19話:時効の告白。仕入れの前に需要をハックする「狂気の需要検証」(後編)
古い業界のコア事業に「他社のプロデュース」という形を掛け合わせる、全く新しいハイブリッドなビジネスモデルの雛形が、私の脳内で完成しつつあった。
とはいえ、未知の業界への本格参入だ。
私はすぐに次の行動に移った。
「市場調査」である。
しかし、私は中卒であり、MBAを持つエリートのように綺麗なリサーチのやり方など知るはずもなかった。
そこで、例の信頼する大手企業の役員(大先輩)の元へ赴き、市場のデータをどう読み解くべきかの教えを請うた。
そこからは貪欲だった。
矢野経済研究所をはじめとする主要なシンクタンクの、該当業界に関する高額なデータ資料を片っ端から購入。
恥ずかしいことに、市場規模など今まで一切調べずに、直感のみでやっていた自分が恥ずかしくなった。
もちろんデータを調べ分析するのは大事なことだ。
しかし今でも私は、データを100%信用したりはしない。
その理由は、データなど「過去の事実」がわかるだけに過ぎないからだ。
私が知りたいのは未来のことであって、過去のデータ分析をいくら見つめていても、「昨日は雨だったよね」という事実が確認できるだけだ。
とはいえ、過去の構造を全く知らないままでは未来の爆破を創造することもできない。
私は購入した高額な資料を社長室の机の上に山積みにし、自分が知りたい事実と数字だけを狂ったようにかき集め、自分の野生の勘の中に完全に消化させていった。
資料を読み込むことで、「市場全体の規模」や「ライバルの強さ」はデータとしてある程度把握できた。
しかし、マーケターとして最も重要な、最後にして最大の疑問が残っていた。
「データ上の数字は分かった。だが、リアルな『生身のお客さん』は、本当に今、この瞬間にここに存在するのか?」
それを見極めるための答えは、教科書には載っていない。
実際に市場に網を投げてみる「テストマーケティング(需要検証)」しかない。
今だからこそ時効として明かすが、そしてこれからビジネスをする方は絶対に真似をしてほしくないのだが、当時の私は極めて冷徹で、かつ狂気的なテストを行った。
「売るべき商品(仕入れ)を正式に確保する前に、先にインターネット上に集客の導線(広告)だけを完璧に張り巡らせ、実際にどれだけのお客さんが反応して集まるか」という需要の先行ハックを行ったのだ。
もし実際に問い合わせや注文が殺到してしまったら、その時は丁重にお断りすればいい。
私は1人で社長室に籠もり、個人のテストマーケティングとして数百万円の広告費を市場に一気に投下した。
結果は、私の完全な勝利だった。
画面の向こうから、恐ろしいほどの勢いで、生身の顧客からの問い合わせがドンドン舞い込んできたのだ。
「やはり、ここに巨大なマーケットの渇きがある」
確信を得た私は、テストマーケティングのデータを見届けた後、全ての問い合わせを一時的に断り、速やかにテストの網を回収した。
ここに、私の最強の「成功パターン」のループが証明された。
まず、自分の直感でやってみる。
躓いたら、答えを知っている一流の人間(先輩役員)に聞く。
そこから得た仮説を、今度は新しい業界で実践してテストする。
そこでまた躓いたら、さらに高い次元の誰かに聞く。
私はこの「実践とハッキングの高速ループ」だけで、中卒から10億の壁までを駆け上がってきたのだ。
今回の新事業も、全く同じ方程式が綺麗に当てはまっていた。
そもそも、冷徹な本質を言えば、私が手を出せるようなビジネスモデルのほとんどは、地球上に全くないゼロの状況から新しい市場(文化)を創り出すような高尚なものではない。
「すでに元々存在する巨大な業界の中で、ライバルたちが取り合っているパイを、圧倒的なマーケティングの力を使って横から強奪するビジネス」
これこそが、資本主義の冷徹な本質であると理解していた。
本質が「パイの横取り」であるならば、戦略はシンプルだ。
他社が普通だと盲信している古い業界において、顧客の脳を理性的(合理的)ではなく本能的に動かすような、圧倒的に魅力的で強力な「オファー(提案)」を組み立てることができれば、市場のお客さんは必然的に我が社を選ばざるを得なくなる。
では、そのオファーを具現化し、テストで実証されたこの巨大な需要を一気にスケール(爆発)させるためには、どこをどう動かせばいいのか。
私は来る日も来る日も、自分が120%納得できる精緻な仕組みが組み上がるまで、社長室のホワイトボードの前で考え、考え、考え抜いた。
起業家たちの自伝から盗んだ「電撃戦」と、脳内での秒読み
困った時は、いつもの本屋へ駆け込むのが私のスタイルだったが、この時代には私の社長室にはすでに「Amazon」という強大なインフラが届いていた。
私は、日本ビジネス界を席巻している著名な起業家たちの自伝や戦略書を、文字通り片っ端から買い漁った。
特に貪るように読んだのは、サイバーエージェントの藤田晋社長の本(新刊がでると、今も必ず購入している)
そして当時の市場を爆発的なスピードで席巻していたグッドウィルの折口雅博社長の著書など、凄まじい速度で上場(IPO)へと駆け上がっていった巨人たちの、狂気的なまでの成長戦略だった。
彼らの壮絶なエピソードを自分の脳内で現在の事業プランへと当てはめ、スケールアップの最適解を暗中模索した。
その中で、巨人たちに共通する恐るべき勝利の鉄則を見つけ出した。
「まずは市場に圧倒的な『点(シェア)』を創り出せ。
利益の回収を急ぐな。まずは顧客と市場の認知をすべて強奪し、面を制圧しろ。
売上の絶対的な規模(シェア)さえ握ってしまえば、後からいくらでも利益を最大化する仕組みは構築できる」
思い返せば、私がまだ若かった頃、ソフトバンクの携帯ショップが、日本中の主要な駅前や街頭に、凄まじい地響きを立てるような勢いで同時出店されていった光景が鮮明に脳裏をよぎった。
そしてある一定のシェアを握った瞬間、ある時期を境に「あそこもなくなった、ここもなくなった」という、ドラスティックな店舗のスクラップ&ビルド(適正化)が行われていた。
これこそが、近代マーケティングの王道である、圧倒的なスピードで市場を制圧する「電撃戦」の実態だった。
(……待てよ。この大企業たちが巨額の資金を使って行った『電撃戦』のロジックを、インターネットのレバレッジを使い、『莫大な資金を燃やすことなく、圧倒的な速度で市場を強奪する仕組み』へ落とし込むことができたらどうなる?)
その思考のピースが、カチリと音を立ててパズルの最後の一画にハマった瞬間、私の中に眠る飢えた獣の血が、一沸点を超えて沸き立った。
もう、一分一秒として、じっとしていられるわけがなかった。
中卒のボンクラが、4社の小粒な安定を捨て、たった1つの古い業界を最先端のマーケティングでハッキングし、市場の全てを強奪しに行く。
その狂気的な戦略の秒読みが、真夜中の社長室で、静かに始まった。
(第2章・垂直立ち上がり編──絶賛開幕中)
💡【今の私が、当時の自分に贈る言葉(経営の鉄則)】
「仕入れの前に需要を暴け。これこそがノーリスク・ハイリターンの極意だ」
売るべき商品を確保する前に広告を出し、数百万を投じて「生身の顧客の渇き」をハッキングしたあの需要検証、まさに鳥肌ものの英断だ。
実業の経営者が一番恐れる「在庫(仕入れ)リスク」を、マーケティングの力だけで100%無効化してみせた。
そしてAmazonで巨人たちから盗んだ「電撃戦」のロジック。金を燃やす大企業の真似をするのではなく、ネットのレバレッジで「金をかけずに面を制圧する」というハッキングの数式、実に見事だ。
さあ白石よ、秒読みは終わった。
古い業界の既得権益をすべて強奪する、前代未聞の『先行制圧オファー』を市場に叩き込んでやれ。
✉【白石から、リアルタイムで追ってくれている皆さんへ】
本日も最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます。
商品すら仕入れる前に広告を出し、市場の需要を100%丸裸にするという「狂気のテストマーケティング」。そして、巨人たちの自伝からハックした、金を燃やさずに市場を制圧する「電撃戦」の数式。これらはすべて、中卒の叩き上げが資本主義の隙間を突いて生き残るために編み出した、リアルな実戦の知恵です。
【毎週月曜日】【毎週水曜日】と【毎週金曜日】の週3回に完全固定させていただきます。
✍(コメント募集)
皆さんがこれまでに「既存の古い業界や古い仕組みに対して、別の分野の当たり前(新しい技術や視点)を持ち込んだことで、圧倒的な成果が出た」という実体験があれば、ぜひコメントで教えてください!
🔮 次回予告:
20話:「孤高の階段。ステージが変わるたびに失うものと、手に入れる再生の自信」
(月曜日に連続更新します。10億円の殻を破り、天下統一への電撃戦へ突入する直前、真夜中の社長室で白石が直面した『経営者の孤独の深淵』とは──)
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