名古屋・三重ひとり旅一日目:しわひとつない暇と幸せ
完全にしわが伸びきっている。
今、私は名古屋の名城公園にいる。昨夜24時過ぎに新宿から夜行バスに乗り、7時少し前に名古屋へ到着。駅のトイレでそそくさとコンタクトをつけた後、まずは名古屋名物のモーニング。
通りすがりのマックにフラッと入りそうになる身体を無理やり方向転換させて駅の西方面へと歩き、「赤とんぼ」という喫茶店へ向かった。(夜行バス明けの朝マックは最高なんだけれども、やはり名古屋へ来たからには、モーニングを食べなければならないという使命感に駆られる。)

ここのモーニングは、コーヒー+トースト+ゆで卵、という定番メニュー。しかし少し珍しいのは、小倉あんとイチゴジャムを自分で好きなだけ塗れることだろうか。入れ物がお洒落で、家じゃ絶対に必要ないのに、欲しいなと思わずにはいられない。

マスターのおばあちゃんが一杯ずつ丁寧にハンドドリップしてくれたコーヒーを一口飲む。美味しい。めちゃくちゃ美味しい。連日の寝不足でぼやぼやとした身と心にじわ〜っと沁みる。ちゃんと美味しいコーヒーを飲んだのはものすごく久々な気がした。最近自宅で淹れているコーヒーはコスパ重視で安いコーヒー粉を使っているし、コメダ珈琲やら何やらといったチェーン店もめちゃくちゃ美味しいが、やっぱりこういう個人店には敵わない。
店を出た後は名古屋駅のコインロッカーに荷物を預けようかと思ったが、お得意のケチを発動してやめた。もはや夏の天気で衣服の荷物も軽いので、預けるほどじゃないと思った。それからまたもやマックの前を通り(しかし先ほどとは別店舗)、やっぱ朝マック食べたいな、マックマフィン食べたいな、と思ったが、さっきの美味しいコーヒーの味がぼやけてしまう気がしてやめた。
……。
暇だ。めちゃくちゃ暇だ。暇すぎる。何せライブは16時から、なのに私は、モーニング以外、名古屋滞在時の予定を一切立てていなかった。まだ8時にもなっていないのにめちゃくちゃ暇だ。
ついこの間、たむらかえというYouTuberが「1年間書かずに放置していたエッセイ本を10日で書いた」という旨の動画を上げており、動画冒頭でその切羽詰まった状態を「しわ」と称していた。 しわ寄せのしわそのものという感じだろう。

彼女の言葉を借りるなら(別にたむらかえの言葉というわけではないが)、今の私は完全に、完璧に、しわが伸びきっている。のびのびだ。しわのひとつも見当たらない。伸びすぎてふにゃふにゃで逆に一周まわってしわになっているかもしれないというくらい、伸びに伸びきっている。
暇だから、どこか公園にでも向かって歩くことにした。歩きたかったし、ちょうど良い陽気なので外にいたかった。
Googleマップを開く。5月最終日でデータ通信量が危ういのでモバイルデータ通信をオフにしていたが、現在地がちゃんとリアルタイムに反映されていて、あ、オフラインでもGPSは機能するのか、という気付きを得た。(もちろん、施設情報や口コミなどの情報、乗換案内などは見ることができないが。)
目に留まったのは、名城公園と白川公園だった。マップを見ずに向かうなら名城公園のほうが難易度が低いと見て名城公園を選択。お堀の雰囲気や天守閣の風貌が見えてくれば方向が分かりやすいだろうし、名古屋城は観光名所だから道中の案内板も多いだろうと思った。実際その通りだった。

名古屋駅から見てなんとなく北東方面に向かってひたすら歩く。歩くだけで楽しい。何故ならめちゃくちゃ暇だからだ。暇って幸せだ。おててのしわとしわ合わせて幸せ、なんてCMが昔あったけれど(今もあるのだろうか)、Vaundyの「しわあわせ」なんて曲もあるけれど、しわひとつない今の私は幸せだ。最近の自分はずっと勝手に忙しくなっていたから、何をしよう、何をしてもいいし何もしなくてもいい、という自由な状態があまりにも幸せに思える。
名城公園に着くと芝生広場はあいにく閉鎖されていたが、ゆったりと座れるベンチに腰掛け、荷物を置く。ふーっとひと息つき、身も心も力が抜けた。

それにしても眠い。眠すぎる。
もともと寝不足なうえ、日差しが強くなく、そよ風が吹いていて、ちょうどよい暖かさ。ここまで歩いてきたから少し疲れてもいる。日記やこの文章を書いてしばらくしたあと、荷物に頭を預けて少しだけ眠った。気持ち良かった。
これだけゆっくり過ごしてうたたねしてもまだ10時そこそこだった。なんて幸せなんだろう。やっぱり人生において一番の幸せは、お金じゃなくて時間だとつくづく思う。もちろんお金はめちゃくちゃ大事だし(お金に苦労した家庭だから尚のこと痛感する)、今の私は、独り身の二十代からすれば十分すぎるくらい貰っているのでだいぶ贅沢なことを言っている自覚はあるが、やっぱりもっと時間が欲しいなあと思った。
お腹が空いてきた。お昼は何を食べようか。せっかくの名古屋だし、矢場とんで味噌カツ食べたいな。でも、別のお店を開拓するのもいいかもしれない。そういうことを考えるだけでも、いや、もはや何も考えなくても、楽しい。
2026年5月31日 しろくま
