ラテン語で楽しむ格言#29
Nescit vox missa reverti.
「放たれた言葉は戻ることを知らない」
短い一文ですが、2000年以上前から語り継がれてきた、人間の「言葉」の本質を表すラテン語です。
単語ごとの意味
この格言は4つの単語で構成されています。
Nescit
「知らない」「~することができない」
動詞 nescireの三人称単数形。
ここでは「戻ることを知らない」、つまり「戻ることはない」という意味になります。
vox
「声」「言葉」「発言」
英語の voice の語源でもあります。
missa
「送られた」「放たれた」
動詞 mittere(送る)の過去分詞です。
reverti
「戻る」「帰る」
動詞 revertor(戻る)の不定詞です。
直訳すると、
「放たれた言葉は、戻ることを知らない。」
となります。
少し意訳すると、
「一度口にした言葉は、もう取り消すことはできない。」
という意味になります。
この言葉の由来

この一節は、古代ローマの詩人 オウィディウス の叙事詩『変身物語』に見られる表現です。
『変身物語』はギリシア・ローマ神話を題材にした全15巻からなる長編詩で、多くの芸術家や文学者に影響を与えました。

この一節は、放たれた言葉を「放たれた矢」のように捉え、一度発せられた言葉は二度と自分のもとへ戻らないという事実を象徴的に表しています。
なぜ2000年経っても色褪せないのか

古代ローマでは、人は口頭で約束を交わし、演説を行い、詩を朗読していました。
そして、現代では、私たちは声だけではなく、SNSへの投稿、メッセージ、コメントなど、毎日膨大な「言葉」を送り出しています。
削除はできます。
編集もできます。
しかし、一度誰かの目に触れた言葉や、誰かの心に残った印象を完全に消すことはできません。
技術は格段に進歩しています。
それでも、この格言が伝える本質は変わっていません。
