[掌編小説]NGOと三十路サンタ【風まかせ文芸部】【せりふ三題噺】【シロクマ文芸部】
目覚めるとサンタさんになっていた。
顎を触ると髭がもっさりとしている
急いで、鏡を見るとそこには白髭のたっぷりとした老人がいた。
「嘘だろ」
おもわず呟く。声すらも老人になっていた。
確かに今日は12月24日の朝、でも子供どころか結婚もパートナーもいない私には無縁の一日。
そんな私への罰なのか?そんな突拍子もない考えに包まれると、スマホがなる。
「あっもしもし」
とりあえず、スマホをとる。
「もしもし、どーも。NGO法人日本サンタクロース協会のものです」
「NGO法人日本サンタクロース協会?」
「はい。NGO法人日本サンタクロース協会です」
「なんですかそれは」
「それを説明しますね」
俺の戸惑いを何もないことのように話が進んでいく。
「NGO法人日本サンタクロース協会では、独身でパートナーもいない三十歳前後の男性を、12月24日に千人ほどサンタクロースに変身させています」
「変身させている?」
「はい。変身させています」
俺の疑問を無視して、言葉が進む。
「で、今日一日サンタクロースとして、過ごしていただければと思います」
「あの仕事は?」
「あっそれは大丈夫です。すでに会社の承認はいただいております」
すると、はかったかのように会社用のスマホにメッセージが入る。
『米田くん、今日はサンタクロースになるんだって。しっかり頑張ってきてね』
なんだか訳が分からない。というか、会社もそんなに簡単に受け入れられる物なのか?
「スケジュールを説明しますね。本日は19時まで外で適当に過ごしてください。ショッピングセンターなどは避けて、サンタのいなさそうな所を歩いていただけると嬉しいです。適当に皆さんに愛想を振り撒いてください。19時になったら、配達を開始してもらいます。袋は置いていると思うのですが、確認してもらえますか?」
「・・・あります」
「確認ありがとうございます。動作確認はこちらで完了しておりますので、ご不要です」
「あのートナカイは?」
思わず流れに従って聞いてしまう。少し心の中でサンタという事実を受け入れている。
「19時になったら米田様の場所に、直接向かいます。トナカイが自動で配達先へ連れて行ってくれるので、心配は不要です。」
「わかりました。えっと、整理させてください。今日、19時までサンタクロースとして街をブラブラする。19時になったらトナカイが来るので、連れて行ってくれる場所にプレゼントを配る」
「左様でございます。素早く状況を飲み込んでいただき、感謝いたします。」
「飲み込むしかねぇからな!」
思わずツッコむ。
「それでは、楽しいサンタクロースライフを。」
『ガチャッ・・・ツーツーツー』
電話が切られる。
俺は、頭を抱えようとするが、これのおかげで仕事が休みになった。
まあ、とりあえず言われた通りに働くか。と外に出る。
『やばい。楽しい』
外に出てとりあえず、近くの公園へ向かうと、途中であう子供たちが「サンタさんだ!」と言いながら手を振ってくれる。手を振り返すと子供も本当に嬉しそうな顔をする。
親も不審者を見る目はなく、にこやかにしている。
公園に着くと子供たちが近づいてくる。
「サンタさんだ!」「今日うち来てくれる?」「うちもうちも!」
「ホーホッホッホッ」
サンタ風に笑ってみる。
「サンタは良い子の家には必ず現れるよ」
みんなが「やったー」という声をあげている。
19時まで楽しく過ごすと、トナカイがやってくる。
「おぉーこれがトナカイかー」と言葉を出しながら、思わず撫でる。
トナカイは首を後ろに振り、『乗れ』というジェスチャーをする。
後ろのソリに乗ると空を飛び始める。
しまった。防寒対策を忘れてた!と思うが、ソリは少し寒いが快適だった。
ソリが一軒目の家についた。
なぜか鍵は空いている。
俺はノリノリで「メリークリスマス!」と言いながら入っていく。
「えっ誰?」
子供の反応に心が萎む。
「サンタクロースだよ」
「うち、お父さんいないんだけど・・・」
「だからサンタクロースだよ」
「不審者ですか?」
なんだよ!今までと違うじゃねぇか。
だが、そこで気づく。地面に何も物が置かれていない。
ミニマリストか?と考え、尋ねる。
「お母さんは?」
「・・・そこだよ」
すると、母親がこちらを見ながら、「誰かいるの?」と声を出す。
「お母さんは目が見えないの?」
「そうだよ。何か悪い?」
その社会に噛み付くような子供の姿勢に、少し既視感を覚える。
「いや・・・何も悪くないよ。プレゼントだよ」
そう言って袋に手を入れると、ゲーム機が出てくる。
「はい」
「いいの?」
「もちろんだよ。しっかり遊んで」
「お母さんの世話で遊ぶ暇ないんだけど」
「・・・だよね。でも、できる限り遊んで欲しい。諦めないで欲しい」
俺は心の底から湧き上がる声を出す。
「うん」
何かが伝わったのか、子供が頷いてくれる。
「じゃあね」
そう言って家を出る。
「また来てね」
子供が俺に声をかけてくれる。
「また来年くるよ」
俺も声を出す。
それからもトナカイに乗り、様々な家を巡ったが、『普通』の家の子は居なかった。
最後の家を配り終え、呟く。
「狙ってんだろうな」
そして、思い出す。子供の頃、サンタさんと出会ったかすかな記憶。
配り終えたことをサンタ協会に電話して報告する。
「もしもし、配り終えました」
「ご苦労様でした」
「はい。ご苦労様でした」
「サンタ協会では来年度のサンタも募集しておりますが、どうなさいますか?」
「・・・参加します」
「ありがとうございます」
家に帰り眠りから覚めると、髭はいつもの無精髭だった。
ただ、右手にプレゼントを渡し切った重みが残っていた。
早速、母親にビデオ通話をする。
「どうしたの?朝から」
母の指が動く。
「産んでくれて、ありがとう」
顔を真っ赤にしながら、思い出すように指を動かす。
「どうしたの?それより結婚は?」
母は一瞬の沈黙ののちに、笑いながら手話をする。
「頑張るよ。それじゃあ」
ビデオ通話を切る。
何度も鏡を確認しながら身支度を整える。
12月25日、いつも以上にネクタイをしっかりと閉め、ドアを開けた。
冷たい朝の空気はソリの上の空気と同じ匂いがした。
風まかせ文芸部様に参加させていただきました。
お題【サンタさん】
せりふ三題噺に参加させていただきました。
お題せりふ【ホーホッホッホッ】
シロクマ文芸部様に参加させていただきました。
お題【目覚めると】
