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神の子とダンジョン ・ 第31話 − 220

 ワタシの百合姫様。
 ……いえ、正確にはワタシが大好きなフランソワーズ様は朝が早い。
 あのフロリアの日から、こっそり「ワタシの百合姫」と呼んでいるのだけれど。

 朝五時。
 百合姫は屋敷の前庭で、お父様と棒術の稽古をなさる。
 薄い朝靄の中、ガッチガチに鍛えられた逞しいお父様の一撃を、百合姫様は受け流して突きを放つ。

 遠くからその御姿を拝見させて頂きながら、伝説の聖騎士百合姫もかくあったのだろうかとワタシは胸をときめかせる。

 いつかレドゥビアが危機に落ちるようなことがあっても、フランソワーズ様が民を護ってしまうのだろうと妄想してしまう。
 いや、護ってしまえる気がする。

 ワタシはただ、百合姫様のために精霊王様に祈るだけ。
 彼女を傷つけようとする者がいれば、その者の心臓が、静かになりますように祈るだろう。

 稽古を終えられると、犬。
 仔犬というには少し大きい。
 先日、トール二世が旧市街から連れ帰った犬だ。
 ワタシは二世と年が四つ違うけれど、小さな時は良く遊んでもらった。
 優しくて動物好きだったことを憶えている、今ではシルバーリボンの少年剣士。
 分からないものよね。

 あ、二世のことなんかどうでもよくて、百合姫様は犬にもお優しい。
 そして、親切にお言葉をかける。

「よい子ですね。
 いずれ兄上やジャック様のお役に立てるよう、強くなるのですよ。」
 そう仰りながら、公園へ向かわれる。

 公園に着くと、犬の首輪の鎖を外しておやりになる。
 御愛用の棒を軽く振るい、宙に放った枝をそれは見事に打ち飛ばされる。

 犬は歓喜し、土を蹴り、枝を咥えて戻る。 
 百合姫様がそれを何度か繰り返す。
 朝の光の中、そのお姿はワタシにはあまりにも眩しい。

 ―― 百合姫様、誠にお見事でございます。 
 胸の奥で、ワタシはそっと叫ぶ。
 

公園で感激@リゼット

 それからワタシは家に帰り、ママと朝食の支度をする。
 弟も起こしてやる。
 弟は八歳。
 いつも起こさなきゃいけないくせに、最近生意気になってきた。
 それなりに可愛いくは、あるのだけれど。

 百合姫様は六歳
 うん、特別なのよね、きっと。
 普通の子供とは違う。
 …… 弟やワタシと比べてはいけない。

 朝食のあと、家族で精霊王様に祈りを捧げる。

「今日も無事でありますように。」パパが言う。
 ワタシは心の内で少しだけ言葉を足す。
 ―― フランソワーズ様が健やかでありますように。
 ―― フランソワーズ様の今日も善き日でありますように。
 そして、ワタシと家族が変わらぬ朝を迎えられたことに感謝する。

 エコール(小学校)へ向かう前に、隣の教会へ行く。
 聖騎士百合姫様の壁画を見る。
 何度見ても、あまりにも、あまりにも似ている。
 扉の陰から通りを覗く。

 フランソワーズ様が歩いて来られる。
 胸が高鳴る、ワタシは人より少しだけ早く死んじゃうんじゃないかと思う。

 タイミングを合わせて外へ出る。

「リゼット様、おはようございます。」
 ……ああ。
 少しくらいなら、早く死んでもイイか!って思う。
 浄らかなワタシの恋。

「おはようございます。」
 精一杯の笑顔で返す。

 そして三十フィートほど後ろを、静かに歩く。
 それが、ワタシにはちょうどいいくらいに感じる。
 ワタシは十一歳。
 来年にはロージュ(中学校)へ上がる。
 フランソワーズ様と同じ学び舎に通えるのは、今年だけ。

 大切にしよう。
 ひとつでも多く、憶えておこう。

 ……その時、
 フランソワーズ様が立ち止まられた。

 通りで開店準備をしていた大人達がざわめく。

 雄鹿。
 若い鹿だけど角がある。
 大人だって怖がる。

 ワタシは考えるより先に、駆け出していた。
 フランソワーズ様の前に立つ。

 鹿の息が荒い。
 地面を掻く蹄。
 城下に迷いこんで、鹿だって驚いているのだろう。

 ワタシに出来ることは、祈ることだけ。

「精霊アニマよ……伝えて下さい。
 あなたの森は東にあります。
 私達は敵ではありません。」

 胸がドキドキする。

「精霊アニマよ、お願い伝えて!」

 鹿の耳が、わずかに動く。
 荒かった息が、少しずつ静まっていく。
 やがて、ゆっくりと東の森の方へ向きを変え、歩き出した。

 ほっとして振り返る ――

 フランソワーズ様が、きらきらとした目でワタシを見て

「リゼット様は、
 あの鹿さんとお友達なのですか?」
 と言って、小首をかしげた。

 ワタシの心臓が、一瞬止まった。
 ほんの一瞬
 確かに止まった、嘘じゃない。


             続きます

 ******************

  今回のリゼットのイラストは、優音先生のタッチを学ばせたフレキシブルフランクこと、ChatGPTの作画(優音先生の神ダンのタッチに似せての制作です。)
 まあ、こんなものダヨネ

 優音先生の記事は、こちら
 神ダンのリンクもあります。


 


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