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ブラックミュージック連載第5部 第6話Boyz II Men ハーモニーが世界をひとつにした夜

Ⅰ プロローグ


始まりは、一つの偶然だった。
誰かの心を動かす歌は、
いつも、 
目の前の一人へ
届けようとする声から始まる。


1989年。

フィラデルフィア。

ラジオ局Power 99が主催する

コンサートのバックステージ。

五人の少年は、

地元フィラデルフィア出身のラッパーであり、

俳優としても人気を集め始めていた

Will Smith
(ウィル・スミス)

に歌を聴いてもらうため、

バックステージへ向かった。

しかし、

彼らを待っていたのは、

Will Smithではなかった。

そこで偶然居合わせたのは、

New Edition
(ニュー・エディション)

のメンバー、

Michael Bivins
(マイケル・ビヴィンス)。

五人は、

その場でアカペラを歌い始める。

歌い終えるまで、
わずか5分。
しかし、
その5分間が、
五人の人生を動かし始めた。



Ⅱ フィラデルフィア


ハーモニーが育つ街。
フィラデルフィア。

アメリカ東部、
ペンシルベニア州最大の都市。

1776年に、

アメリカ独立宣言が採択された街であり、
アメリカという国の始まりを語るうえで、
欠かすことのできない場所である。

しかし、

この街が世界に残したものは、
政治や歴史だけではなかった。

1970年代。

甘く滑らかな歌声。

華やかなストリングス。

踊れるリズムと、

洗練されたアレンジ。

それらを一つにした音楽が、

フィラデルフィアから世界へ広がっていった。

Philly Soul
(フィリー・ソウル)

と呼ばれる、

新しいソウルミュージックだった。

その中心にいたのが、

Kenneth Gamble
(ケネス・ギャンブル)

Leon Huff
(レオン・ハフ)。

二人が作り上げた

The Sound of Philadelphia
(ザ・サウンド・オブ・フィラデルフィア)

通称TSOPは、

The O’Jays
(ジ・オージェイズ)

Harold Melvin & the Blue Notes
(ハロルド・メルヴィン&ザ・ブルー・ノーツ)

などの名曲を生み出し、

後のR&Bやダンスミュージックへ、

大きな影響を与えていった。

声を重ねる文化。

美しいメロディーを大切にする文化。

ソウルと洗練を、

同じ音楽の中に共存させる文化。

彼等も、
そんなフィラデルフィアで
生まれ育った。



Ⅲ 五人の少年


五人を結びつけたもの。

フィラデルフィアには、
音楽や演劇、美術などを専門的に学ぶ

Philadelphia High School for the Creative and Performing Arts
(フィラデルフィア・ハイスクール・フォー・ザ・クリエイティブ・アンド・パフォーミング・アーツ)

通称CAPAがある。

芸術を志す若者たちが集まるこの学校で、

Nathan Morris
(ネイサン・モリス)

Marc Nelson
(マーク・ネルソン)

を中心に、

Unique Attraction
(ユニーク・アトラクション)

というヴォーカルグループが結成された。

そこへ、

Wanya Morris
(ワンヤ・モリス)

Shawn Stockman
(ショーン・ストックマン)

そして、

低音を担当する
Michael McCary
(マイケル・マッケリー)

が加わっていく。

五人を結びつけたのは、
歌だった。

教室。
廊下。

音の響く場所を見つければ、
彼らは声を重ねた。

楽器がなくてもいい。

互いの声を聴き、
自分の声を重ねれば、

そこに音楽が生まれた。

彼らは、
強く影響を受けていた
New Editionの楽曲、

Boys to Men
(ボーイズ・トゥ・メン)

から名前を取り、

グループ名をBoyz II Menへと変える。

少年から、大人へ。
その名前を掲げた五人は、
自分たちの歌を、
音楽業界の誰かに聴いてもらう
機会を探していた。

教室や廊下で重ねてきた、
一つひとつの歌。

その積み重ねこそが、
1989年、Power 99の
コンサート会場へ向かう

そして五人の背中を押すことになる。



Ⅳ 運命の5分間


偶然が、運命になった。
Will Smithに歌を聴いてもらうため、
Power 99のコンサート会場を訪れた五人。

しかし、

彼らがバックステージで出会ったのは、
New Editionのメンバー、
Michael Bivinsだった。

五人は、その場で歌い始める。

選んだ曲は、

New Editionの名バラード、

Can You Stand the Rain。

1988年に発表されたこの曲は、

繊細なハーモニーと、
美しいコーラスワークを持つ、

New Editionを代表する
バラードの一つだった。

五人は、
その曲を楽器を使わず、
アカペラで歌った。

楽器はない。

あるのは、

五人の声だけ。

教室や廊下で、

何度も重ねてきたハーモニーが、

その5分間に凝縮されていた。

歌を聴いたMichael Bivinsは、

五人に強い関心を示した。

Will Smithを探して向かった
バックステージで、

彼らは、

自分たちが憧れていた
New Editionのメンバーと出会った。

この偶然の出会いが、

やがてBoyz II Menの
デビューへ続く扉を開いた。



Ⅴ Boyz II Men誕生


五人から、四人へ。

Michael Bivinsとの出会いによって、
Boyz II Menの前に、
音楽の世界へ続く道が開かれた。

Michael Bivinsは、
彼らのマネジメントに関わり、

Motown Records
(モータウン・レコード)

との契約へ導いていく。

しかし、

デビューアルバムの制作が進むなか、
創設メンバーのMarc Nelsonが、
グループを離れた。


五人は、 
四人になった。

Nathan Morris。

Wanya Morris。

Shawn Stockman。

Michael McCary。


やがて世界が知る、
Boyz II Menの形が、
ここで生まれた。



Ⅵ 世界が、ハーモニーに恋をした。


四つの声で始まった挑戦。
1991年。
Boyz II Menは、

デビューアルバム

Cooleyhighharmony
(クーリーハイハーモニー)

を発表する。

アルバムからは、

Motownphilly
(モータウンフィリー)

It’s So Hard to Say Goodbye to Yesterday
(イッツ・ソー・ハード・トゥ・セイ・グッドバイ・トゥ・イエスタデイ)

などのヒット曲が生まれた。

Motownphillyでは、
New Editionから受け継いだものと、
フィラデルフィアで育った自分たちの感覚を、新しいR&Bとして提示した。

Boyz II Menの魅力は、
一人のスターだけに頼るものではなかった。

高く伸びる声。

柔らかく包み込む声。

落ち着きを与える声。

そして、

音楽全体を下から支える低い声。

四人それぞれの声が、

互いの個性を消すことなく、

一つの音楽を作り上げる。

Cooleyhighharmonyは、
グラミー賞の
最優秀R&Bパフォーマンス賞を受賞した。

フィラデルフィアの学校で
出会った少年たちは、

デビュー作によって、
全米が注目する存在になった。



Ⅶ 世界の終わりまで

一曲のバラードが、記録を変えた。

1992年。

Boyz II Menのもとへ、
一本の映画のために書かれた曲が届く。

Eddie Murphy
(エディ・マーフィ)

主演映画、
Boomerang
(ブーメラン)。


恋愛では常に主導権を握ってきた男が、
自分以上に強い女性と出会い、
初めて振り回されていく姿を描いた、
ロマンティック・コメディだった。

そのサウンドトラックのために書かれた曲が、

End of the Road
(エンド・オブ・ザ・ロード)

だった。

曲を書いたのは、

Babyface、

L.A. Reid
(L.A.リード)

Daryl Simmons
(ダリル・シモンズ?)。


愛する人との関係が、
すでに終わりへ向かっている。

それでも、

心だけは相手を手放せない。
そんな未練と痛みを、
四人は声を重ねながら歌った。

Wanya Morrisの切実な歌声。

Shawn Stockmanの滑らかな高音。

Nathan Morrisの落ち着いた声。

そして、

Michael McCaryの深い語り。

異なる四つの声が、
一人の男の中にある、
後悔や願いを分け合っていく。

End of the Roadは、

Billboard Hot 100
(ビルボード・ホット100)

で、
13週連続1位を記録した。
当時の同チャートにおける、
歴代最長記録だった。

翌1993年には、
Boyz II Menがグラミー賞の
最優秀R&Bパフォーマンス賞を受賞した。

しかし、

この曲が残したものは、
記録だけではなかった。

激しいビートもない。
派手な演出もない。

あるのは、
失った愛を受け入れられない男の言葉と、
それを支える四人のハーモニー。

Boyz II Menは、

声を競い合わせるのではなく、

互いの声を信じることで、

一つの感情を完成させた。


フィラデルフィアの
教室や廊下で始まった歌は、

世界中の人々が、
自分の痛みを重ねる歌になった。



Ⅷ 愛を歌えば、世界が止まった。


一度の成功では、終わらなかった。

1994年。
Boyz II Menは、
セカンドアルバム
II

(トゥー)
を発表する。

End of the Roadで、
音楽史に残る記録を打ち立てた彼らには、
一つの問いが向けられていた。

あの成功を、
もう一度繰り返せるのか。
その答えとなったのが、

Babyfaceが
作詞、作曲、プロデュースを手がけた

I’ll Make Love to You
(アイル・メイク・ラヴ・トゥ・ユー)

だった。


愛する相手と過ごす夜を、
急がず、

相手の気持ちを大切にしながら歌う。

強引に奪うのではない。

自分の欲望だけを押しつけるのでもない。

相手を大切にしたいという思いを、

四人のハーモニーが包み込んでいく。

I’ll Make Love to Youは、
Billboard Hot 100で、
14週連続1位を記録した。

Boyz II Menは、
End of the Roadで作った記録を、
自分たちの歌で更新した。

さらに、

次のシングル
On Bended Knee
(オン・ベンデッド・ニー)

が、

I’ll Make Love to Youに代わって、
Billboard Hot 100の1位に立った。

愛する喜び。

失う怖さ。

許しを求める弱さ。

Boyz II Menは、
恋愛の中にある異なる感情を、
声の重なりによって、
一つずつ形にしていった。

アルバムIIは、
グラミー賞の最優秀R&Bアルバム賞を受賞。

I’ll Make Love to Youも、
最優秀R&Bパフォーマンス賞に輝いた。

Boyz II Menは、
もう新しいR&Bグループではなかった。

90年代のラブソングを
象徴する存在に、なっていた。



Ⅸ 五つの声が、祈りになった。


いつか、もう一度会える日まで。

1995年。

Boyz II Menが次に声を重ねたのは、

Mariah Carey
(マライア・キャリー)

だった。


二組が歌ったのは、

One Sweet Day
(ワン・スウィート・デイ)。


歌われているのは、
大切な人を失った悲しみ。

もっと言葉を伝えておけば
よかったという後悔。

そして、

いつか再び会える日が来ると信じる、
静かな願いだった。

Mariah Careyと、

Boyz II Menの四人。

異なる五つの声が、

一つの悲しみを歌う。

この曲では、

誰か一人の悲しみだけが、

前に出るわけではない。

Mariah Careyの声に、

Boyz II Menのハーモニーが寄り添い、

Boyz II Menの歌声に、

Mariah Careyが応える。

それぞれ異なる声が重なることで、

一人では抱えきれない悲しみを、

全員で分け合っているように聴こえる。

One Sweet Dayは、
Billboard Hot 100で、

16週連続1位を記録した。

当時の歴代最長記録であり、
その記録は2019年まで残り続けた。

グラミー賞でも、
年間最優秀レコードと、
最優秀ポップ・コラボレーション部門に、
ノミネートされた。

しかし、
この曲の価値は、
16週間という数字だけではない。

人は、

大切な誰かを失ったとき、

その悲しみを一人では
抱えきれないことがある。

そんなとき、

異なる声が寄り添い、
同じ思いを歌うことで、

悲しみは、
祈りへと変わっていく。

声が違うからこそ、
一つになったとき、

より大きな思いを届けることができる。

One Sweet Dayは、

Boyz II Menが歌い続けてきた、

ハーモニーの意味を示した一曲だった。



Ⅹ 愛は、恋だけではなかった。


四人の声が、母へ帰った。

1997年。
Boyz II Menは、

サードアルバム
Evolution
(エヴォリューション)

を発表する。


End of the Roadでは、
終わった恋を受け入れられない痛みを歌った。

I’ll Make Love to Youでは、
愛する人と過ごす夜を歌った。

One Sweet Dayでは、
もう会えない人への思いを、祈りへ変えた。

そして次に、
四人が歌ったのは、
母への愛だった。


映画
Soul Food
(ソウル・フード)。


シカゴで暮らす黒人一家を舞台に、
家族の衝突や秘密、
そして食卓を通じて受け継がれる
絆を描いた作品だった。

「YouTube予告編」

その映画のために書かれたのが、

A Song for Mama
(ア・ソング・フォー・ママ)。


曲を書き、
プロデュースしたのは、
再びBabyfaceだった。


この曲で歌われる母は、
ただ優しいだけの存在ではない。

自分を支え、

正しい道を教え、

苦しいときには、

そばにいてくれた人。

大人になって初めて気づく、
母から受け取っていた愛が、
まっすぐな言葉で歌われている。

この曲には、

End of the Roadのような失恋も、

I’ll Make Love to Youのような
男女の夜もない。

それでも、

四人のハーモニーは、
一つの感情を深く届けていく。

感謝。

尊敬。

そして、
言葉では返しきれない愛。

Boyz II Menが歌ってきた愛は、
恋愛だけではなかった。

家族への愛も、

失った人への愛も、

誰かを大切に思う気持ちも、

四人の声の中で一つになった。

A Song for Mamaは、
グラミー賞の

最優秀R&Bパフォーマンス賞に、
ノミネートされた。

華やかな成功を手にしても、
人が帰っていく場所は、

自分を育ててくれた
誰かの記憶なのかもしれない。

フィラデルフィアの学校で
出会った少年たちは、

世界の頂点に立ったあと、
最も身近な愛へと、声を重ねた。

遠くまで届いたハーモニーは、

最後には、

自分たちの原点へ帰ってきた。



Ⅺ 四人のハーモニーが、三人になった日


失われた声を、埋めるのではなく。

2002年。
Boyz II Menは、

アルバム
Full Circle
(フル・サークル)

を発表する。


デビューから十年以上。
少年から大人へという名を持った四人は、
長い時間をともに歩いてきた。

しかし、
その翌年。
グループのハーモニーを、
低音から支えてきたMichael McCaryが、
Boyz II Menを離れた。

Michaelは、
長年にわたり、
背中の痛みや身体の不調を抱えていた。

後に本人は、
多発性硬化症と
診断されていたことを明かしている。

一方で、
離脱に至るまでの経緯については、
本人とほかのメンバーの間で、
異なる説明も語られてきた。

外側から、
一つの理由だけで断定することはできない。

確かなのは、
四人で完成していたBoyz II Menから、

一つの声が失われたことだった。

Michaelの低音は、
ただ音域の下を支えるだけではない。

End of the Roadで聴かせた、

深く語りかけるような声。

四つの声の輪郭を、

下から支えていた響き。

それは、

Boyz II Menを聴いた瞬間に分かる、
グループの大切な個性だった。

その声が、いなくなった。

Nathan Morris。

Wanya Morris。

Shawn Stockman。

残された三人は、

新しい低音歌手を加えて、
以前の四人を再現する道を選ばなかった。

三人のまま、
Boyz II Menを続けた。

四人のハーモニーを、
完全に再現することはできない。

けれど、
失われた声を無理に埋めることだけが、
前へ進む方法ではない。

三人は、
今そこにある声を重ね、
新しい均衡を探していった。

五人から四人へ。
そして、

四人から三人へ。

Boyz II Menは再び、
変化を受け入れながら、
歌い続ける道を選んだ。

ハーモニーとは、

失ったものを、
なかったことにするのではない。

違いも、空白も抱えたまま、

残された声を
信じ直すことなのかもしれない。



Ⅻ ハーモニーは、歌い継がれる。


形が変わっても、声は終わらなかった。

Michael McCaryが離れたあとも、

Nathan Morris、

Wanya Morris、

Shawn Stockmanは、

三人でBoyz II Menを続けた。

四人だった頃と、
同じハーモニーではない。

低音を支えていた声がなくなれば、
歌の響き方も変わる。

それでも三人は、

過去の形をそのまま再現しようとはせず、
今ある声を重ねながら、

歌い続けていった。

Motownの名曲を歌った

Motown: A Journey Through Hitsville USA
(モータウン:ア・ジャーニー・スルー・ヒッツヴィルUSA)。

デビュー20周年を記念した

Twenty
(トゥエンティ)。

新しい音楽性へ踏み出した

Collide
(コライド)。

往年のドゥーワップやソウルへ立ち返った

Under the Streetlight
(アンダー・ザ・ストリートライト)。


時代が変わっても、
彼らは声を重ねることをやめなかった。

Boyz II Men以前にも、
優れたヴォーカルグループは存在した。

The Temptations
(ザ・テンプテーションズ)。

The Four Tops
(ザ・フォー・トップス)。

New Edition。

Boyz II Menは、
その伝統を受け継ぎながら、

アカペラの精密さと、
ゴスペルに根差した感情、

ポップスにも届く親しみやすさを、
90年代のR&Bの中で一つにした。

四人が同じように歌うのではない。

違う声が、
違う役割を受け持つ。

そのうえで、
誰か一人を押しのけるのではなく、

互いの声が、
最も美しく響く場所を作っていく。

Boyz II Menは、
グラミー賞を4度受賞した。

しかし、
数字だけでは、
その影響を測ることはできない。

失恋をした夜。

家族を思った日。

大切な人を失った瞬間。

言葉だけでは、
自分の感情を表せないとき。

Boyz II Menの歌は、
異なる声を重ねることで、

一人では言い切れない思いを、
音楽に変えてきた。

四人が三人になっても、
その本質は変わらなかった。

ハーモニーとは、
全員が同じ声になることではない。
違う声のまま、
同じ歌を信じることだった。

形は変わっても、

信じ合う声がある限り、

ハーモニーは終わらない。



ⅩⅢ エピローグ


信頼が、ハーモニーになる。

1989年。
フィラデルフィア。
Power 99のコンサート会場。

Will Smithに歌を聴いてもらうため、
バックステージへ向かった少年たちは、

そこで偶然、
Michael Bivinsと出会った。

彼らが歌ったのは、
わずか5分。

その5分間から、
Boyz II Menの物語は動き始めた。

けれど、
彼らを世界へ連れていったのは、
偶然だけではない。

フィラデルフィアという街で育ったこと。
同じ学校で出会ったこと。
教室や廊下で、
何度も声を重ねたこと。

自分とは違う声に耳を澄まし、
その声が最も美しく響く場所を、
互いに探し続けたこと、

その積み重ねがあったからこそ、
あの5分間は、
ただの5分では終わらなかった。

Boyz II Menの四人は、
同じ声を持っていたわけではない。

高く伸びる声。

柔らかく包む声。

落ち着きを与える声。

低い場所から支える声。

誰か一人だけでは、
あのハーモニーは生まれなかった。

違いを消すのではなく、
違うまま重なる。

自分の声を押し通すのではなく、
隣の声を聴く。

そして、
自分が歌っていない瞬間にも、
仲間の声を信じる。

それが、
Boyz II Menの音楽だった。

彼らは、
失恋を歌った。
愛する人との夜を歌った。
亡くなった人への祈りを歌った。
母への感謝を歌った。

形が変わり、
一つの声が失われても、
歌うことをやめなかった。

ハーモニーとは、

全員が同じになることではない。

違いを持ったまま、

同じ歌へ向かうこと。

そして、

互いの声を信じること。


誰かの心を動かす歌は、

いつも、

目の前の一人へ届けようとする
声から始まる。


その声が、
別の声と出会い、
互いを信じたとき、

一人では届かなかった場所まで、
音楽は届いていく。

違いは、
分断を生むためだけにあるのではない。

違う声が、
互いの居場所を認めたとき、

そこにハーモニーが生まれる。


Boyz II Menが世界へ届けたもの。

それは、
美しいバラードだけではなかった。

信頼が、
ハーモニーになる。

そのことを、
彼らは四つの声で証明した。

そして始まりは、

たった5分だった。



次回予告

Boyz II Menが、

異なる四つの声を重ね、
ハーモニーで世界をひとつにした頃。

R&Bのもう一方では、
四人の女性たちが、
美しさだけでは終わらない声を響かせていた。

洗練されたコーラス。
華やかなファッション。

そして、
女性の自立や怒りまで歌う強さ。

彼女たちは、
女性ヴォーカルグループの姿を、
新しい時代へと塗り替えていく。


次回、

ブラックミュージック連載
第5部 第7話

En Vogue

― 美しさが、強さをまとった夜 ―


四つの声が、

90年代R&Bに、

新しい女性像を刻んだ物語へ。



参照・参考文献

本記事の執筆にあたり、
以下の資料を参照しました。

Philadelphia Music Alliance

(フィラデルフィア・ミュージック・アライアンス)

Boyz II Men|Walk of Fame

Boyz II Menの結成初期、

Nathan MorrisとMarc Nelsonを中心とした始まり、

Unique Attraction時代の五人、

Michael Bivinsとの出会い、

Can You Stand the Rainのアカペラ、

Marc Nelsonの脱退、

四人でのデビューまでの経緯を参照。

Classic Motown

(クラシック・モータウン)

Boyz II Men

Michael Bivinsとの出会い、

Motown Recordsとの契約、

グループ名の由来、

Cooleyhighharmony、

End of the Road、

Michael McCary離脱後の活動について参照。

Classic Motownは、

Motownの歴史や所属アーティストを紹介する
公式アーカイブサイト。

Encyclopedia of Greater Philadelphia

(エンサイクロペディア・オブ・グレーター・フィラデルフィア)

Soul Music

Philly Soulの歴史、

Kenneth GambleとLeon Huff、

Thom Bell、

Philadelphia International Records、

The O’Jays、

Harold Melvin & the Blue Notes、

The Sound of Philadelphiaについて参照。

Encyclopedia of Greater Philadelphiaは、

フィラデルフィア地域の歴史や文化を扱う
地域史事典。

Boyz II Men Official Website

About/Music

現在のメンバー構成、

Cooleyhighharmony、

II、

Evolution、

Full Circle、

Motown: A Journey Through Hitsville, USA、

Twenty、

Collide、

Under the Streetlightなど、

アルバムの発表と活動歴を参照。

The Recording Academy

(ザ・レコーディング・アカデミー)

Boyz II Men|GRAMMY Awards and Nominations

Boyz II Menのグラミー賞における、

4度の受賞と15度のノミネート、

Cooleyhighharmony、

End of the Road、

II、

I’ll Make Love to You、

One Sweet Day、

Evolution、

A Song for Mamaの受賞・候補歴を参照。

The Recording Academyは、

グラミー賞を主催する
アメリカの音楽団体。

Billboard

(ビルボード)

End of the Roadの13週連続1位、

I’ll Make Love to Youの14週連続1位、

One Sweet Dayの16週連続1位など、

Billboard Hot 100における
Boyz II Menのチャート記録を参照。

Billboardは、

アメリカの音楽チャートや
音楽産業を扱う専門メディア。

Paramount Pictures

(パラマウント・ピクチャーズ)

Boomerang

映画Boomerangの公開年、

Eddie Murphyが演じた主人公、

出演者、

作品の概要、

Babyface、Toni Braxton、Boyz II Menらが参加した
サウンドトラックについて参照。

Billboard

Black Music Month: Babyface Reflects on the Feel-Good Effect of Soul Food & Its Hit Soundtrack, 25 Years Later

映画Soul Foodと、

Babyfaceが手がけたサウンドトラック、

Boyz II MenのA Song for Mamaが、

同作と結びついた楽曲であることを参照。

BET

(ビー・イー・ティー)

Former Boyz II Men Member Michael McCary Reveals the Shocking Reason He Left the Group

Michael McCaryが明かした、

背中の症状、

多発性硬化症の診断、

グループ離脱に関する
本人側の説明を参照。

離脱に至った経緯については、

本人とほかのメンバーの間で
異なる説明が語られているため、

本文では、

一つの理由だけに断定していない。

映像資料

Paramount Movies

BOOMERANG|Official Trailer

映画Boomerangの紹介映像として、

Paramount Moviesが公開している
公式予告編を使用。

Soul Food(1997)Trailer

映画Soul Foodの紹介映像として、

YouTubeに投稿されている
予告編映像を使用。

映画会社の公式チャンネルによる投稿とは
確認できないため、

本文では、

「公式予告編」ではなく、

「YouTube予告編」

と表記した。

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