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【掌編】PINK BLOOD


『親友』である美雪のお別れ会に、私は髪を短く切り、黒く染めて出席した。

「え、ミサキ?」「どしたのそれ」

朋ちゃんもリサリサも驚き、そっと横目で美雪の顔色を伺う。美雪は口をへの字に、あからさまに不機嫌な様子だ。

「何よそれ」
「別に、気分転換」

「はぁ?」美雪の顔が歪む。

もちろんのこと、私には自由に髪型を決める権利がある。
だが私達四人の間には、髪は校則違反の明るいもので、セットや小物で個性をアレンジ、という不文律があり、それを暗黙のうちに理解し守ることで結束を強めている、という実態があった。

そしてその結束の真ん中にいるのが、美雪だ。

「なんでこのタイミング?別に私が転校した後でもよくない」
「それ言い出したら別にこのタイミングでもよくない?」
「ちょっと何?」
美雪は立ち上がる。

場所は美雪の自室。今まで何度もお呼ばれし、時に泊まりもしたこの部屋も、今は引越しに向け、大方の荷物が箱に詰められた後だ。わざわざそんなところでお別れ会を開かずともいいと思うが、最後は思い出の場所で、という美雪自身の希望だった。

「私がいなくなる前になんか新しいこと始めます的な雰囲気出してんのがむかつく、って言ってんの。普通に失礼じゃない?朋もリサリサも、なんか言いなよ」

急に話を振られて、二人ともたじたじだ。ローテーブルを囲み並んで座ったまま、困った顔を見合わせている。
ごめんね、巻き込んで。でも言い返さないあなた達も悪い。

私は、言う。

茶色い巻き毛に映える、派手な目鼻立ちを見ながら、私は続ける。

「私、本当はこういうシンプルな格好が好きなの。服とかも、無印かユニクロで全然いい。化粧もめんどくさいし、首や腕にじゃらじゃら着けるのも嫌い。みんなで回し読みしてた雑誌なんか、自分じゃ絶対買わない」

美雪も、朋ちゃんもリサリサも唖然とした顔になる。

「もっと言えば、韓国のアイドルも甘い系のお菓子もそんなに好きじゃない。だけど美雪がみんなも好きだよね私たち仲良しだよねみたいなオーラ出しくてるから無理矢理そういうのに付き合ってた」
「ちょっと」美雪が反応する。「もしかして、それ私のせいとか言いたいわけ。ただあんたに主体性がないだけの話じゃん。責任転嫁でしょ」
「うん。その通り。だからこうやって主体性出してみた」
「だぁから、なんでこのタイミングなわけ?」

一度目を瞬いて、私は答える。

「さっきも言ったけど、別にどのタイミングでもいいじゃん。なんでいちいち美雪の顔色伺わなきゃいけないの」

言って、違うな、と思い首を振る。「ごめん、今の無し」

本当はね、と前置き、一気に吐き出す。

「本当は美雪の隣、居心地悪くなかった。可愛くて目立つあんたと一緒にいれば、学校でも大きな顔できたし、かっこいい男の子も寄ってくるし。その特権みたいなの手放したくなくて、美雪には逆らわないようにしてた」

朋ちゃん達が目を丸くして、また顔を見合わせる。
対して、美雪の表情は険しいままだ。

「じゃあ、いっそ最後まで逆らわずにいれば?もうちょっとで私、いなくなるんだから。普通そうしない?」
「もうちょっとでいなくなるからだよ」
「はぁ?」

つん、と鼻に熱がともる感覚。

「だってさ、一緒にいたじゃん。あんたに合わせるのはつらくてめんどくさかったけど、それでも四人で駄弁ってマックとかカラオケ行ってあと夏休みに海とか行って。そうやって同じ時間を過ごしたのは嘘じゃないじゃん。でも美雪がいなくなっていきなり髪型変えたりしちゃったら、なんかそういうのも含めて嘘でした偽物でしたみたいな感じになっちゃうじゃん」

『親友』だったのに。
仮初めにもそう呼称するに足る、何かがちゃんとあったはずなのに。

「……何言ってんの、意味わかんない」
「わかんなくないよ。美雪、頭いいもん」

派手で素行は悪く、学校の成績は全然だけれど、回転は速い。足りない文脈を補うことだってできる。
それを知る場面を幾度も見てきた。それを知るに足る時間を共有してきた。

私は、手を差し出す。内心怯えながら、しかしまっすぐ美雪を見て。

「今まで我慢してきて、友情がある振りとかしてきて、本当にごめん。これが本当の私。一軍のあんたなんかには本当は釣り合わないくせに、甘い汁欲しさに背伸びしてたのが、私。だから」

よければ、これから友達になって欲しい。

涙が溢れ出て、最後の言葉が震える。行った側から押し寄せる後悔。それでも差し出した手は意地でも引っ込めない。

決めたから。
たとえ傷つけても、傷ついても。
こうすると決めたから。

美雪はどんな顔をしているだろう。ピントを合わせようとしても、視界が滲む。これ以上の泣き顔を晒すのは耐えられず、俯いて涙を落とす。

「だから」

細い指先が、差し出した私の手に触れる。

「なんでこのタイミングなのよ」

届いた声は、聞き慣れた高慢な響きと、そして少しの湿り気を帯びていて。
触れた指先からは、美雪の内側を巡る、血液の温度を感じた。


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Inspired by ”宇多田ヒカル『PINK BLOOD』”

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