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美容クリニックの現実〜ラクそうだから転職した結果〜【第十一話】

辞めると言った途端、急に優しくなった。


次の職場は決まった。

あとは退職を伝えるだけだった。
たったそれだけのことなのに、私は何日も悩んだ。
面接より緊張したかもしれない。
意を決して、私は上司に退職の意思を伝えた。

すると意外な言葉が返ってきた。

「私は◯◯ちゃんは美人だし、接客も丁寧だよね。スタッフにも礼儀正しいし」
「技術はこれからだし、続けていったらきっと良いスタッフになれると思うよ」

私は驚いた。
そんなふうに思われていたなんて知らなかった。
毎日怒られてばかりだと思っていたからだ。
正直、少し嬉しかった。
人は褒められると弱い。

毎日辞めたいと思っていたくせに、その言葉だけで心が揺いたのだから単純なものである。
ちなみに、その話の中で私が今でも覚えているのは「美人だし」の部分である。

他にも色々言われた気がするのだが、そこだけはよく覚えている。
我ながら現金な性格だと思う。
さらに上司は続けた。

「もしここが難しいなら、別の院に異動することもできるよ」
異動。
その言葉に一瞬心が揺れた。
環境が変われば続けられるのではないか。
先輩がいなければ大丈夫なのではないか。

思わず頷きそうになった。

だが次の瞬間、私は我に返った。

そこまで考えてくれていたのなら、なぜ今まで何も変わらなかったのだろう。
なぜ私は毎日辞めたいと思っていたのだろう。
もちろん、本当に引き留めようとしてくれていたのかもしれない。
だが、あの頃の私にはそうは思えなかった。

一度離れた心は、もう戻れなかったのである。

「いえ、異動は考えていません」

私はそう答えた。
すると上司は少し笑って言った。

「そっか。私は言ったからね」

その言葉を聞いた瞬間、心がすっと冷えた。

ああ、やっぱり辞めてよかった。

もちろん私の考えすぎだったのかもしれない。
だが当時の私には

「私はちゃんと引き留めましたからね」
と聞こえたのである。

そこからは退職日までの流れや手続きを淡々と確認した。

さっきまで少し揺れていた気持ちは、きれいになくなっていた。


先輩には自分から退職の話をしなかった。
今思えば子どもっぽい。
だが当時の私はどうしても言いたくなかった。
顔も見たくなかった。
それが私のささやかな意地だった。

退職まであと14日。

あと10日。

あと5日。

私は毎日数えていた。
まるで夏休みを待つ子どもみたいに。
いや、それ以上だったかもしれない。

そして、ようやくその日が来た。

【第12話へ続く】

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