システムトレードなんかに手を出すな - 統計的手法の罠と、勝てない理由の話
一見すると「データと根拠に基づいた手法」に思えるシステムトレードの落とし穴について。専業でシステムの自作まで突き詰めた(元)ガチ勢の人が解説します。
※ この記事はシロイブックスから出版した書籍の一部を無料公開したものです。株式インデックス投資をメインに解説した本ですが、FXやら仮想通貨やらで大損しないためにも役に立つはずです。
なぜこの情報を公開したのか
先日出版した書籍「投資に正解は存在するか:堅実な株式投資と資産形成の入門ガイド」は、投資の世界に対する「簡単に儲かるようなうまい話があるはずがない」という常識的な疑問を掘り下げた上で、「では真っ当な投資方法とはどういうものなのか」という答えを示した本でした。
この本の中で、システムトレードという手法について検討した部分があります。これは本書の内容としてはどちらかといえば「役に立たない手法」として片付けられたもので、話の本筋にはあまり関わっていません。ただ、この手法が本当に役に立つのかどうかについて、詳しい情報を求めて検索したりしている人がひょっとしたらいるかもしれないので、そうした人に見つけてもらえたらいいなと思い、この部分をnote上に無料公開することにしました。
本書の「はじめに:本書の目的」や「第二章:投資でがっかりするための確実な方法たち」にもあるとおり(これらの章もリンクから無料で読めます)、投資関係の情報というのは本当に疑わしくていいかげんなものが多いです。私がこの記事を公開したのは、まあ正直に言えば自分の書いた投資の入門書を多くの人に知ってほしい・読んでほしいということですが、今回載せる情報単体でも、役に立ったと感じてくれる人がいるといいなと思います。
では、「第六章:リターンの向上を狙う」の第3節「さらなる改善案の検討」より、「システムトレードは成功を約束してくれないのか」の部分を丸ごと抜粋します。お楽しみください。
書籍より抜粋:「システムトレードは成功を約束してくれないのか」
システムトレードとは、専用のソフトウェアを使用して過去数十年間といった株価データを分析し、特定の状況下で値動きに一定の傾向があるようだということを統計的に見つけ出した上で、客観的な売買ルールに基づいて売買を行う手法を指します。
この手法は個別株やFXを対象に行われており、一般的なパソコンで使用できる有料ソフトも販売されています。「システムトレード」という用語が使われる際には、過去のデータ解析とその日に取引すべき銘柄の抽出までを専用ソフトで行うことを指すことが多いですが、さらには注文処理までをもすべて自動で行ってしまう「自動売買」という用語で呼ばれる一連のシステムも存在します。こうした商品の中には、年利にして50%を超えるような桁外れの性能を謳っているものも珍しくありません。
システムトレードのソフトで使用する売買ルールは、「複数のテクニカル指標でこのような条件がすべて揃った銘柄を買い、この条件になったときに売る」ということを数字として厳密に決める形になっています。第二章の中で、テクニカル指標にも意味があるケースがあると述べたのはこのことです。取引自体は短期売買の繰り返しになりますが、根拠に基づいて長期的な利益を狙っているという点では、本書の考え方にも反するものではありません。システムトレードで根拠となるのは「ある客観的な売買ルールに基づいて、過去数十年間に渡って取引を行ったと仮定した場合に、その期待値が1を超える」という統計的なデータであり、通常これは何千回という仮定上の過去の取引結果を集計したものになります。
「はじめに」の章にて、筆者が専業でトレードを行っていた時期があるということを述べました。筆者は理系のエンジニアであり、このときに使用したのは、すべて個人で一からプログラミングした自前のシステムです。システムトレードにおいては「どのような手続きで統計を取ったら利益が出そうな条件が発見できるのか」がそもそも未知なので、成功の見込みがありそうな取引手法のアイデアを次々と試していくためには、その複雑な条件をコンピュータが理解できる形で記述するための柔軟な仕組みが必要であり、ソフトウェア開発としてはそれなりに難易度の高い仕事になります。ここで開発の苦労話をするのは脱線になるので控えますが、このようなことを少し詳しく書いたのは、この手法が筆者の専門分野だったということをお伝えするためです。
トレード用のシステムを自前で開発するというのは、明らかに本書で扱いたい範囲から外れるので、ここでは「市販のシステムトレード用ソフトは役に立つのか」という論点に絞ります。専門的な議論を飛ばして結論を述べると、役に立つ可能性はゼロではありませんが、宣伝文句にあるような「手間をかけずに年利数十%の利益を叩き出せる夢の手法」というのは、そのほとんどが事実ではないと言わざるを得ません。
システムトレードについて検討するときに、必ず守ってほしいアドバイスがあります。それは、過去の株価データによる仮定上の取引(バックテスト)の集計結果を無条件に信用しないということです。バックテストによって算出した期待値が驚くほど高く、そこに含まれる取引回数が統計的に十分なサンプル数に思えたとしても、バックテストで使用した過去の株価データに含まれない最新の株価データを使用したテスト(フォワードテスト)を必ず行ってください。仮に2000年から2023年までの株価データでバックテストを行ったのなら、2024年以降のデータによるフォワードテストでしばらく様子を見て、裏が取れてから実際の資金を投入するということです。
様子見という考え方に対して「バックテストで統計的な検証は済んでいるのだから、すぐに実戦で稼働させないと貴重な利益の機会を逃してしまうではないか」と思われるかもしれませんが、ここにシステムトレード特有の落とし穴があります。第二章でも考えたとおり、偶然性の関わる現象の性質を掴むためには、過去のデータから十分なサンプル数を取って解析する必要がありますし、将来に同じ傾向が現れていくのは、試行回数を十分に増やしてからの話です。これをシステムトレードという手法に当てはめると、バックテストに含まれる取引回数は最低でも数千回といった十分大きな値にする必要がありそうですし、稼働を開始した場合にも少なくとも数百回の実取引で数年といった期間を確保したほうがよさそうに思えます。
しかし、この長期的な利益というものも、実は怪しいのです。国内の上場企業を対象とした個別株のシステムトレードを専門的に行ってきた筆者の経験からすると、バックテストにおける「数千回のサンプル」(より具体的には5千回~1万回の範囲)というのは統計的に十分ではありません。フォワードテストを行うと、この数字は平気で裏切ります。ありそうな例として、3~4個のテクニカル指標と5~10個の条件を組み合わせた売買ルールといったものを考えてみましょう。このルールでの数千回のサンプルによる検証結果というのは、専門用語で言うところのオーバーフィッティング(カーブフィッティング)、つまり「たまたま都合のいいデータだけを拾って再現性のない期待値が出ただけ」という現象を当たり前のように引き起こします。数千回というサンプル数を確保してもこの「たまたま」が頻繁に起こるという点は、筆者自身も直感に反すると感じるものですが、事実としてそうなっています。
システムトレードの専用ソフトと売買ルールの販売について、本書の執筆時点で国内大手と見られる業者のサイトを確認すると、面白いことに、この点を確認するためのデータははっきりと開示されています。販売されている各種売買ルールには、バックテストで検証された取引回数・期待値・年利など成績データに並んで、フォワードテストに相当する直近の日付までの最新の成績データの表示があります。さらにはご親切にも、この両テスト全体の期間をひとつにまとめて、資産の伸びを示す長期の折れ線グラフを表示する機能まで実装されています。
そして、販売開始から半年や1年が経って、商品一覧の下のほうにひっそりと掲載されるようになった過去の売買ルールの詳細ページを開くと、「バックテストでは年利数十%といった優秀な成績を記録していた売買ルールが、フォワードテストでは年利数%か下手したらマイナスの年利しか記録できていない」という現実を確認することができます。このように役に立たないルールが無数に販売されているという現実は、システムトレードに夢を見ている人にはぜひとも実際に確認してほしいことなのですが、ここで注目すべきなのは、この事実が「確認しようと思えばすぐに確認できる」という点です。
つまり、この業者を悪徳業者と呼ぶことはできません。結果が出ない道具をさも使えるかのように販売している以上、良心的と言うこともできませんが、少なくとも言葉の上での嘘はついていないし、その道具を使う人自身が検証すべきデータを隠してもいないからです。フォワードテストの確認を待つことなく、こうした手法に飛びついて最終的に失敗したとしても、それはお馴染みの「投資は自己責任」という原則に含まれる話なので、業者に文句を言うことはできないということになります。
筆者自身の過去の経験において、市販ソフトを使用するということが最初から検討の対象外になっていたのは、「一般向けに販売されて既に流通している道具で、簡単に利益が出るようなことが本当にあるのだろうか」という常識的な疑問によるものです。市販のシステムトレード用ソフトと売買ルールのように、年利にして数十%を期待できるという手法が数万円〜十数万円といった価格で販売されており、その運用にほとんど手がかからないというのは話がうますぎます。これは第二章で考えてきた「ありそうにない話」に含まれます。筆者には、こうした魔法のような想定年利と、学生バイトでも頑張れば手が届きそうな販売価格というギャップが、この道具が現実には役に立たないということの間接的な証拠になっているように思えてなりません。
データと統計というアプローチ自体は間違っていないように見えますが、以上のような現実がある以上、市販のシステムトレードのソフトにも期待はできなさそうだということになります。
(書籍からの抜粋ここまで)
まとめ
というわけで、まとめると「フォワードテストを行わないとびっくりするようなカーブフィッティングに騙されるし、販売業者も実はデータを公開しているのに、誰もそれも見ていないようだ」という話でした。気をつけましょう。
冒頭にも書いたとおり、以上の内容は書籍「投資に正解は存在するか:堅実な株式投資と資産形成の入門ガイド」からの引用でした。システムトレードよりももっと信用できそうな投資手法(具体的には長期保有・国際分散を前提としたインデックス投資)について詳しく書いていますので、興味のある方はチェックしていただけると嬉しく思います。
最後に、Amazonへのリンクをもう一度載せておきます。
Kindle Unlimitedにご加入の方は、書籍の全体を無料で購読できます。ご加入でない方は、以下の「試し読み版」で最初のほうの章を立ち読みしていただくのがおすすめです。
この本の他にも、シロイブックスではみなさんの人生に役立つかもしれない本をいろいろと出版していますので、こちらも見ていただけたら嬉しいです。では、今回はこの辺で。
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