全部説明したら誰も動かなかった。1つに絞ったら動き始めた話【製造業の社内AIアンバサダー】
私はいま、会社で「AIアンバサダー」という役割を担っています。
社内でのAI活用の推進がミッションの一つになっていて、まずは導入編ということで社内向けに「AIツールはどのようなものがあって、どう使うと便利なのか」についての説明会を開きました。
今日はその時の話と、そこから方針を変えた結果、最初の成功体験が生まれた話をします。
この記事で分かること
AIツールの「役割分担」を社内で説明して不評だった実体験
「理想のAI活用」と「現場の現実」のギャップ
使うツールを1つに絞ったら起きた変化
1日がかりの月次報告書が3時間強で完成した具体例
AI推進で大事なのは「足し算」より「引き算」だった、という気づき
AIツールの説明が、見事に不評だった
説明会では、4つの主要AIツール(ChatGPT、Claude、Gemini、Copilot)の役割分担を紹介しました。
こんなスライドを作って、業務ごとのおすすめツールを整理したんです。

情報収集にはGemini、技術検討にはClaude/ChatGPT、資料作成にはCopilot、会議関連にはCopilot/Gemini…。
さらに、実際の業務でどう組み合わせるかのワークフローも用意しました。

STEP1でGemini、STEP2でClaude、STEP3でClaude/ChatGPT、STEP4でCopilot。「各AIの強みを活かして組み合わせましょう」と、自分としてはけっこう分かりやすく整理したつもりでした。
でも、返ってきた反応は予想と違いました。
「…そんなにいろいろ使い分けられないよ」
一人じゃない。何人からも似たコメントが出ました。
仲の良い先輩からは「LEAN活動の時は頼りになるのに、今回ポンコツだな笑」とまで言われる始末。冗談と分かっていても、正直、へこみました。でも、言い返す言葉もなかった。だって、確かにその通りだったから。
理想と現実のギャップ
冷静に振り返ると、私は現場を見ずに「AIの理想像」を語っていたんです。
スライドを見返すと、それがよく分かる。業務内容によって6つの使い分けパターン、4ステップの提案ワークフローでは3つのAIをまたぐ。スライドの「まとめ」には「まず4つのAIを試してみる」とまで書いてあった。
それは嘘じゃない。理想としては正しい。
でも、普段の業務で手一杯の人たちにとって、新しいツールを複数覚えること自体がハードルなんです。
自分はAIに興味があるから、いろんなツールを触るのが楽しい。でもそれは私の都合であって、現場の都合じゃなかった。
いくら便利でも、使ってもらえなければ意味がない。
ここで私は、各人の業務状況を把握し、AI推進の方針を大きく変えることにしました。
「まずCopilotだけ使って」に切り替えた
複数ツールの使い分けをやめて、まず1つだけに絞りました。
選んだのはMicrosoft Copilotです。
理由はシンプルで、うちの会社がグローバルで全社的にオフィシャルなAIツールとして導入しているからです。機密情報の取り扱いもOKになっているので、業務データをそのまま扱える。社内の誰もが「これは使っていいツールだ」と分かっている。
この「使っていいと分かっている」が思った以上に大きかった。
AIを使いたい気持ちはあっても、「このデータ入れて大丈夫かな」「会社的にOKなのかな」という不安がブレーキになっていた人が多かったんです。
Copilotなら、そのブレーキがない。
「とにかくCopilotだけでいいから、まず1つ自分の業務で試してみて」。
メッセージをこれだけに絞りました。
あの6パターンの使い分けスライドも、4ステップのワークフローも、いったん封印です。
最初の1人が動いた ― 報告書が1日→3時間強に
最初に動いてくれたのは、オフィスマネージャーでした。
私から提案したのは、売上情報を使った月次報告書のたたき台作成にCopilotを使うこと。毎月やっている業務で、ほぼ1日がかりの作業だったそうです。
正直、最初は不安の声もありました。「数字の正確性は大丈夫?」と。
確かに、AIが出す数字を鵜呑みにするのは危ない。だから「たたき台をAIに作らせて、確認と修正は人がやる」という役割分担を提案しました。
結果、致命的な間違いは起きなかった。
念入りに確認する時間を含めても、ほぼ1日かかっていた報告書が3時間強で完成しました。
「かなり助かった」
「もう少し短縮できる可能性もありそう」
こう言ってもらえた時、ようやく手応えを感じました。
このたった1つの成功事例が、社内の空気を少しだけ変えたと思っています。
「AIって実際に使えるんだ」。理屈じゃなくて、身近な人の体験として伝わった。それは私がスライド6枚で語ったどんな説明よりも、ずっと効果的でした。
足し算より引き算
振り返ると、私の最初の失敗は現場を把握しない「足し算」の発想でした。
あれも便利、これも使える、組み合わせるともっとすごい。スライドにまとめるのは楽しかったし、内容も間違ってはいなかったと思います。
でも現場が求めていたのは「引き算」だった。
「何を使えばいいか、1つだけ教えて」。
1つに絞ったことで、使い始める人が出てきた。使い始めたら成功体験が生まれた。成功体験が生まれたら、「自分もやってみようかな」という空気が生まれた。
この順番が大事だったんだと思います。
あのスライド資料は、今も手元にあります。いつか「もっと使いこなしたい」というメンバーが出てきた時に、改めて共有するつもりです。でも今じゃない。
弊社は外資系製造業の日本支社ですが、AIによる業務改善の可能性をとても感じており、語りたい気持ちは今もあります。でも、可能性を語る前に、まず1つの成功体験を作ること。そして、AIをより身近な存在にしてもらうこと。そこから始めるべきだった。
これはまさに、カイゼンの基本と同じでした。大きく変えようとせず、小さく始めて、回す。
AI推進も、カイゼンも、やっぱり同じなんだなと改めて感じています。
今日できること
もしあなたが社内でAIを広めようとしているなら、こう問いかけてみてください。
「今、全員に1つだけAIツールを勧めるとしたら、どれか?」
その1つを決めて、1つの業務で試してもらう。それだけで十分です。
まず1つのツール。1つの業務。1人の成功体験。
足し算は、その後でいい。
