横隔膜エコーをPTが知っておくべき理由|ウィーニング・COPD・リハビリ評価への活かし方
「横隔膜エコーって、PTには関係ないんじゃないですか?」
こう思う方もいるかもしれません。
しかし急性期・ICU領域で働くPT・OTにとって、横隔膜エコーは「知っておくと臨床判断が変わる」ツールのひとつです。
実施するのは医師・看護師が中心ですが、得られた数値の意味を理解していると、ウィーニング判断への関与・呼吸リハビリの効果評価・COPDや神経筋疾患患者の呼吸筋評価に活かせます。
この記事では、横隔膜エコーの基本的な評価指標・基準値・臨床場面での読み方を整理します。
横隔膜エコーで何を見るか
横隔膜エコー(diaphragm ultrasonography)では主に2つの指標を評価します。
横隔膜移動距離(Diaphragmatic Excursion:DE)として、呼吸に伴って横隔膜が上下に動く距離をMモードで計測します。主に右横隔膜を鎖骨中線上・肋骨弓下縁から描出します。
横隔膜肥厚率(Diaphragm Thickening Fraction:DTF)として、吸気時と呼気時の横隔膜厚さの変化率を評価します。
計算式は
DTF(%)= (吸気時厚さ − 呼気時厚さ)÷ 呼気時厚さ × 100
です。
この2指標を組み合わせることで、横隔膜の「動き」と「収縮力」の両面を評価できます。

基準値と臨床的カットオフ
健常成人での参考値を示します。
横隔膜移動距離(DE)として、
安静呼吸時は1.0〜1.8cm程度、深呼吸時は4cm以上が正常の目安です。
横隔膜肥厚率(DTF)として、20〜25%以上が正常の目安です。
ウィーニング(人工呼吸器離脱)の予測において、複数の研究で示されている臨床的カットオフは、DEが1.0〜1.25cm以上(安静呼吸時)、DTFが20〜25%以上です。
「横隔膜が十分に動き・十分に収縮できていること」が、呼吸器を離脱できる呼吸筋機能の最低条件のひとつとして評価されます(PMID: 24949192、PMID: 27112953)。
ウィーニングとの関係
人工呼吸器装着中の患者では、「この人は今日抜管できるか」の判断に横隔膜エコーが使われます。
ウィーニングに失敗する主な原因のひとつが横隔膜機能不全です。長期人工呼吸・敗血症・神経筋ブロック薬の使用によって横隔膜が萎縮・機能低下を起こします。
従来のウィーニング指標であるRSBI(Rapid Shallow Breathing Index:f/VT)は呼吸数と一回換気量の比で計算しますが、横隔膜エコーと組み合わせることで予測精度が上がることが報告されています。
PT・OTの役割として、ウィーニングの判断は医師・看護師が行いますが、「この患者の横隔膜はどのくらい動いているか」を知っていることで、離床・運動負荷の設定の根拠になります。DE・DTFの値が低い患者では、体幹・四肢への運動負荷よりも呼吸筋への直接アプローチ(腹式呼吸・横隔膜呼吸訓練)が優先されることもあります。

COPDでの横隔膜エコー
COPDでは肺の過膨張(hyperinflation)によって横隔膜が押し下げられ、平坦化します。
平坦化した横隔膜は、収縮しても胸腔を広げる効率が低下します。これが「換気をしようとしてもうまく息を吸えない」という呼吸困難の一因です。
B-mode超音波では、COPDでは横隔膜の移動距離が健常者より有意に小さく、DTFも低下することが示されています(PMID: 24700122)。さらにCOPDの重症度が上がるにつれてDTFや横隔膜厚さが低下する傾向があります(PMID: 38634575)。
また、COPDでの横隔膜エコーはBODEインデックスとの相関が示されており、横隔膜力予備能(force reserve)の低下が予後と結びついている可能性が示唆されています(PMID: 32614240)。
呼吸リハビリ前後でのDTF・DEの変化を比較することで、横隔膜機能の改善を客観的に評価できます。「呼吸が楽になった」という主観的な変化を、エコー所見で裏付ける可能性があります。

神経筋疾患・ICU患者での活用
ALS・ギラン・バレー症候群・横隔膜神経麻痺などの神経筋疾患では、横隔膜の機能低下が呼吸不全の主因になります。
この場合、DEが著明に低下し、重症では横隔膜がほとんど動かない(paradoxical movement)状態になることもあります。
ICU患者では、長期臥床・鎮静・人工呼吸による横隔膜萎縮(ventilator-induced diaphragm dysfunction:VIDD)の評価にも横隔膜エコーが活用されます。
入院早期から横隔膜の動きを評価しておくことで、萎縮の進行をモニタリングし、早期離床・呼吸筋訓練の導入タイミングの根拠にできます。
PTが横隔膜エコーを「読む」ための最小限の知識
エコーを自分で操作できなくても、カルテに記録された値を読む機会はあります。
確認すべき3点として、DEが安静呼吸で1cm以上動いているか(不十分なら横隔膜機能低下を疑う)、DTFが20%以上あるか(低ければ呼吸筋の収縮力が落ちている)、左右差がないか(片側麻痺・横隔膜神経障害の除外)を見ます。
PT・OTが医師や臨床検査技師のエコー所見を参照しながら「今日はDEが低かったので、歩行訓練より呼吸訓練を優先しよう」という判断ができると、より根拠のある介入計画になります。
まとめ
横隔膜エコーで評価するのは、横隔膜移動距離(DE)と横隔膜肥厚率(DTF)の2指標です。
ウィーニング予測のカットオフは、DE ≥ 1.0〜1.25cm・DTF ≥ 20〜25%が目安です(研究によって差あり)。
COPDでは過膨張による横隔膜平坦化でDE・DTFが低下し、重症度と相関します。
神経筋疾患・長期人工呼吸患者では横隔膜萎縮の早期把握に使えます。
PTがエコーを実施しない場合でも、カルテのDE・DTF値を読み、運動負荷設定や呼吸訓練の優先度判断に活かせます。
参考文献
Kim WY, et al. Diaphragm ultrasound as a new index of discontinuation from mechanical ventilation. J Crit Care. 2014;29(5):882.e1-5. PMID: 24949192. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24949192/ (アブストラクトのみ)
Jiang JR, et al. Diaphragm ultrasound as a new method to predict extubation outcome in mechanically ventilated patients. Crit Care. 2016;20(1):206. PMID: 27112953. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27112953/ (全文閲覧可能)
Baria MR, et al. B-mode ultrasound assessment of diaphragm structure and function in patients with COPD. Chest. 2014;146(3):680-685. PMID: 24700122. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24700122/ (アブストラクトのみ)
Okura K, et al. The Application of Diaphragm Ultrasound in Chronic Obstructive Pulmonary Disease: A Narrative Review. Medicina (Kaunas). 2024;60(4):581. PMID: 38634575. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38634575/ (全文閲覧可能)
Cammarota G, et al. Ultrasound Evaluation of Diaphragm Force Reserve in Patients with Chronic Obstructive Pulmonary Disease. Respiration. 2020;99(7):607-615. PMID: 32614240. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32614240/ (アブストラクトのみ)
