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金閣再炎上、または与謝野晶子はなぜ三島由紀夫を殺さなかったのか


ひとことで言うなら時代がそれを許さなかった。

2人が邂逅したとすれば昭和12年。晶子58歳、三島12歳のことであっただろう。だが老いたりとはいえ喪明けで血気盛んな晶子が、青草のごとく伸びゆく文学少年を見逃すはずはない。青白な体に比べて意外と大きかったという彼の金閣を揉んでやろうという気概は当然(以下省略)






Twitterに三島由紀夫がいる。



と言うと過言なのだが、要するに三島由紀夫なりきりアカウントだ。文学者AIだという話もあるが、AIに夢を見過ぎている。普通に中の人の手動だと思う。人間でもまだこのくらいの事はできる。はずだ。人間の側がAI作文に慣れてきて、言選りの些細がどうでも良くなってくるであろう10年後は分からないが。


ただ自分はタイムラインで彼を見るたび、彼について書かれたとある小説を思い出してしまう。

それはご存知、森承賢の『帰ってきた三島由紀夫』だ。

ご存知ない方のために紹介すると、この小説はつまり三島由紀夫版『帰ってきたヒトラー』だ。パロディとも言える。パロディ元も存じないよという方はこちら↓




しかしご存知ない方は多いだろう。マイナーな小説だしね。なのでせっかくいま手元に『帰ってきた三島由紀夫』のハードカバーがあるし、以下に内容を要約しよう。


あぁらすじぃ!(CV.ホッカイロレン)

あのとき首を落とされて死んだはずの三島は、なぜか上半身裸のまま現代の防衛省は市ヶ谷記念館の前で目覚めた。三島はまず自分の腹が切れていないことを確認。そしてそこで出会った売れない迷惑系YouTuberと令和の日本を旅しながら、50年で変わり果てたその姿に一喜一憂していく。高度に進化した無線携帯式テレフォンから流れてくる種種雑多とした情報にめまいを覚え、彼にとって堕落した昭和からさらに底を割って堕落した令和の日本人に呆れ果て、しかし的確に観察し理解し順応していく。

もちろん三島は三島なので、令和にあってもその創作力は衰えない。本物か?モノマネか?いずれにしても繊細かつ強烈なそのキャラクターの発信するバズワードは瞬く間にSNSで絶大なバズを起こしていき、Youtube登録者数はあれよあれよと10万人、100万人を突破。やがてGoogleからクリエイターアワードの金盾を贈呈された三島は感激し、これは物質主義の帝国アメリカに対する実質の精神的勝利であると宣言しながら、満を持して有料メンバーシップ『新・楯の会』を結成。インターネットを介してその文章力と発信力をフルに活用し、日本各地で賛否両論を巻き起こしながら市ヶ谷に帰ってきた三島は、自身のファンである防衛省幹部の了承も得てあの日と同じバルコニーに立つ。

そうして彼は『檄』とだけ題されたYouTubeライブ配信を敢行するのだった──

(ここまで出版社書評から要約・引用)

さて視聴者に「すわ切腹か?」と思われたこの配信であったが、内容は意外や穏当で、万人の共感を得るものであった。三島は変わったのだ。私のような読者も作中の視聴者も、皆がそう思った。バルコニーに立つ三島は、いまや良い意味でかつての三島ではない。令和の三島であり、昭和の三島ではないのだ。過激な視聴者の中には死を望む声や失望の嘆き、冷笑も見られたが、インターネットが常人の集合体、つまり単なる一般社会に堕した令和では、そのような極端な輩は支持を受けることなく叩かれ、バズを集められなかった。小説の中の三島はそれを見抜いていた。三島はロマンチストだったが、ロマンチストがリアリストを圧倒するためには、万人の持つロマンに訴えなければならない。リアリストの冷笑は強い。それはかつての自分の死、あの昭和の『檄』を嗤い、無意味化できるほどに。だが昭和と違い、雑多な人々から成る令和の『新・楯の会』と幾百万の視聴者が、ぼんやりと、しかし共通して抱く『美しい日本』のヴィジョン。それに支えられたロマンは冷笑よりも強固だった。なぜなら国家とは個々人の抱く熱い幻想、ロマンチシズムによって成るのだから。

三島は自分が見てきた守るべき日本各地の美についてバルコニーから語り、それは予定どおり令和日本の為政者にとって都合良く、被虐の覚えある者にとって心地良かった。そして三島が偽物か本物かなど、彼らには心底どうでもよかった。そもそも彼らのほとんどは昭和の三島を知らない。知っている、とうそぶく者もそれは文学を通した彼を知っているだけであって、直接知っている者など今やほぼ全員が鬼籍に入っている。令和の三島は三島本人の手でいくらでも、自由に創作できる。令和に帰ってきた三島は実態を持った虚像であり、三島らしい事を喋る何者かが、人びとにとっての三島その人だった。

その日の晩。おぞましい勢いで伸びてゆく動画の分析論、アナリティクスを眺めながら、虚像はこう呟いた。

「金閣だ」

続けて、金閣を焼かなければ。そう呟いた彼の言葉を、彼を支えてきた冴えないYouTuberは単なる例えとして受け取る。ああ、目黒鹿鳴館で椎名林檎とお互いの誕生日/命日を祝うコラボもこのまえ成功しましたし、伊勢神島でのギリシャ大使館コラボもやりましたし、とうとう次は金閣寺ですか、と。

しかし、国宝でないとはいえ撮影許可が下りますかね、と悩むYouTuberに三島は言う。許可など要らない。無許可ですか、もしかして燃やすと思われかねませんよ、と苦笑しておどけるYouTuberに三島は言い切る。そうだ、燃やすのだ。火事場を報道する放送局がいちいち撮影許可を取るか。

金閣寺を焼く。そして自分もそこで死ぬ。金閣と心中する。美しい死だ。そうすれば令和の日本人たちも、自分たちがいかに『美』というものから乖離して生きているか、自分がいかに醜い死への過程にあるか気がつくだろう。金閣寺は夜半、人知れず燃えたのが良くなかった。令和なら誰もがその手でその様を配信できたのに。自分も切腹が良くなかった。やってみて分かったが、切腹はいさぎは良いが始末が良くない。なんだ自分の首の、あのだらけきった死に顔は。一太刀で斬ってくれなかった無念は。あれでは発狂の末の無為と笑われても仕方がない。だから次は焼死だ。一心にそれを目指す。世界を変貌させるのは行為、それだけしかない。

君、ぼくは今日、あのバルコニーから日本人に檄を飛ばしたのだ。そして君、このアナリテクスを見たか。昭和のあの時と違い、ぼくの声はしかと皆に届いている。これで準備はよし。準備はよしだ。ここでぼくが成すべきことを成せば、ぼくの1度目の死も無為ではなかった。金閣と三島を再び失う事で日本人はまた、日本の美が失われてはいけないと、なんとしても日本の美は日本人の手で守らねばならないと、改めてそう心に刻むだろう。

それに、ぼくは今や国宝でもなんでもない、金さえ集めればいくらでも建てられる金閣寺を燃やすのでない。象徴を燃やすのだ。三島由紀夫といえば『金閣寺』、金閣寺といえば『三島由紀夫』だ。燃える前の金閣寺は日本の美の象徴だった。燃えたあとの金閣寺は三島由紀夫の象徴だ。象徴が燃えるのだから、ぼくも燃えなければならない。

それを聞いて青ざめ、身を挺して止めにかかったYouTuberは、しかし控えていた『真・楯の会』のメンバーに拘束された。そして彼に感謝と別れを告げた三島と会員は、運命が待つ京都行きの新幹線へと乗り込んでいく。

その新幹線の車内で、三島は独白する。

君はかつて、自分を迷惑系だと言ったな。それもいい。迷惑系だ、炎上系だ、と、ひとをある種の系に分けて、それで自分もどこかの系に属して、安穏に、美とは無関係に生きていく。令和の世はそれが許される。でもぼくは許せない。美しく燃え尽きて昭和に帰る──


出版元は民明書房。もろちんこんな小説は存在しない。自分の妄想だ。正確には妄想から小説にしようと思ったのだが、よく考えたら三島になりきって小説を書けるほど自分は三島を知らない。建物としての金閣寺は美しいが、大工でもないのに自分が建てられないだろう。あとは三島の妄想と違ってアイロンがけと靴磨きと草刈りばかりやっている実際の自衛隊に、自分はどうしてもロマンチシズムを感じられない。その点でどうしても彼とシンクロできない。天皇もこんなロマンも継戦能力もない軍隊をお返しされるより、米国による安全保障のほうが欲しいんじゃないかと思ってしまう。

それに、鳥羽にはよく行くが神島に行ったことはない。志摩半島で魚食べるのに忙しいから。



マジで食べ切れない量が出てくる。魚の過剰摂取オーバードーズで急性トリメチルアミン尿症になる。つまり食後しばらく自分の身体から猫の匂いがしてくる。おすすめ。


閑話休題。

とりあえず前述の三島由紀夫なりきりアカウントがときおり見せる俗っぽさが『令和の三島由紀夫』として理想というか、できれば自分に代わってこの小説を書いてほしいのだが、Skebとかやってませんかね?という話。椎名林檎ファンの妻には「三島は冷笑垢に引リツしない。インプレッションの多いツイートにリプライしてインプ稼ぎもしない」と言われましたが、令和に来たらあいつはやるよ。間違いなく。その点でも解釈一致なんですよ中の人と。


しかし、小説はともかく金閣寺には燃えてほしい。なぜなら燃えているあいだ、目の前でこれをやりたいからだ。




大魔法峠。もちろん犯罪だから自分でやるわけにいかないし、そもそも小説の人物と違って自分が焼くことにそこまでプライオリティを置いていないので、もし金閣寺を焼きたい人がいたら事前に教えてほしい。新幹線で飛んでいくから。ここのところ忘れられている、あまりよくないインターネットを京都に具現化させましょう。三島も呼ぶよ。




ほら見なよ三島。

美しいだろう。これが俗世だ。







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