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神の子とダンジョン・第6話 − 181

「で、今夜は何狙いなんだよ、ジャック。」
 石塔に、デカいカナクイドリが二羽いるらしいと話すと、バカルがヒュ〜っと口笛を鳴らした。
 それに加えて、まだ誰一人として登り切った者がいないという、塔の頂上にも行ってみたい。

「ダンジョンの二大未踏地に手を出すとはね。」旧市街入り口の門にランタンを置きながら、バカルが言う。
 月のない夜だったから、それに合わせて、互いの前に最低限の明かりを灯した。

「これくらいでいい。明る過ぎると獲物が気づきやすい。」バカルはそう言って、辺りを見回す。
 真夜中は精霊も濃いし、この時間にダンジョンへ来る者もいない。
 バカルは魔法に驚くこともなければ、いちいち質問しないでくれるのも気楽でいい。

「二大未踏地といっても、宮殿探索は始めてるよね。」
 オイラがそう言うと、バカルは答えずに、代わりにこちらを見て口を開いた。

「前にも聞いたが、このハンニバル、本当に貰っていいんだな。」

「勇者はいいと言ったさ。
 それに、東洋の“咒い札”の力に、もう気づいているんだろ?」
 バカルは、やれやれといった表情で苦笑しながら、ハンニバルを抜いた。

 闇の中で、刃が静かに光る。
 オイラも戦斧を構える。
 襲いかかってきた野犬の頭を、斧で叩き割る。
 その間に、バカルは二頭を斬っていた。

「どうって、見ての通りだ。良い剣だ。」そう言ってから、ちらりとこちらを見る。

「……ところでオマエ、戦斧かよ。」
 武具屋の親父さんが見繕ってくれた。
 これでも、なかなかの業物だ。
 与三郎って名前を付けてる、と言うと――「センスねえわ、オマエ。」
 そう言って、バカルはまた笑った。
 
 ダンジョン奥と呼ばれる、石塔や宮殿に面した旧公園跡で、再び野犬の群れに遭遇した。

 十頭を超える群れだ。
 野犬どもが動き出す前に、まとめて宙に浮かせる。
 三頭ほど逃したが、バカルが何とかするだろう。
 残りを、まとめて池の真ん中へ放り込む。
 水面が割れ、黒い影がもがく。
 池から上がろうとする野犬の頭を、斧で潰す。
 逃げ出した奴は、もう一度宙に浮かせて、そのまま池に叩きむ。
 その繰り返し。

 面倒だったが、魔弾もナイフも使わずに済んだ。
「こっちは、ハンニバルを振り足りない気分だからな。
 もっと回してくれよ。」
 そう言うバカルと並んで、石塔の周囲を確認する。

 唯一の入り口を覗き込むと、床にはカナクイドリの羽根が落ちていた。
 戦斧を背中のホルダに収め、宝具のナイフを取り出す。

 入口の奥から、螺旋階段が上へと伸びている。
 階段の幅は、七フィート
 (およそ2メートル)ほどだった。
 バカルが階段の外側。
 オイラが、階段の内側。

 壁面や床にトラップがないか注意しながら、二人で、ゆっくりと石塔を昇る。

 ゆっくり。
 そーっと。
 さらに、ゆっくり。
 そーっと。

 やがて、階段の出口が見え始めた。
 気を張ったまま、
 そーっと。
 ゆっくり、ゆっくり。

 階段の床には、カナクイドリが落としたのだろう羽根が、明らかに増えている。

 バカルが動きを止め、
 行く手の上を指差した。
 暗闇の中だったが、夜空が見えた。

 バカルが身振り手振りで、退却の合図を出す。
 カナクイドリに気づかれぬよう、
 ゆっくり。
 ゆっくり。
 そーっと、階段を降りた。

 石塔を出て、池の側まで戻る。

「おかしいだろっ!」バカルが、小声でまくし立てる。
「螺旋階段だけって、あの石塔、中が空洞かよ。
 しかも、出口で待ち伏せされてたら厄介だぞ。」
 つられて、こっちも喧嘩腰になる。

「うるせーよ!
 中身は、登れば分かる。
 カナクイドリが寝てるなら問題ないし、待ち伏せてるなら、好都合だ。」

「どう好都合か、言ってみろ。」
 そう言われて、オイラは説明した。

 オイラは石塔の外壁沿いを、精霊魔法で浮かび上がる。
 空を飛ぶのは難しいし、しくじると怪我をするから本当は使いたくないが今回は仕方ない。

 塔の頂上へ通じる出口が見える位置で、バカルを待った。
 暗闇の中、出口の側にはカナクイドリが二羽。
 明かりの魔法は、気配を殺す程度に抑えている。
 どうやら、まだ気づかれていない。
 ――やはり、起きていたか。

 ナイフをしまい、戦斧・与三郎を両手で構える。
 しばらくして、出口の縁にハンニバルの剣先が現れた。

 大きい方のカナクイドリが、すぐに長い脚で剣先を蹴ろうとするが、空を切る。
 その瞬間、飛び出した。

 浮かび上がるための魔法を解除して、小さい方のカナクイドリに、大地の力を集める。
 人間相手なら金縛りに出来るが、動きを鈍らせるのが精一杯だ。
 自分自身を宙に浮かせた直後だから、仕方がない。

 カナクイドリの蹴りを与三郎の柄で受け、その反動を使い胴体へ、一撃。
 視界の端では、バカルが大きい方と睨み合っている。

 バカルと目が合った、その瞬間――
 オイラは、バカルにかけていた明かりの魔法を解除した。

 こちらも、カナクイドリも、暗闇の中では互いの姿が見えない。
 だが、二羽のカナクイドリはパニックを起こし、周囲を闇雲に蹴りまくっていた。

 低く身を構え、足元だけを狙う。
 しばらくして、脚を切り払うことが出来た。

 ―バカルの声。
 明かりの魔法をかけ直す。
 片脚が使えなくなっても、2羽とも倒れることはなく、嘴で激しく攻撃してくる。

 だが、動きに慣れてしまえば、躱すのは難しくない。
 鮮やかな動きで、バカルは嘴を打ち払い、返す刀で、カナクイドリの首を落とした。
 バカルが気に入るだけあって、ハンニバルの斬れ味は良さそうだ。

 オイラの方は、一撃を入れてあるうえに、大地の力で抑え込んでいる。
 嘴を避け、
 脚を払い、
 そのまま頭を潰した。

 東の空が白み始めていたので、魔法を解いた。

 空が明け始める中、バカルが石塔の内壁に、ナイフで自分とオイラの名前を彫り込んだ。
「やったぜ、石塔初制覇!」心底、嬉しそうだった。

 夜が明けきる前に、大地の力の魔法でカナクイドリを軽くして、旧市街の出口まで運び出す。
 獲物の始末はバカルに任せ、
 夕方、また会うことにして別れた。

 デカいカナクイドリは、胃袋にいろいろ溜め込んでいることが多いらしい。
 石塔の中身については、ジュニア君に話してみよう。

             続きます。

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 タイトルカットも、作画:優音先生

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