現場付近 【詩】
また
一日がはじまろうとしていた
黒糖のような
ねっとりとした一日が
〈妙高警察署によると2024年6月29日午後5時30分頃、新潟県妙高市赤倉の道路上で、男性が運転する普通乗用車とクマが衝突する事故が発生した。車を運転していた男性にけがはない。〉
カステラを口に含み
ザラメのような感触に
苦味を感じている
立方体は
黄色く輝いていて
紅茶に浸すと
ほどよく中和される
ほどよい甘みになる
いもりを焼いたような
苦味がわずかに残る
〈発表などによると事故が発生したのは日本工業大学赤倉山荘前の市道。東方向から西方向に走行していた車両の左前部に、道路を横切った体長約1.5mのクマが衝突した。クマは北の方向に立ち去ったという。車を運転していた男性が同6時前に通報した。同乗者はいなかった。〉
黒糖の匂いに
痺れたまま
事故現場の写真を眺めている
記事をよみかえし
現場の住所を確認
紅茶を飲んでいるとき
うしろからウェイターが来て
(もう朝は終わりましたよ)
着ぐるみを着た
中型のウェイターが
(もう朝は終わりですよ)
といいながら
後頭部を撫でる
ふっくらとした脚が
ぞわぞわする
雪国の薄暗い夏が
はじまろうとしている
あの山は
クロヒメ山だろうか
〈事故発生現場付近は宿泊施設もあることから、同署と妙高市が連携し、付近住民らに広報と警戒活動を実施中。〉
業務の途中で
「車とクマが衝突した事故現場付近」
に立ち寄る
別荘の古びた屋根が目立つ
その付近
路面のアスファルトに白い線や
赤い点々
後頭部がぞわぞわとして
薄っすらとした日差し
意識が遠くなり
にわかに汗ばむ
僕は前脚でハンドルをにぎる
