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【連載】第9話 ー 初舞台(後編) ー|ゆっくり、だけど、確実に。

会場が少し暗くなる。演奏開始の時間が遂にやってきたのだ。僕たちは心を決め、練習してきた3曲を最高のものにしてやろうと思った。

そんな緊張感の中、ボーカルのTがキョロキョロしながらみんなに確認を取り、開始の挨拶を始めた。

「え~っと、じゃあラルクの『Blurry Eyes』をやります。」

なんだ、このクソみたいなMCは!第一声がそれか!と、今ならツッコメるのだろうけど、僕らは硬直しかけの5人。誰も何のフォローもできずに心の準備だけを済ませる。Tが大きく息を吸い込み、緊張感が伝わってくる。そして僕はハイハットでカウントを始めた。

シャーン、シャーン、シャーン、シャーン!!

「Blurry Eyes」のテンポを出し、みんなで勢いよくイントロを始めた!かに思えたが、ギターのKとIがとんでもないミスをし演奏をやめてしまう。そしてそれに釣られるようにストップするベースのSと僕。失笑する会場、キレ始めるボーカルT。空気は最悪だ。

「もっかいいきます、すんません。。。」

気を取り直してもう一度カウントから始める。が、しかし!またもや同じミスを繰り返すKとI!!当然の様に演奏は止まり、もうどうしていいか分からないステージ上の5人。僕の地元の友達が「気にせんでええよ~」と優しく声を掛けてくれていたのだが、そんな声は耳に入らず、苛立ちを募らせたボーカルのTが怒鳴る。

「止まんなよ!!」

かくいう僕は、「自分のミスじゃないし、俺はあまりかっこ悪くないはず」と、とんでもなく自己中心的に考えていた。次はもう流石に失敗できないぞ、と思い同じ曲の三度目のカウントを始めた。うまくいってくれ、と神に祈りながらようやく魔のイントロからの脱出に成功した。

その後もボロボロになりながら、なんとか一曲目を終え、とてつもなくやるせない気持ちに陥っていた。こんなことをまだ後二曲も続けないといけないのか。そう思うと心が折れそうだった。

「すみませんでした。。。」

Tが観客に向けて心なく呟く。直後に「謝らんでもええがな」と観客から父の声が。次の曲はベースのSがフィーチャーされる曲だ、なんとかここで持ち直したい。そう思いながら、ベースイントロが始まり、それといった大きなミスも無く「SHUTTER SPEEDSのテーマ」を安定したまま終えることができた。この曲が終わり、ようやくバンドも少し楽になり気持ちも落ち着いてきた。次は最後の曲だ、ビシッと決めたい。

「え~、『誘惑』をやります。」

相変わらず締まらないTのMCだったが、3曲の中で一番有名で人気のある曲だったせいか、会場からは声援があがり盛り上がり始めた。この曲はドラムから始まる、俺がイントロでキメてやる。そう自分に言い聞かせ、勢いよく何度も練習したドラムイントロを始めた。

タカタカタッタッ タッタッタッタ
タッタッタッタ タッタッタッタ!

文化祭本番

自信を持って叩いたせいか、会場の空気も少し締まったように思えた。興奮と緊張で少しテンポは速いがいい感じだ!そのままイントロを無事に終わらせ、ボーカルが入る。そして観客も聴き慣れたメロディーに耳を澄ませる。順調にAメロ、Bメロと進みいよいよサビがやってくる!、、、はずだったが、さっきまで怒っていたTのやつ、なんとサビの入りを完全に見失ってしまったのだ!そのまま演奏は続き、Tは一番のサビを一切歌わず、僕たちは間奏に入ってしまった。なんということだ、またしてもこんな凡ミスが起こるのか。。。だがしかし、そんなことにはもう構ってられない。Kのギターソロが始まり、相当練習した甲斐もあって滑らかに進んだ。ようやくKも自分の見せ場を作ることができ、バンドの勢いも戻ってきた。間奏が終わり、Bメロに戻ってくる。今度はちゃんとサビに入ってくれよ、と期待を込めて演奏し、そしてTもそれに応えた。最後のサビでやっとバンドらしく僕らは演奏することができ、エンディングもうまくキマった。観客もそれなりに反応してくれ、興奮冷めやまぬまま余韻に浸りたいところだったが、次のバンドのセッティングもあるのですぐに舞台上からはけた。

荷物を片付けている時に、最初に演奏していた上級生のバンドのドラマーが自分のところにやってきた。

先輩「自分なかなかうまいな~、ドラム始めてどのくらい?」
僕「まだ半年ぐらいです。」
先輩「そうなんや、しっかり基礎できるしすごいな~。ちなみにバスドラムはこうやって踏んだり色々研究してみたらいいで。」

と、自分の演奏を褒め、アドバイスまでくれた。今まで全然知らなかった者同士が、ドラムという楽器をフィルターに心が通じあった。それは自分にとって嬉しいできごとであったし、音楽が繋げる物語や出逢いに感動した。

そしてあれだけボロボロだったにも関わらず、ライブの楽しさだけは全員が感じていた。

ステージ袖に集まった僕たちメンバーは、改めて本気でバンドを組もうと誓った。ただ一番ミスの多かったギターのIはクビになり、そのまま残った4人でバンドを結成した。これが僕のバンド生活の始まりであった。


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