ノカナのジャック【第1話】 − 155

 よお、俺はジャック。  
 つまんない名前かもしれないけれど、気に入ってる。
 この国・ノカナで、ゴミ拾いをして暮らしている。  

 十五歳の子供にできる仕事なんて、それくらいしかないんだけどさ、  そこそこ腕利きなんだぜ、俺。

 先週から街は、レドゥビアがレンダ峠の戦で帝国軍を追っ払ってくれたって、  祭り騒ぎが続いている。  
 だけど、浮かれている場合じゃないんだ。

 峠からカナト高原へ続く街道沿いで、  砲丸がゴロゴロ転がっているのを見つけた。  
 レドゥビアの鉄は質がいいんだ。  
 重たいから一度に三個までしか運べないけど、  ここだけの話、ちょいと聞いてくれよ。

 俺は毎日、峠の守備隊長に昼飯を届けている。   
 サービス、ようはタダだ。
 ドリーの店のサンドイッチは人気があるんだ。  
 俺は一度も食べたことないけれど、  いつか腹いっぱい食べてやるさ。

 日暮れ少し前に守備隊長から日誌を受け取り、  街中にある衛兵詰め所へ届ける。  
 それで4バリイの稼ぎ。
 ドリーの店のサンドイッチが、ちょうど4バリイだ。
 だから俺は、守備隊長に頼んで、再建した砦の近くの岩陰に集めた砲丸を積んでいる。
 まあ、それを見逃してもらってるってワケだ。

 ノカナの軍隊には大きな大砲なんかないから使い途はないし、兵隊様は誇り高い方々だから、屑鉄屋なんかとは、付き合いなんかしない。

   *    *    *

 二カ月以上かかった。
 三日月の夜中、集めた砲丸を砦のある峠の頂上から、  麓に向かう街道から転がした。  
 ああ、全部だ。

 手の皮は剥けるし、腰は痛くなった。  
 それでも、日の出までには集めた砲丸をすべて、  峠の上から転がし終えた。
 峠の麓では、イルおじさんが転がってきた砲丸を工場に運び込む。  
 それだって、相当大変だったらしい。
 イルおじさんの工場が、峠の麓だったのはラッキーだったよ、ホントにね。

 それからは大忙しだったなぁ。
 怪しまれたくなくて、毎日峠には通った。  
 街道沿いの砲丸は集めきったから、  道を外れた沢や、土にめり込んだやつを拾う。  
 手間ばかりかかって、集まりは悪かったけどな。
 帰り道で砲丸を見つけては、またイルおじさんの工場に向けて転がす。
 それが大事、細かいことを面倒がっていたら生きていけないしね。

 日報を届けた後、そこからが本番。
 イルおじさんと交代しながら砲丸を溶かし、粗鋼にする。  
 交代しながら、一晩中だ。
 イルおじさんは、  
「特別な仕入れ先から、たまたま手に入った鋼だ。」  とか言って店に出す。

 分かる?  
 拾った鉄を、そのまま高く売るなんて、  そんな都合のいい話はこの世にないんだ。
 イルおじさんは屑鉄屋だけど目利きだし、  長く商売してきたから、上客もいる。

 最初は鋼を、  
「よかったら、お値頃な値段で買ってくだせえ。」  
 なんて、ほとんどタダ同然で仲買に回していた。
 でも、そのうち高値買い取りの話が来た。

 あの日は痺れたなあ……。

 高値をつけた仲買屋に、イルおじさんは土下座した。

「長くご贔屓にして頂いてますから、ぜひ、そちら様に引き取ってほしい。  
 ですが……別口から、倍のお値段で話が……」

 そう言って、涙を流しながら、断った。
 
 結局、その仲買屋が三倍の値段をつけて手打ちになった。  
 レドゥビア鉄はスゲエ。

 イルおじさんに、  
「まだ値をつけられたんじゃねえのか?」  と聞いたら、
「つけあがると、殺される。  
 何事も控えめにして、相手にバカだと思われることが肝腎だ。」だってさ。  
 カッコ良かったあ。
 やっぱり長く商売してる苦労は無駄になんねぇなと思い知ったね。

 イルおじさんの工場には、まだ二百個くらいの砲丸が残っていたけれど、最後の粗鋼を引き渡して代金を受け取った日、俺は峠通いの仕事を辞めた。

 初めて、ドリーの店のサンドを食べたよ。
 夢って叶うんだな。  
 美味すぎて、頭がおかしくなりそうだった。

 ドリーのサンドを一緒に食べながら、イルおじさんはゴツゴツして指の曲がってしまった手で、涙を拭っていた。
「こんな美味いもんと酒なんか、何年ぶりだか……
 ジャック、ありがとうな。  
 まだ砲丸は残ってるし、大儲けもできた。」

 そんなことない。  
 本当に、取り分半分が俺でいいのかよ。
 俺は本心から、そう思った。

 すると、イルおじさんは言った。

「ジャック。  
 オマエは、これからどうする?」答えなんか、決まっていた。

「俺は、レドゥビアに行く。  
 きっと、あと何年かでレドゥビアは帝国と戦になる。」
 帝国に逆らうのか、と聞かれたけれど、俺は、戦姫アルス様に仕えて英雄になりたい。  
 そう答えた。

 イルおじさんは工場の奥から、赤ん坊の拳くらいの鉄の塊を持ってきた。  
 卵みたいな形の、不思議な形の機械だ。

「持って行け。  
 宝具【魔弾】という。  
 ワシには、いらないものだ。」

 こうして俺は、ノカナを出た。

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