元インターン生が語るDCユナイテッド。黒川圭介選手の挑戦に寄せて
ガンバ大阪の左サイドバック、黒川圭介選手がMLS(メジャーリーグサッカー)のDCユナイテッドへ完全移籍するというニュースが飛び込んできました。
実は私にとって、DCユナイテッドは非常に思い入れの深いチームです。
今から約18年前の2007年9月〜12月、アメリカの大学院在学中に、同チームのチケット・セールス部でインターンシップを経験していました。今回は、当時の貴重な体験談を振り返りたいと思います。
掴み取ったDCユナイテッド インターンへの道
私は2006年から2008年まで、コネチカット州ニューヘイヴンにあるニューヘイヴン大学(University of New Haven)の修士課程でスポーツ経営学を専攻していました。
修士号取得には36単位が必要でしたが、そのうち3単位はインターンシップが必須。2年目に突入した私は、東海岸のプロチームを中心に必死に受け入れ先を探しました。
ニューヨーク・レッドブルズやアマチュアチームには縁がありませんでしたが、エリアを広げて応募したのが、ワシントンDCに本拠地を置く「DCユナイテッド」でした。
応募から1週間後、突然電話が鳴りました。相手はチケットセールス部のトップ。 「無報酬だが、やる気はあるか? ワシントンDCまで通えるのか?」 この問いに、私は「もちろんです!」と即答しました。
東京〜京都間に匹敵する「夜行列車」での通勤
当時の授業は月曜から水曜まで。そのため、水曜の深夜12時頃にニューヘイヴン駅を出発し、木曜の早朝6時頃にワシントンDCに到着するアムトラック(Amtrak)の深夜便で通う生活が始まりました。
インターン先のオフィスは、今では解体され無くなってしまった野球とサッカーが兼用のRFKスタジアム中にあるオフィスでした。

ニューヘイヴンからワシントンDCまでは約500km。日本で言えば東京〜京都間に相当する距離です。アメリカには新幹線のような高速列車がないため、片道6時間の長旅。木曜・金曜、そしてホームゲームやイベントがある土曜日まで活動し、またコネチカットへ戻る日々でした。

木・金曜でインターンが終わるときは、帰路途中のニューヨークに立ち寄って、FC Japanというサッカーチームの練習や試合に参加していました。
現場で直面した「言葉の壁」と「営業の厳しさ」
インターンの仕事は、端的に言うと雑用でした。
顧客リストへの電話・FAX営業(プレーオフやシーズンチケットの提案)
ホームゲームの運営補助(来場者プレゼントの仕分け、ハーフタイムイベントの進行)
地域コミュニティ向けのサッカー教室運営補助

留学から1年が経っていましたが、ネイティブの、それも早口なスタッフとの会話は困難を極めました。特に相手の顔が見えない電話でのコミュニケーションは、今思い出しても冷や汗が出るほど難しかったです。
当時、ベッカム選手がLAギャラクシーに移籍してMLSが盛り上がりを見せて始めていた頃です。私は日本人スタッフとして、ワシントンDCの日系企業や大使館、テレビ局の支局などへ営業電話をかけましたが、当時はまだ日本人スター選手がおらず、チケット販売に結びつけるのは容易ではありませんでした。
MLSから学んだ「徹底的なターゲット戦略」
この4ヶ月で学んだ最も大きなことは、プロスポーツ界における「後発リーグの生き残り戦略」でした。 アメフト・バスケ・野球の3大リーグが市場を独占する中で、サッカーがいかにしてファンを獲得するか。DCユナイテッドは、徹底的に「若年層」と「中南米系移民」に狙いを定めたグラスルーツ・マーケティングを実践していました。
データの蓄積: 週末に無料サッカー教室を開催し、参加した家族の連絡先を獲得し、地道に顧客リスト化する。
バイリンガル戦略: スペイン語圏のスタッフを雇用し、スペイン語でのPRを徹底する。
プロのノウハウ導入: 3大リーグで経験を積んだベテランスタッフを要所に配置する。
信じられないサプライズ
インターン生活で一番の財産となったのは、人との繋がりです。 特に、エルサルバドル出身のスタッフ(Armando Portillo氏)とは、私がスペイン語を話せたことが功を奏し、非常に親しくなりました。
インターン終了間際、彼から驚くべき誘いを受けました。ラスベガスで開催されるMLS全クラブ合同の懇親会に、個人的に連れて行ってくれるというのです。しかも、ワシントン〜ベガスの往復航空券、MGMホテルの宿泊費、食事代まで全て彼が負担してくれました。
一介のインターン生に対し、これほどまでの厚意を寄せてくれた彼、そしてチームの温かさには今でも感謝の言葉しかありません。
おわりに
アメリカのスポーツビジネスの熱気、そしてDCという街の力強さを知っているからこそ、彼の移籍がどれほど挑戦的で素晴らしいものか分かります。黒川選手、DCユナイテッドでの活躍を心から応援しています!
