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【連載】第11話 ー 500 Miles High ー|ゆっくり、だけど、確実に。

バンド活動も辞め、完全な帰宅部となった僕は、残りの高校生活を何の情熱もかけずに過ごした。ドラムや音楽に本気で向き合うこともなく、ただただ悪友と毎日どうしようもない日々を送っていた。別に非行に走ったというほどでもないが、ティーンエイジャー特有の、何の理由もなく「悪ぶりたい」、という一種の病気のようなものにでもかかっていたのかもしれない。

タバコを吸ったり、お酒を飲んだり、バイクに乗ったり、喧嘩をしたり。特に何かに不満があるのかと言えばそうではないし、でも全てに満足しているかといえば素直に肯定もできない。良く言えば「青春」、悪く言えばただの「バカ」。そんな毎日を過ごしていた。呆れた親には何度も「もうドラムも辞めるか?」と訊かれたこともあったが、なぜだかそれだけは避けないといけない、と心のどこかで思い、やる気は無いにせよドラムだけは続けた。

また、今でも唯一高校時代から繋がっているのは、その「青春」もしくは「バカ」の日々を共に過ごし分かり合えた悪友たちだけであり、その友情は僕の中でずっと大切なものとして残っている。

悪友と

そんな中、転機が訪れる。以前ニュージーランドに留学していた兄が、今度はアメリカの大学に留学することになった。場所はロサンゼルス、アメリカ有数の大都市だ。兄が日本を離れ一年が過ぎた頃だっただろうか、僕は兄を訪れた。福盛進也、高校2年生の冬のことである。LAの空港に到着し、兄にピックアップしてもらう。そして兄の住むアパートに着くや否や、「これからジャズクラブに行く、これは絶対観た方がいい」と、すぐさま外に連れ出された。到着したのはLAの有名なジャズクラブ、Catalina Bar & Grill(現Catalina Jazz Club)。数々の著名アーティストが出演し、現在でも多くの名演が生まれ続けている場所だ。そしてそこで演奏をしていたのは、当時アルバムをリリースしたばかりだったChick Corea New Trioであった。

何の前情報も無く訪れた初めてのジャズクラブ。色めき立つ雰囲気の中、ここでどんな音楽が演奏されるのかワクワクしながら待つ。着席してもソワソワして落ち着かない。明かりが変わり、いよいよ開演の時間。3人のミュージシャンが入ってきた。最初の音が鳴った瞬間、僕は完全に打ちのめされた。今まで聴いたことのない、とてつもなくカッコいい音楽に衝撃を受けまくった。何が何だか分からないけど、ただただ興奮しまくった。そのまま僕の興奮と共にライブは続き、盛り上がりに盛り上がった後半、Chick Coreaの妻のGayle Moranがゲストでステージに上がる。ゆっくり始まるイントロ、そしてブレイクを機にトリオがグルーヴを始める。ドラムのJeff Ballardがドラムンベースのリズムを刻み、Avishai Cohenがそれを支えつつも自由に突っ走る、そして歌うGayleに反応するChick。

「なんなんだこの音楽は!?」

度肝を抜かれた僕は、その興奮を最後まで抑えることができなかった。そしてこれが、僕が人生で初めて生でジャズに触れた瞬間であった。

次の日、LAのCD屋に向かい、兄の友人にお勧めしてもらったChick Coreaの「Akoustic Band」のアルバムを購入し、しばらくの間そればかりを聴いていた。このアルバムには、あの有名な「Spain」が収録されているのだが、オリジナルとは全く違うアレンジメントだったので、数年後に初めてオリジナルを聴いた時は相当驚いたことを覚えている。

LAでたっぷりと刺激的な毎日を楽しみ、その後日本に帰った僕は早速ブルーノート大阪に足を運んだ。あのChick Corea New Trioが、新譜『Past, Present & Futures』を引っ提げたツアーで今度は日本にやってきていたのだ!開場一時間以上前に到着し、既に数人並んでいた列の後ろに陣取り、入場した瞬間に前の方の席を確保した。その時に食べたエビチリがとても美味しかったことを覚えているが、そんなことよりも何よりも、やっぱり彼らの演奏はもちろん最高だった。公演が終わり、例の新譜とTシャツを購入し、サインをもらうために楽屋へと向かった。その時にサインは一つまでとスタッフに忠告されていたのだが、Chickを始めメンバー一同「もっとサインしていいよ」と笑顔で応えてくれ、アルバムとTシャツのみでなく、なんと僕の財布にまでサインをしてくれたのだ。

Chick Coreaと - 当時のBlue Note Osakaにて

そして帰る前に、バーカウンターでタバコを吸っているとサイン会を終えたAvishaiとJeffがやってきた。勇気を出して話しかけてみると、「タバコ一本もらえないか?」とAvishaiがお願いしてきたので、「もちろん」と彼に差し出した。彼がタバコを吸っている間、Jeffにも拙い英語で話しかけてみた。

「この前Catalinaにも行って観たよ、素晴らしかった。僕もドラムを始めたばかりで、いつかプロになりたいなと思ってる。」

そうやって熱い想いを伝えた。すると、

「そうか、ドラムをやっているのか。じゃあいつかお互いプロのドラマーとしてもっと活躍した時に再会しよう。」

とJeffが返し、僕らは握手をして再会を誓った。

それから15年。Unterfahrtという、僕自身もよく演奏していたミュンヘンのジャズクラブに、Wolfgang Muthspiel Trioの一員としてJeffがやって来た。演奏後、僕は話しかけに行き、15年前の出来事を話した。もちろん、そんな昔のことをJeffは覚えていなかったのだが、その後夜中まで一緒に飲み、2人ともベロンベロンに酔っ払い、15年前の約束をちゃんと果たせたのは、とても感慨深いものであった。

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