営業会議の「たたき台」をAIで作ったら、準備が30分→10分になった話|質の高いたたき台に必要な5条件【製造業の社内AIアンバサダー#9】
営業の人手が足りない。1人あたりの業務量が増えている。
これは多くの企業で起きている現実だと思います。私の職場でも同じ状況で、限られたリソースの中でどう営業活動の質を落とさずに効率化するかが常にテーマになっています。
その中で、地味に負担になっていたのが「営業会議の準備」です。
私の会社では、営業会議を毎週開催しています。その中で、既存顧客の新規案件やポテンシャル顧客へのアプローチといった「新たなアプローチ」に関するトピックが出る際には、担当者が「アプローチ方法のたたき台」を作り、チームで最大15分/1案件で話し合う、という運用をしています。この運用自体は効果的なのですが、たたき台を作る準備に毎回30分から1時間かかっていました。
この状況を変えるきっかけをくれたのは、最近よくAIを使っている同僚からの一言でした。
「質の良い"たたき台"って、AIで作れないですかね?」
この記事では、その問いから始まった「AI×たたき台作成」の取り組みと、実際に使っているプロンプトを公開します。
この記事で分かること:
「質の良いたたき台」とは何か(5つの必須条件)
AIでたたき台を作るプロンプト(既存顧客アップセル版)
実際に使ってみた結果(時間・品質のリアルな変化)
今後の改善計画
「質の良いたたき台」とは何か ― 5つの必須条件
同僚から打診を受けて、まず立ち止まって考えました。「そもそも質の良いたたき台って何だろう」と。
AIに「たたき台を作って」と漠然と依頼しても、曖昧なアウトプットしか返ってきません。AIに作らせるなら、まず「良いたたき台の条件」を定義する必要がある。そこでClaude(AI)にも相談しながら、5つの必須条件を整理しました。
条件1:目的の明確化
何のためのたたき台なのかが冒頭に明記されていること。「この提案で何を達成したいのか」が曖昧なたたき台は、議論の軸がブレます。
「売上を上げたい」ではなく「既存顧客A社に対して、製品Xのアップセルで年間○○万円の追加受注を目指す」というレベルまで具体化されていることが条件です。
条件2:対象・スコープの設定
誰に向けた提案で、どの範囲を扱うのかが明示されていること。顧客名、対象部門、キーパーソン、提案範囲が書かれていないたたき台は、議論が発散して収束できません。
条件3:現状認識(事実ベース)
前提となる現状や課題が、推測ではなく事実に基づいて整理されていること。思い込みや推測だけで組み立てると、議論の土台が崩れます。
ポイントは「分からないことは分からないと明記する」ことです。未確認の情報を推測で埋めてしまうと、それが事実として議論されてしまうリスクがあります。
条件4:仮説・方向性の提示(推奨案付き)
「こうすればいいのでは」という仮の答えや方向性が、少なくとも1つ示されていること。選択肢がゼロのものは「たたき台」ではなく、単なる課題の整理です。
さらに重要なのは、複数案を提示する場合、自分の中で最も確度が高いと考える推奨案を1つ明示すること。推奨案がないまま並列で出すだけでは、「で、どうしたいの?」と判断を丸投げする形になります。
推奨案を明示することで「なぜその案を推すのか」という判断根拠の説明が求められるため、提案者自身の思考の深さが問われます。
条件5:変更可能であることの前提
これは意外と見落とされがちですが非常に重要です。たたき台は完成品ではなく、修正・破棄が前提であると関係者が認識していること。
この前提がないと、「たたき台」が「決定案」として扱われ、建設的な議論が起きにくくなります。たたき台の末尾に「本案は議論のための出発点であり、確定案ではありません」と一文入れるだけで、会議の空気が変わります。
この5条件を満たす「たたき台」をAIで作れるか
5つの条件を整理した上で、次に考えたのは「この条件を満たすたたき台を、AIに生成させることはできるか」ということです。
結論から言うと、できました。
ただし、条件があります。AIに丸投げしても質の良いたたき台は出てきません。5つの必須条件をプロンプトの中に組み込み、必要な入力情報をしっかり与えることが前提です。
以下が、実際に作成したプロンプトです。
営業会議のたたき台 AIプロンプト(既存顧客アップセル版)
{}内を自分の案件に合わせて記入し、Copilot・Claude・ChatGPT・Gemini等に貼り付けて使ってください。(社内ITセキュリティに合わせて)
あなたはB2B営業の提案設計を支援するアシスタントです。
以下の情報をもとに、既存顧客への提案・アップセルの「たたき台」を作成してください。
たたき台は以下の5つの必須条件を満たしてください。
1. 目的の明確化:この提案で何を達成したいのかを冒頭に明記する
2. 対象・スコープの設定:顧客名、対象部門・担当者、提案範囲を明示する
3. 現状認識(事実ベース):推測ではなく、把握している事実のみで現状を整理する。
不明点は「未確認」と明記する
4. 仮説・方向性の提示:提案の方向性を3案提示し、それぞれの根拠・メリット・リスクを
簡潔に記載する。その上で、最も確度が高いと考える推奨案を1つ選び、推奨理由を明記する
5. 変更前提の明示:このたたき台は議論・修正のための出発点であり、
確定案ではないことを末尾に記載する
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【入力情報】
■ 顧客情報
- 顧客名:{会社名}
- 業界:{業界}
- 担当部門/キーパーソン:{部門名・役職・氏名}
- 現在の取引内容:{現在納入している製品・サービス・契約内容}
- 取引期間:{年数}
■ 現状の課題・ニーズ(把握している事実のみ)
- {顧客から直接聞いた課題や要望を箇条書き}
- {未確認の項目があれば「未確認:〇〇」と明記}
■ アップセルの候補
- {提案したい製品・サービス・グレードアップ内容}
- {候補が複数あれば列挙}
■ 競合・制約条件
- {競合他社の動向、予算制約、導入時期の制約など}
■ 提案の目標
- {売上目標額、契約拡大の具体的ゴール}
- {提案時期・期限}
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【出力フォーマット】
## 1. 目的
(この提案で達成したいことを1〜2文で)
## 2. 対象・スコープ
(顧客名、部門、提案範囲を明記)
## 3. 現状認識
(事実ベースで整理。未確認事項は「未確認」と明示)
## 4. 提案の方向性(3案)
### 案A:{案の名称}
- 概要:
- 根拠:
- メリット:
- リスク:
### 案B:{案の名称}
(同上)
### 案C:{案の名称}
(同上)
### ★推奨案:案{X}
- 推奨理由:
## 5. ネクストアクション
(推奨案を進める場合に必要な次の行動を3つ以内で)
## 6. 確認事項・未検証リスト
(営業会議で確認・議論すべき事項を列挙)
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※本案は議論・修正のための出発点であり、確定案ではありません。
営業チームでの議論を経て、方向性を決定してください。使い方(3ステップ)
ステップ1:【入力情報】の{}部分を、自分の案件に合わせて記入します。すべて埋まらなくてもOKです。分からない項目は空欄のまま、AIが「未確認」として整理してくれます。
ステップ2:プロンプト全文をコピーし、使いたいAI(Claude、ChatGPT、Gemini等)のチャット欄に貼り付けて送信します。
ステップ3:出力されたたたき台を確認し、事実と異なる部分や違和感がある部分を修正します。絶対にノーチェックでそのまま営業会議の議論資料として使わず、ファクトチェックと納得できる内容になっているかの確認・修正を行ってください。(このステップが、営業担当の価値を左右します)
AIで作ってみた結果 ― 30分→10分、そして質の変化
実際に使ってみた結果をお伝えします。
時間面では、入力情報の記入からAIの出力完了まで約10分でした。従来30分〜1時間かかっていた準備が大幅に短縮されました。入力項目が多く手間に感じる部分はありますが、逆にこの入力作業自体が「自分の頭の整理」になっており、無駄にはなりません。
品質面では、「問題ないレベル」のたたき台が出力されました(継続的な改善は必要そうです)。特に良かったのは、3案の方向性提示の部分です。自分一人で考えると過去の成功パターンに引っ張られがちですが、AIは過去の事例にとらわれない切り口を提案してくれます。「その視点はなかった」というアイデアが出てくることで、たたき台としての役割——つまり「議論の出発点として多角的な選択肢を提示する」——が高いレベルで実現されました。
一方で、当然ながら現場のニュアンスや顧客との関係性の文脈はAIには分かりません。出力されたたたき台を「そのまま使う」のではなく、「自分の現場感で修正・肉付けする」ステップは必須です。ここは先日書いた「介在価値」の話と同じです。
たたき台をAIで作る際の3つのコツ
2週間ほどの試行で見えてきたコツを3つ共有します。
1つ目は、入力情報を「箇条書き」で書くことです。長文で書くより、短い箇条書きの方がAIの出力精度が上がります。
2つ目は、「未確認」を恐れないことです。分からないことを無理に埋めるより、「未確認」と明記した方が、会議での確認事項が明確になり、かえって議論が効率的になります。
3つ目は、出力後に「推奨案の根拠」を自分の言葉で言い直すことです。AIが選んだ推奨案をそのまま発表するのではなく、「自分はこの理由でこの案を推す」と言い換える。この一手間で、たたき台に「自分の判断」が加わり、説得力が変わります。
今後の予定 ― 1ヶ月のトライアルで改善していく
このプロンプトは「完成品」ではありません。今後1ヶ月ほどトライアル期間を設け、実際に使ったメンバーから問題点・不満点・改善点を吸い上げて、プロンプトを継続的に改善していく予定です。
これはDMAICの考え方そのものです。定義→測定→分析→改善→管理。プロンプトも一度作って終わりではなく、使いながら改善するサイクルを回す。カイゼン屋らしいアプローチだと思っています。
改善の結果は、また記事でお伝えします。
今日できること
次の営業会議で「たたき台を作る必要がある案件」が1つでもあれば、今日このプロンプトを試してみてください。
入力に10分、出力の確認と修正に5〜10分。合計20分もあれば、今までとは違う角度のたたき台が手元に揃っているはずです。
