【乳がんでも1軍でいく】⑭ 放射線治療(4):リニアックと私とビートルズ。という話
はじめに
本日も記事を覗いてくださり、ありがとうございます。
ふと窓の外を見上げながら、あるいは日々のニュースに触れながら、今もなお困難な状況や心痛の中におられる方々のことに思いを馳せています。
熊本の地震から胸を痛めている方、今まさに日常を取り戻そうと奮闘されている方が、この中にもいらっしゃるかもしれません。どうかこれ以上、心や体が傷つくことがありませんように。心よりお見舞い申し上げます。
🍀放射線治療10回目:友だちができた!
5月。木曜日。
いつもの放射線治療の帰り。
偶然、放射線治療科からのエレベーターでご一緒になった女性と
「ここ、迷っちゃいますよね〜!」
と話したのがきっかけで、なんと、この病院ではじめての”お友だち”ができた。
ちなみに、幼稚園時代から2、3年おきに転校を繰り返していた私の辞書に、「人見知り」という単語はない。見たことも、ないです。
お話してみると、その女性も、私と同じ「乳がん」で「小葉がん」とのこと。さらに、私が退院した頃に、ちょうど入れ違いで入院されていたこともわかった。
お互い、同じ少数派の小葉がん同士であることだけで、もう一気に親近感がわき、話が止まらなくなる。検査のこと、痛みのこと、過ごし方、ケアの仕方、不安な気持ち。照射後にもかかわらず、30分も廊下の隅っこで溢れるように話が続く。
乳腺外科も放射線治療科も同じ主治医で、年齢もほぼ一緒。そして家族構成も驚くほどそっくりという、奇跡のような出会い。昨日から放射線治療がスタートしたとのことで、私は図らずも「放射線先輩」へと昇格いたしました。ありがとうございます。
放射線治療の「照射予約時刻」というのは原則固定されているため、毎日、待合室へ向かうと、ほぼ同じメンバーが並んで座っている。これまでお見かけしていた多くは、年配の男性だった。そんな中で、同じ乳がんの方と出会えたこともあり、私たちはすっかり意気投合してしまった。
二人とも照射予約時間が同じなので、これから毎日、顔を合わせることになる。「嬉しいですね!」と喜び合った。
その晩は、これまでで一番、楽に夜を迎えられたかもしれない。
放射線治療に通って、お友だちができるなんて。人生、なかなか油断ならないものだ。
✣ ✣ ✣
🍀11回目:雨天、設営、ビートルズ
5月の半ばで、朝から大雨。
しかも、気温が低い。
レインコートを着て、寒さを感じながら自転車を出発させた。
私は、体に雨があたる感覚が大好きだ。
レインコート越しに雨粒を受けていると、子どもの頃、全身ずぶ濡れになって遊んだときのような、あの自由な気持ちを思い出す。大人なのに、こんなにワクワクすることって他にあるのかな、と思うくらい。雨の中に飛び出していく感じが、私は大好き。
けれどこの日は、翌日に運動会を控えていた。
子どもたちは給食後に下校し、午後からは職員総出で校庭で設営を行う。そしてその後は、そのまま放射線治療へ。慌ただしい。
去年は、ラインカーを転がして、校庭を走り回っていたことを思い出す。体力の落ちている今の私は、スズランテープを持って、ジャングルジムやうんていの周りを、グルグル、巻き巻きしていく作業を行う。
みんなで「寒いね、寒いね」と言い合って、肩をすくめながら作業を進めた。
校庭は、雨上がりでまだぬかるんでいる。足元もドロドロになってきた。
天候も回復しそうになく、いったん張ったテントも結局は撤去することに。
なんてことだ……
その後、自転車に乗って病院へ向かう。
ここに来ると、一気に心がほっとする。
到着して受付を済ませ、いつもどおり検査着に着替えると、すぐに女性技師さんが来てくれて、
「土日の間にマーキングが消えないように、お約束していた“ノリのペタペタみたいなの”を貼りましょう〜!」
と、空いている診察室に案内してくれた。
このペタペタの作業は、いつもこの女性技師さんがしてくれる。
「よし、じゃあドア閉めよ、閉めよ~」
と、そこから女子会のようなお喋りがスタートする。
話題は、最近の小学校の運動会についてだったり、「ここは地下だから、お天気が全然分からないのよ~」というお話だったり。胸の傷や、照射している皮膚のお手入れの仕方についても。
マジックの線が消えないようにペタペタを貼ってもらい、早く乾くように2人で胸にパタパタ風を送り、「うんうん、よきよき!」と、ニコニコしながら処置してくださる。
優しいな。素敵な人だな。
このお喋りの時間が、本当にうれしい。
終わると、いつものように男性技師さんがお迎えに来てくれた。
この方はいつも、
「汐見さん、お待ちしておりました!」
と、エレガント風な面白い接客?をして笑わせてくださるので、うんうん、こういうのもなかなか良いではないか? なんて思ってしまう。……いやいや、私は何をしにここへ来ているのでしょうか。笑
そのとき。
私は、長い廊下の向こうから聴こえてくる治療室のBGMが、明らかにいつもと違うことに気がついた。
実は、数日前、「いつもここ、B'zがかかっていますね!」なんて技師さんに言ってしまったからなのか、翌日から3日間ほど「ちゃ~ぁぁらり~~ん」みたいな、癒やし系オルゴール曲に変わってしまったのだ。余計な事を言ってしまった……! とちょっと後悔していたのだが、まさか、また曲を変えられた……?
いやいや。私は、がんの治療に来ていて、いったい何の心配をしているのでしょうか。
──でも。明らかに。
今日はB'zのオルゴールメドレーではないのだ。
音の感覚も、ちがう。
ズン!
ズン!!
ドンドコ!ドン!!
みたいな。
……なんだろう。すごく懐かしい。
ライブハウスの入口に足を踏み入れた時、大好きな音楽が漏れ聴こえてくるような。分厚い扉を押し開ける時に、音の振動を一身に浴びるときのような。
あの、胸の奥を揺さぶる、低音の響き。
耳を澄ませて、音の鳴る方向へ気持ちを集中させる。
もはや、自分が「がんの治療」に来ていることなんて、頭からキレイサッパリ消えている。
聞き覚えのあるメロディライン。
もしや。
いや、
絶対にそうだ。
この私が、間違うはずがない。
技師さんの後について治療室へ向かうなか、私はちょっと(いや、たぶん、かなり)興奮して、
「今日、ビートルズ、かかっていませんか?」
と、尋ねてみた。
「そうなんですよー!」
やっぱり!
しかもオルゴールじゃなくて、本当のビートルズの音源!
流れていたのは、「オール・マイ・ラヴィング」だった。
治療室に入ると、女性技師さんも、
「えー! これ、誰のチョイス?」
と聞いていた。
すると、まさかの一番お若い、いつも寡黙で、少しミステリアスな雰囲気の男性技師さんが、
「……あ。……おれっす」
お若いのに、渋い。
カーテンの中で検査着を脱いでいる間は、「ハード・デイズ・ナイト」に変わっていた。もはや私の脳内は、ライブハウスのステージ裏だ。
♪ It’s been a hard day’s night.
大変な一日を終えたあと、ようやく帰る場所へ向かう歌。
そうなんですよ。その通りなんです。私、タイヘンな一日のおしまいに、ここへ戻ってきて照射されるんです。そして、確かにすごく眠くなるのです。
──なんて思いながら。
この場面に似つかわしくない。でも、微妙に合っている歌詞に、髪をほどきながら吹き出しそうになる。
カーテンの仕切りから出て、いつものように技師さんたちにご挨拶をし、見守られるなか、治療台に横たわる。腕を固定したあと、マンマウェアの前紐を解いてもらい、体をヨイショヨイショとしてもらいながら、微妙な調整で照射位置のセッティングをしてもらう。
私はその間、ずっと、大きな放射線治療装置(リニアック)の天井を見つめていた。
流れているのは、「ヘイ・ジュード」。
大丈夫、うまくいくよ、大丈夫
君ならできるよ
あの大きく包み込むようなメロディが、横たわった私の心の中に、ゆっくり響いてくる。私の心を、ポールの歌詞がつつんでいく。
照射が始まってからは、軽快なオープニングとともに「オブ・ラ・ディ、オブ・ラ・ダ」がスタートした。
♪ Ob-la-di ob-la-da, Life goes on, brah
人生はずっと続いていくんだよ、って。
歌いたくなるけど、がまん、がまん。
ここで、轟音と地を這うような狂気の「ヘルター・スケルター」とか、「Everybody's Got Something to Hide Except Me and My Monkey」とか、かからなくてよかった。たぶん、私、飛び起きていただろうな。笑
とにかく、体が動かないように。
いつも技師さんに教えてもらったとおり、呼吸を浅くして。
天井に走る装置の光を、私はじっと見つめていた。
だからね、帰りは、
「さぁ、盛り上がっていこーぜ!」
と、ひとり自分へのご褒美として、「ツイスト・アンド・シャウト」を口ずさみながら帰りました。
照射も残すところ、あと5回。
人生には、思いがけず、こんなふうに変わった出来事もあるんですね。
まさに「マジカル・ミステリー・ツアー」。
ビートルズ、好きで良かったな。
📃医療メモ
※今回の記事は、私個人の放射線治療中の体験を書いたものです。
乳がんの放射線治療では、治療が進むにつれて、照射した部分の皮膚に変化が出てくることがあります。私の場合も、照射開始から一週間を過ぎたあたりで、照射範囲がほんのりピンク色になり、少しピリピリするような感覚が出てきました。
ただ、処方された保湿剤を朝晩2回、そして治療前から「予防保湿」としてかなりしっかり塗り続けていたためか、思っていたほどの乾燥は感じず、潤いは比較的保たれた状態で過ごせていたように思います。
お風呂では、病院での説明に従い、熱いお湯や入浴剤は避け、マーキングの線を消さないように気をつけながら、泡を使ってやさしく体を洗い流していました。湯船にも、照射部分をできるだけ刺激しないよう、ほぼ腰湯のような状態で入っていました。
普段から一時間くらいお風呂に入ってリラックスするのが大好きだった私にとっては、これが何よりもガマン!の時間でした。
🍀放射線治療中の皮膚の変化や疲れ方には個人差があります。赤み、かゆみ、ヒリヒリ感、痛み、熱っぽさ、皮膚の乾燥など、気になる変化がある場合は、我慢せず、主治医や看護師さん、放射線治療のスタッフさんに相談してくださいね。
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