神の子とダンジョン ・ 第7話 − 184
宮殿一階、旧公園跡に面する南側には壁がなく、柱が立っているだけだった。
丁寧に見取り図を書いているジュニア君を見守りながら、オイラは、ようやく落ち着いた気分というものを取り戻してきていた。
驚くようなものは無かったが、二匹のカナクイドリの胃袋からは、
コイン、指輪、腕輪、それに古い鍵まで、ずいぶんと出てきた。
レドゥビアでは、古い鍵は縁起が良いとされ、意外と高値がつく。
カナクイドリ自体も、肉だけでなく、革や頭の羽根まで売れる。
バカルが使えるかもしれないからと、鍵はすべて、合鍵を作っておいてくれた。
帝国に滅ぼされたニケア国の指輪や首飾りなんかも特に人気があるらしい。
遥か西方の国々のものだという腕輪も、同じだ。
トールの奥さんをはじめ、武具屋の女将さん、コーエンさんのお嫁さんやラビ、果ては娘ちゃんまで――
みんな、やけに喜んでいた。
そんな光景を、オイラはぼんやり思い出していた。
宮殿一階の見取り図作成には時間がかかったが、岩トカゲ以外に、特に危険なものは見つからなかった。
アクセサリーが女性たちに喜ばれただけではない。
カナクイドリの儲けで気を良くしたのか、トールが、
「そろそろ、宮殿に行きましょう。」などと言い出した。
危ない狩りはしたくない、と言ったが、ジュニア君の意見は違った。
石塔は宝物殿の可能性が高い。
塔の中身を意味なく空洞にする必要などないでしょうと……
そして、その入口は
宮殿の内部にあるのではないか――
そう言い出したのだ。
エースさんは、すでに宮殿探索を始めている。
多分、バカルも手伝っている。
城からの依頼だろうと、ジュニア君がいう。
トールの奥さんが言った。
「エース様やバカル様以外では、あなたとジャック様くらいにしか出来ない冒険ですね。」
すると、娘ちゃんが、
冒険、冒険、大冒険♬
と、歌いだした。
トールは、奥さんと娘ちゃんに格好つけたがるところが欠点だ
まあ、男ってそんなもんだよな、とも思う。
ジュニア君が言った。
宮殿の地下なら、他のハンターはいない。
エースさんやバカルさん相手なら、精霊魔法を隠す必要もない、と。
宮殿の地下へ降りる階段の前で、三人で打ち合わせをした。
先頭がトール。
次がジュニア君。
そして、オイラ。
その順で進んで行く。
地下一階の床には、うっすらと土埃が積もっていて、新しい足跡がいくつも残っていた。
「エースさんと、バカルさんの足跡でしょう。」と、ジュニア君が言う。
足跡が残っている場所は、ひとまず安全だろう――
そう考えた。
宮殿地下一階の奥、二箇所ほど、明るくなっている場所が見える。
天窓だろうか。
「明るい場所まで行くぞ。」トールがそう言った瞬間、身の回りが、生暖かい何かが、触れるか触れないかという近さで、身体の周りを取り囲んだ。
なぜか耳が痛い。
首を引っ掻かれるような感触もある。
「ギャァァァーッ!」
ジュニア君が叫ぶのと同時に、三人とも出口へ向かって走り出した。
宮殿の外に飛び出した瞬間、空を見上げて、言葉を失う。
何万羽いるのか分からない。
コウモリの群れが、空を覆い尽くす勢いで飛び交っていた。
三人ともが盛大にビビったせいか、互いをバカにするような空気にはならなかった。
ジュニア君が、メリンバではコウモリ料理があるらしいから、仲買に買い取らせるか聞いてみましょうか、と言い出したが、
宮殿探索がバレそうなのでやめておいた。
トールの首から血が出ている。よく見ると、噛まれた跡のようだった。
念のため、毒消し薬を塗り込んでおく。
今朝、石塔攻略の帰り道――
なんとなく、コーエンさんの店の二階の窓を見てしまった。何を期待してるんだよ、オイラは。
「コウモリはいない。
もう一度、行こう。」
そう言って、トールとジュニア君に声をかけた。
ギャァァァー!
また、三人で逃げ出した。
気持ちワリー。
ドアのない部屋だった。
何気なく覗いた……
部屋中、ヘビ。
ヘビが固まって大きな塊になっていた。
床一面、
部屋の天井近くまで、マジで。
どんなトラップだよ、オエー。
トールが震えながら言った。
「ヘビ……。
俺、ヘビだけはダメなんだよぅ。」
仕方ないから、心を鬼にして言った。
「奥さんには内緒にしとく。」
そう言うと、トールは少しだけ立ち直ったようだった。
そういえば、エースさんが城の西門側の酒場に行け、とか言っていたな。
少し値は張るが、気の利いた、綺麗なお姉さんが給仕してくれるらしい。
レドゥビアでは、16 歳は大人だ。
もう1度言う、16歳は大人。
「エースに言われて来たって言え。」あれは、どういう意味だったんだろう。
とにかく、稼いでからだ。
「ビビんな! もういっちょ行くぞ!」
西門辺りの店が呼んでる!
ギャァァァー。
死ぬ!
絶対、死ぬ!
地下二階から、何か出てきてさ。
トールが、
「少しはデカいが、大カナトコだ。」って言うから、
オイラの与三郎で一撃だと思った。
……うん。
そのつもりだった。
でも、デカ過ぎる。
尻尾を振ってくる。
ヒュンって空気が鳴った。
速い。
なんとか避けたと思ったら、口を、ガバッと開けた。
オイラ、丸呑みされるかと思った。
出口で震えていたら、エースさんが現れた。
「血まみれ一家じゃん。宮殿、入ったの?」
続きます
******************
タイトルカットと、記事末イラストは、いつもの優音先生です。
優音先生の作品紹介
私が書くよりは上手DEATH
最後に、ワガママを言って描いて頂いた、ラビちゃんのイラスト
優音先生に、西門辺りの店の女の子をお願いしたら、どうなるのかな?💗
タイトルカットのデートシーンのひとコマ、そんなラビちゃんです。

