ブラックミュージック連載第3部第2話 Jay-Zの時代
Roc-A-Fellaという異物(1996)
Roc-A-Fella Records
(ロック・ア・フェラ・レコード)
ヒップホップはまだ
メジャーに契約される側の文化だった。
だがJay-Zは違った。
主導権を持つ。その前線に立つのが
Dame Dash(デイム・ダッシュ)
Harlem出身。
ラッパーではない。
だが交渉、資金、流通、宣伝。
実務の中心にいた。
会議ではDameが声を上げる。
「俺たちは商品じゃない」
「パートナーだ」
強気。引かない。
横でJay-Zは静かに条件を見る。
数字を見る。
出口を見る。
Dameが扉を壊し、
Jay-Zが中で構造を作る。
この緊張がRoc-A-Fellaを動かしていた。
Hard Knock Lifeという突破(1998)
『Vol.2… Hard Knock Life』
ブロードウェイ・ミュージカル
Annie(アニー)の
「It’s the Hard Knock Life」
をサンプリング。
孤児たちの明るい合唱。
その上で
ブルックリンの現実をラップする。
違和感は強烈だった。
だが計算はあった。
ブロードウェイはアメリカ大衆文化の象徴。
ヒップホップはまだ都市の文化。
壁を壊すなら象徴を使う。
権利処理は高額。簡単ではない。
それでもやる。
結果。
アルバムは500万枚超。
ヒップホップはリビングへ入った。
同時に批判も来る。
ポップすぎる。
ストリートを裏切った。
Jay-Zは反論しない。
拡張しなければ
消えると知っていた。
CD市場という現実(1999)
90年代後半。
CD全盛。
初動売上が命。
『Vol.3… Life and Times of S. Carter』
発売直前。
楽曲が流出する。
リーク。
数百万ドル規模の損失になりかねない。
疑念が向いたのは
Lance ・Un・Rivera
(ランス・アン・リヴェラ)
ニューヨークの映像プロデューサー。
The Notorious B.I.G.の映像制作にも関わり、シーン内部に深く入り込んでいた人物。
外部ではない。
内部の人間。
だから疑いは重い。
確証はない。
だが怒りはある。
キット・キャット・クラブの夜
マンハッタン
Kit Kat Klub
(キット・キャット・クラブ)
リリース・パーティー。
フラッシュ。
酒。
音。
裏で緊張は続いていた。
トイレで口論。
押し合い。
短い混乱。
Riveraは腹部を刺される。
成功の熱が
一瞬で冷気に変わる。
後にJay-Zは
直接刺したことは否定する。
2001年、傷害未遂で有罪。
執行猶予。
もし実刑なら。
Jay-Zの時代はここで終わっていた。
この夜は分岐点だった。
怒りで動けば崩れる。
衝動では
帝国は作れない。
Roc内部の温度差
Roc-A-Fellaは勢いだった。
Dameはカルチャーを叫ぶ。
独立を守れ。
メジャーに飲まれるな。
Jay-Zは違う。
利用できるなら利用する。
カルチャーか。
産業か。
90年代後半。
ヒップホップは分岐点に立っていた。
Dameは文化の守護者。
Jay-Zは構造の設計者。
方向は少しずつずれていく。
まだ決裂はしない。
だが違いは明確だった。
Nasという火種
同じニューヨーク。
Nas
Illmaticの象徴。
小さな牽制。
直接ではない。
だが空気は変わる。
王は一人しかいらない。
Jay-Zはすぐには動かない。
戦争はタイミングだ。
火種は90年代に蒔かれた。
90年代の終わり
2Pacは爆発した。
The Notorious B.I.G.は象徴になった。
Jay-Zは違った。
Hard Knock Lifeで拡張し、
リークと裁判で揺れ、
内部の温度差を抱え、
Nasとの緊張を抱え、
それでも残った。
怒りで燃えなかった。
衝動で崩れなかった。
持続。
90年代の終わり。
ヒップホップは炎から構造へ変わる。
カルチャーは産業へと姿を変える。
そしてその中心に静かな男が立っていた。
撃たれなかった王。
消えなかった王。
それが
Jay-Zの時代だった。
次回予告
王座は一つ。
ブラックミュージック連載第3部
第3話 Nas
Photo: Mika Väisänen / CC BY-SA 3.0
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