名前だけど、枯れ葉みたいな色をしてるんだよね。私の中で、子どもの頃に見た蛇や、一生懸命読んでいた図鑑の記憶が蘇りました。
それにしても虎ノ門で、真昼間に蛇に遭遇してたことに、妙に興奮しました。
なんだかいいことがありそう!
干支に登場する蛇は、「再生」や「変化」、そして「財運アップ」をもたらす、とても縁起の良いものとされていますよね。ヘビは脱皮を繰り返して大きくなる生き物。日本では、神道や陰陽五行説など、古から特別な象徴として扱われてきました。
コロナ禍のランチ
2021年6月29日の東京は、オリンピックを控えて盛り上がりたいけれど、祝祭は禁じられている異様な雰囲気でした。
その日は、マンボウ(←もはや古語の趣き)だったけれど、いつまた緊急事態宣言になるかわからない。感染者の増減に一喜一憂。自分が感染しなくても濃厚接触者になれば、隔離生活が常識、一人の感染者でフロアがクローズすることもしばしばありました。
鬼のように手洗いと消毒をして、暑くてもマスク着用だったし、外食は換気万全のお店でマスク会食をしていた頃です。
オフィスに出勤するのも週1回か2回、会議は全部オンラインだし、ランチも「個食」が推奨されていました。
だから、滅多に外食なんてしなかったし、同僚と二人でランチに行くこと自体がすごく久しぶりでした。
午前中からTeamsでチャットをして、ランチに行くことになりました。
「換気してるお店がいいね」
「じゃあ焼き鳥屋にする?」
「混んでる時間を外そうか」
「1時15分にオフィスを出よう!」
一緒にオフィスを出るといけない雰囲気があったから、ビルの裏口で待ち合わせ。
社内恋愛、いや40代女子と30代男子の不倫カップルみたいな動きです。
ようやく待ち合わせをして、焼き鳥屋さんに向かって歩いていたら、あの青大将に出会ったのです。
オークラの住人
オフィスは、ホテルオークラの近くのビルに入っています。
オークラには立派な竹林があって、私もたまに散歩しました。風の音、虫の声、緑の匂い。東京にいることを忘れるような場所です。
たぶん、青大将は、オークラの住人なんだろうと思います。
「蛇って縁起がいいんだよね」
「蛇皮のお財布は金運があがるって言うよ」
「脱皮するところが、再生ってかんじがする」
「なんかいいことあるかもね!」
ウキウキした気分でランチに向かったことをよく覚えています。
焼き鳥屋さんで、カウンターに並んで座って、キャッチアップをするつもりでした。
しかし、壁に貼られた「黙食」の文字。
黙って食べて帰りました。たまにスマホで会話。笑。
帰り道に、さっきの道を歩いたけれど、蛇はもういませんでした。
青大将から始まる物語
ヘビは、古い皮を脱ぎ捨てて新しく生まれ変わります。
その姿から、たとえば、干支の巳年はこれまでの古い習慣や悩みを捨てて、新しくスタートを切るのに最適な年と言われています。停滞していた物事に再び光が当たったり、新しい挑戦が花開くタイミング。
蛇が現れて、コロナ禍で停滞した世の中が、オリンピックを機会に再生していく……巳年じゃないけど、そんな夢に重なりました。
それに、蛇って長く生きられる強い生命力を持っている。だから昔から「無病息災」の信仰の対象になっていたはず。オリンピックみたいな大イベントを前に無病息災の象徴が現れるって、吉報じゃん!あれは、神の遣いに違いない。
図鑑が大好きで、蛇の生態を知り、神話の領域にも詳しい少女だった私の中で、青大将から始まる美しい令和の蛇ストーリーができあがりました。
現実は違う方向へ進んだ
しかし、その2週間後に、東京は何度目かの緊急事態宣言が発せられ、7月8日には、東京オリンピックの無観客開催が正式に決まりました。
蛇の住処だったオークラには、オリンピック関係者が多く宿泊していたようです。
蛇を見かけて数日してから、桜色にラッピングされたIOC関係者を乗せたタクシー(オリンピック関係者専用車両と思われる)が、オークラに吸い込まれていきました。
以前は、ベーカリーまで買い物に行ったり、たまにバーで飲んだり、竹林が素敵な庭園を歩いたり、オークラは私の生活圏でしたが、オリンピック期間中は近寄れない場所でした。
オークラに吸い込まれていく桜色のタクシーを見ると、
「大丈夫、あなたのことは蛇が守ってくれてるよ」
と、知らないゲストに話しかけました。
あの青大将は、コロナからオリンピックを守るための神からの遣いだと、あの頃の私は本気で信じていました。
写真が呼び戻した記憶
虎ノ門に蛇がいた話も、オリンピック関係者のタクシーが桜色ラッピングだったことも、東京でオリンピックが開催されたことも、ほんの数年前。
手に届かない熱狂の夏は、少し前のこと。
でも異世界のようで、思い出から切り離されています。私にとっては、昭和の思い出より遠いかもしれません。
猫のnoteから一枚の写真をカメラロールから見つけて、あの瞬間も私の記憶の一部だったことを思い出しました。
コロナ禍の夏の中で、一番鮮やかな色をしていたのが、あのオリーブグリーンの青大将と桜色のタクシーだったのかもしれません。
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