まちの声を聞くと「建築」はどう変わるのか?
砂川パークホテルを市民に愛される形でリニューアルするために、SHIROではプロジェクトメンバーとフィールドワークを実施しています。今年3月にも実施しました。今回のnoteでは、設計を担当するアリイイリエアーキテクツ一級建築士事務所の有井淳生さん、入江可子さんと、SHIRO会長の今井浩恵が、初回のフィールドワーク(2024年5月)、を振り返りました。フィールドワークをする意義とは?
ワークショップに感じたモヤモヤ
──今回の取材場所は北海道砂川市の「みんなの工場」です。窓の外は一面、銀世界で息を呑むほど美しいですね。
入江:ほんとに「この景色、最高!」という言葉しか出てきません。今日は晴れていて、ここから見える風景が本当にきれいですね。
今井:みんなの工場は、これがたまらないよね。

入江:東京は春の陽気でしたが、砂川はキリッとして澄んだ冬の空気。そのギャップに、日本の四季の奥深さを感じます。
有井:みんなの工場まで来る途中にも、少し高いところから景色を見ていたのですが、ピンネシリ(※新十津川町にある山)だけでなく山々が水平に連なっている感じが、アルプス山脈じゃないけれども、壮大ですよね。
入江:大地の広さを感じられますね。来られたことない方も、ぜひみんなの工場にいらしてほしいなと思います。
──砂川パークホテルのリニューアルでは、フィールドワークを重視しています。一方、みんなの工場の建設時は、フィールドワークをしなかったそうですね。
入江:フィールドワークという形では意見を汲み上げていません。
みんなの工場を設計した時も、砂川市民が自由にくつろげる場所をつくる予定だったので、「どうすればくつろげるか」を考えるワークショップは何回も実施しました。でも、あくまでSHIROの施設ということで、今井さんと議論し合うことが中心でした。
一方、今回の砂川パークホテルは、SHIROが主体というよりも、まちの象徴をリニューアルするプロジェクトなので、「閉じた設計チームだけで議論していてもダメなのでは?」という感覚がありました。そこで「フィールドワークをやろう!」ということになりました。
今井:なぜワークショップではなく、フィールドワークに切り替えたんだっけ?
入江:プロジェクトでご一緒させていただいているUMA/design farmの原田祐馬さんの助言が大きかったです。
原田さんに「砂川パークホテルのプロジェクトはどう進めたら良いと思いますか?」とたずねたら、「まずはフィールドワークをやったらいいんじゃないですかね?」とアドバイスをいただきました。
もちろんワークショップもダメじゃないのですが、どこか実感がなかったんですね。参加者の方は、意見を言ってくれるのですが、「この発言している人はどんな人なんだろう?」と背景まで深掘りしきれていないような感じがあって。
今井:そこから先に進みにくいよね。その場の空気、流れで発言しているパターンも多いから、「その人が本気でそれをやり遂げる」というものになりにくいように感じます。
入江:そうなんですよ。そうしてモヤモヤしていた時に原田さんと話して、「直接、人に会いに行ったらいいんだ」と気づいたのです。
今井さんに相談したら、いろいろな方を挙げてくださったので、初回のフィールドワークはその提案に身を任せることにしました。
「いつもパークだよね」から得られたこと
──1回目のフィールドワークは昨年(2024年)5月におこないました。改めて振り返っていただいてもよいですか。
今井:1回目は、長年まちづくりをライフワークとしておこなっている市議会議員の多比良和伸さんや、地域おこし協力隊で砂川に入り込み、北海道のお米に感動しておにぎり屋さんを開業した舩田満さん 、ワイナリーをやっている髙橋里佳さんにお会いしました。
入江:皆さん、すごくユニークな方たちでした。
今井:キャラは濃いのだけど超いい人たちで、人を5秒で惹きつける。そんな方たちです。
──有井さんと入江さんが、1回目のフィールドワークでとくに印象に残っている言葉や景色などはありますか?
有井:私が印象深かったのは、最初にお話を伺った多比良さんの話です。
多比良さんは子どもの頃から砂川に住んでいて、ずっと砂川パークホテルのそばで育ってきたそうです。市外から親族や友達が来たり、身内の行事があったり、それこそ結婚式があったりする時は、いつも砂川パークホテルを使っていたそうです。
多比良さんはそのことを「いつもパークだよね」と愛着をこめて表現されていました。「どういう時でも、『パーク』『パーク』『パーク』」と言っていたのですね。
それを聞いて、「砂川パークホテルは、砂川の人たちにとってすごく身近な存在であり、いつも行く場所なんだ」ということを実感できました。
入江:私も、多比良さんの話から、砂川パークホテルは砂川市民の思い出の中に染み込んでいて、冠婚葬祭というハレの場所だけでなく、日常的にも待ち合わせに使っていて、こんなに浸透しているのだと再認識しました。
私たちは、最初に砂川パークホテルを見た時に「陰だ」「泊まりたくない」と思いました。でも、これだけ浸透していたら、毎日見ていても「陰」だとは全く思わないはず。「いろんなことを言っちゃって大変申し訳ありません」と思いました。
多比良さんを通して想像できた市民目線の見え方は、今後、砂川パークホテルを設計する上で重要な視点になると思います。
──それだけでも大きな収穫ですね。
入江:あとはワイナリーの髙橋さんに話を伺ったのですが、その日の夜のことも強く印象に残っています。
そのワイナリーのワインが飲める砂川市内のバーを教えてもらって、その日の夕食後に行ったんですね。その日は、バーにお目当てのワインが置いていなかったのですが、店主の方がすぐに高橋さんに連絡してくださいました。
今井:そうしたら、さっきまでお会いしていた高橋さんが正装してワインを届けに来てくれたのです。昼間は農家仕様だったのですが、夜はドレッシーになって「お届けに参りました」と。サプライズというわけではなく、本当におもてなしをしたいと思って正装して来てくださったのです。そこに高橋さんの本気が見えました。
入江:バーテンダーの方もキャラがすごく濃くて。それで苗字を伺ったら、行政の方とつながっていて、いい意味での「まちの狭さ」をとても感じました。
それまで点でしか把握できていなかった砂川の方たちが、フィールドワークを通じて、「この人とこの人がこうつながっている」と線でつながって見えてきたのです。
私たちは東京から来たよそ者ですが、ちょっと砂川のコミュニティに入ってみるだけで一気にネットワーク状に広がっていく。「狭いことは、あったかいことだな」と思いました。
まちの解像度が一気にあがる
──有井さんも入江さんも、みんなの工場のプロジェクトの時から砂川に来ていたので、まったく知らない土地ではなかったと思いますが、フィールドワークでまちの印象は変わりましたか?
入江:確かに、みんなの工場の時も、北菓楼さんやソメスサドルさんのような砂川の有名企業のお店を回ったり、ドライブをしてオアシスパークで休憩してみたり、と自分なりに砂川を体験しましたが、人と人の触れ合いのレベルには到達していませんでした。
改めて、ワークショップとフィールドワークは全然違うものだ、と感じました。
今井:どこが違ったの?
入江:ワークショップで触れ合う人は「こういう場をつくるので、興味がある人は来てください」と周知して集まってくれた人なので、ある程度賛同してくれる人や、何か意見がある人だと思います。
でも、わざわざワークショップに出かけて意見を言う人の話は、どこか日常的でなかったり、その人の素を見せていなかったりするケースもあると思います。
だけど、フィールドワークは、私たちが日常を過ごしている人のところに出向いて話を伺うので、その人たちの日常がちょっとずつ垣間見られます。前回のフィールドワークの時も、10人ぐらいお会いしましたが、みんなの工場の時よりも、まちの解像度が一気に上がった気がします。
有井:入江と同じ意見で、ワークショップで集まった皆さんには自己紹介をしていただくものの、その人が普段どういう姿でどのような生活や仕事をしているのかまでは見えにくいところがありました。
だけど、フィールドワークは、本当にその人がどういうところでどういう仕事をしているのか、その背景を含めて見られます。例えば、ワイナリーでは、ぶどう畑でぶどうを摘み取っている姿を見せていただいたのですが、その場で話を聞けると、解像度がまったく違います。
入江:言葉以外の情報があるので、情報のリアリティというか、量が全然違うんですよね。
──そういう経験が積み上がると、砂川パークホテルを設計する時にどのような効果が生まれるのでしょうか。
有井:例えば住宅を設計するなら、目の前にいる建主の顔を見て、「キッチンでこうやって料理をつくるのかな」とか、「リビングで家族と過ごすんだろう」ということを想像しながら設計できますし、何回も話していれば、建主の好きなことや過ごし方のイメージも湧いてくる。公共的な施設で話を聞くだけではそれができないので、誰がどう使うのかはパッと思いつかないんですよね。
だから、いろんな方のお話を聞いていくことで、手探りで想像していくしかありません。そのための一つの手がかり、出発点として、フィールドワークはすごく意義があったと思います。
入江:建築物の設計をする時は「この人がこう言ったから、これをつくろう」と直結させすぎないことも大事だと思っています。
建築の寿命は長いので、一人の意見を具体的に落とし込みすぎると、今度は「あそび」がなくなってしまうからです。もしかしたらその人が変わるかもしれないし、別の人が別のことをしたいと言い始めるかもしれません。
だから、それを受け止められる器としての建築がどうあるべきか。私は、大きく柔らかい器をイメージしているのですが、その中で動き回る多様な人々のイメージが設計者側にあるかないかで、器のつくり方は絶対変わってくると思うのです。
今井:実は、みんなの工場の失敗談で、ワークショップで出た意見を聞き過ぎてしまい、「それを叶えねばならない」という意識に縛られて、一つのスペースを無駄にしたことがありました。意見を聞いて取り入れたけれども、実際には誰も活用しなかった……。
でも、これは誰のせいでもなく、私たちのつくり方に問題があったのだと思います。
その失敗をアリイイリエの二人と一緒に経験したからこそ、今回のフィールドワークという手段にもつながっています。市外から訪れる人の前に、砂川に住む人に活用されてこそ建物の寿命は長くなるはず。
だから、住んでいる人がどういう表情で、どういうグラデーションなのか。それを知って、住んでいる人に来てもらうためのフィールドワークだと思っています。
駅で話しかけるからわかること
今井:実は昨日、砂川の図書館や、駅前の地域交流センター「ゆう」に行って、そこにいる10代~20代の子に「何してるの?」と声をかけて話を聞きました。同じことを韓国でもしましたが、今回もすごく面白かった。やっぱり解像度が上がります。
感じたのは、「みんな居場所がないんだな」ということ。イオンのベンチに座っていた女子高生2人と話したのだけど、お金もないから、そこで話をしている、と。「いや、行くところないですよ?」「行くとしたらカラオケとか?」みたいな感じで話していました。
入江:ええー。だったら、砂川パークホテルを使ってほしい。
今井:砂川パークホテルがどんな場所なのかがちゃんと広まっていくと、使ってもらえそうなイメージが湧きました。
入江:そういう形のフィールドワークもやりたいですね。中高生の姿をもっと見たいのです。フィールドワークの対象はすでに何か仕事をしている人で、中高生になることは難しいと思うのです。だけど、砂川パークホテルは駅前ですし、電車を利用している人は中高生が多いので。
今井:アリイイリエの二人も、聞いてくると良いと思うよ。
みんなでやるフィールドワークはBtoBの企業やお店になりがちだけど、市民の日常を知りたいなら、駅に行って話しかければいい。男女ペアで話しかければ違和感は少ないから。それをやると、解像度がぐんと上がると思う。
入江:観察はずっとしていたのですが、話しかけることはまだしていません。それはいいですね。
今井:他にも、看護学生に、「砂川パークホテルへ行かないのですか?」と聞いたら、「私、家が近いので、ホテルに行く意味がわかりません」のような反応がありました。
確かに、若い市民の目線になったら、自分が住んでいる地域にホテルがあったとして、宿泊のイメージが強ければ、使う理由がないかもしれません。
入江:東京で仕事をしていると、「ホテルのカフェだったら結構ゆとりがあるから、打ち合わせに使えるかな?」と、泊まらなくてもホテルを利用するという感覚がありますよね。
今井:その感覚が「ない」というのは盲点だし、きっとそんな発見がたくさん転がっているんだなと。そうした話を聞いて、解像度を上げていくことが必要ですね。
入江:現時点の設計では、レストランやカフェを利用しなくても長いあいだ居られる場所をたくさん用意していますが、その周知は課題になりそうです。
有井:まちで声をかけて話を聞くの、とってもいいですね。
入江:すごく有意義かも。では、自由にやります(笑)。
今井:そうそう。それをみんなでやった時にいろんなものが持ち寄れると思うのです。
──では、そろそろフィールドワークに参りましょう。フィールドワークした後に、またお話を聞ければと思います。
(編集サポート:泉秀一、杉山直隆、バナーデザイン:3KG 佐々木信)
