music column|record days
初めて買ったレコードは?
音楽好き同士で会話していると、必ず出る話題が「初めて買ったレコードは?」。とはいえ、この話題ももう既に死語となりつつあるのだろう。
少し前までは、「初めて買った」の後が「レコード」か「CD」かで年代がわかると言われていた。たぶん40代半ば以降の人はレコード、それよりも若い人はCDだろう。20代前半以下になると「初めてダウンロードした楽曲は」となるのかもしれない。そして2010年以降生まれの人は、レコードを買うどころか「楽曲を購入する」という概念すらないかもしれない。ほとんどの人はサブスクで聴いているだろうから。
しかしそれはとても残念なことだと思う。それは「レコード(またはCD)を所有する」という喜びを味わえないこと。ジャケット、歌詞カード、ライナーノーツなどなど、音源と合わせてアーティストの「想い」をトータルで手元に置くということは、この上ない喜びだ。
確かに置き場もいらず、聴く場所も問わず、いつでも聴きたい曲を聴けるサブスクは魅力だ。だけど、レコードやCDを取り出し、プレーヤーにセットし、そしてアーティストに向き合うという瞬間は、それを上回る魅力だと思う。少なくとも私にとっては。
同じアルバムであってもレコードとCDは同じものではない
CDが世の中で一般的になり始めたのは20歳くらいのころだった。10歳の時に初めてレコードを買って約10年間、私にとっての音源はレコードだった。その10年はただの10年ではない。私が音楽と出合い、もっとも多感で、もっとも音楽を愛した10年間だ。だからこそ、私にとっての音楽はやはりレコードを抜きにして語れない。
とはいえ、リリースされる音源はどんどんCDになり、レコードは徐々に消えていった。それでもかなり粘った方だが、愛用のレコードプレーヤーが壊れたことと、針を扱う店がどんどん減っていったこともあり、諦めてCDに移行した。レコードで持っているアルバムもCDで買い直していった。そこで気づいた。レコードとCDは同じものではない、と。
もちろん収録されている楽曲は同じものだ。音質は格段に良い。さらに過去のレコードがCD化されたものはほとんどボーナストラックが収録されていたのでお得感も増している。でも違う。それは「レコードだけが持つドラマ」がCDにはないのだ。
CD化によって失われたA面とB面の「間」と「世界観」
レコードには4つの山場がある。そのレコードの顔でもある「A面1曲目」。A面で創られたストーリーを完結する「A面最後の曲」。新たなストーリーが始まる「B面1曲目」、そしてB面のストーリーをまとめ、アルバム全体を完結させるエピローグ「B面最後の曲」。ここで重要となるのが「A面最後の曲」と「B面1曲目」の「間」にあるものだ。
レコードの場合、A面が終わると一度針があがり、レコードをひっくり返し、再び針を落とすという工程が存在する。この「間」。A面で没入した世界観を一度リセットし、クールダウンして新たな展開への期待を込めた間。舞台で言うなら第一幕と第二幕の幕間のようのもの。だからこそA面最後の曲とB面1曲目がそれぞれ重要な役割を果たす。
なのにCDになるとA面最後の曲だったはずの曲が「アルバム○曲目」に位置し、B面1曲目は「その次の曲」になる。確かに順番としては同じだが、そこにあったはずのアーティストの意図や世界観が失われてしまった。
例えばLed Zeppelinの「Ⅳ」なら、「Black Dog」、「Rock and Roll」というハードナンバーから「The Battle of Evermore」で幻想世界へ入り込み、A面最後の曲「Stairway to Heaven」で天国へと旅立っていく。ここでレコードを返し針を落とすと、「Misty Mountain Hop」で新たな旅が始まる。それがCDでは「Stairway to Heaven」はアルバムの4曲目であり、「Misty Mountain Hop」はその次の曲となる。これが彼らの意図した世界観だとは思えない。なぜあのジミー・ペイジが、既発作品がCD化されるときに、たとえ収録曲は同じでも曲順を変えなかったのか疑問だ。
A面・B面だからこそできたアプローチ
レコードの時代には、レコードならではの様々なアプローチをするアーティストがたくさんいた。
コンセプトアルバムとして、意図的にA面とB面をまったく違う世界観にするアーティストも少なくなかった。例えばA面を「Day Side」として昼間の曲を、B面は「Night Side」として夜の曲を収録したり、「Boys Side」、「Girls Side」で曲の主観を男女分けしたり、A面を序曲にしてB面は1曲だけの壮大な組曲を収録したり、A面がスタジオ音源、B面がライブ音源というアルバムもあった。挙げればきりがない。
ジャケットの魅力
レコードのもうひとつの魅力はジャケットだ。もちろんCDにもジャケットはあるが、レコードの30cm四方という面積に描かれたジャケットは、楽曲とは違うひとつの「作品」でもあった。
もう死語かもしれないが「ジャケ買い」という言葉があったように、楽曲もアーティストも知らずにジャケットだけを見て買ったレコードは一体何枚あるだろう。特に何の情報もない輸入盤の場合にはジャケ買いすることが多かった。
Virginia Astley「Hope in a Darkened Heart(サム・スモール・ホープ)」、Echo & the Bunnymen「Ocean Rain」、Bauhaus「Burning From the Inside」などなど、数え上げればきりがない。



なので中学、高校時代は自室の壁にレコード袋を画鋲で貼り付け、気に入ったジャケットをそこに入れ、さながらギャラリーのように飾っていた。もちろん壁には収まりきらないほどお気に入りのジャケットが多かったので、定期的に入れ替えるのも楽しかった。
いつの日かレコードを聴きながら音楽雑誌を
ここまでレコードの良さやCD・サブスクの難点を書き連ねてきたが、決してCD・サブスクを否定・批判するつもりはまったくない。CD・サブスクの良さもたくさんあるのは事実。実際、私もCDの所有数はレコードをはるかに超えたし、サブスクも利用している。
だからこそ、だ。
CDやサブスクで音楽を聴くようになったからこそ、レコードの良さ、レコードの思い出が色濃く甦るのだろう。私が所有している数百枚にのぼるレコードは、箱にしまって家の奥にしまい込まれている。でもいつの日か、改めてレコードプレーヤーを買って、同じく箱にしまってある音楽雑誌(記事参照)を読みながら、レコードを1枚1枚聴きなおす日を夢見ている。
〈record of memories〉
●初めて買ったレコード
SATURDAY NIGHT FEVER|Original Sound Track

オリジナル・サウンドトラック〈サタデー・ナイト・フィーバー〉
小学生の頃、ラジオでかかったBeeGeesの「Stayin' Alive」を聴いて一発で虜になり、その後、映画「Saturday Night Fever」のタイトル曲であることを知り、お年玉をためて買ったレコード。2枚組で3,800円。小学生にとってはクラクラするような大金。だけど迷うことなく買い、そしてその大金を払った価値があったことを実感した。このアルバムの流れで次に買ったレコードも映画のサントラ「Grease」だった。
●「ベストテン北海道」で貰ったレコード
THE STRANGER|Billy Joel

ストレンジャー(シングル)|ビリー・ジョエル
小学生時代、夕方4時くらいから地元AM局で放送していた「ベストテン北海道」というランキング番組があった。その名の通り、その日のベストテンを10位から順に発表・曲をオンエアする番組だ。そしてその番組の特徴が「ランキング・シャウト」というコーナーで、各順位をリスナーが電話で直接ラジオに出て当てるというもの。当たると好きなシングルレコードをもらえた。私も毎日聴き、毎日電話をかけていたが、当時の大人気番組でなかなかつながらず、つながっても選ばれず、という日々が続いたが、ある日やっと出ることができた。そして見事当たり、貰ったレコードが当時大好きだったBilly Joelの「Stranger」。
ちなみに当てた曲はその日の第7位、岩崎宏美の「悲恋白書」という曲だった。
●「ベスト100マラソンランキング」で貰ったレコード
All'n All|Earth, Wind & Fire

太陽神|アース・ウインド&ファイアー
上記「ベストテン北海道」と同じラジオ局の番組で、こちらは1位から100位まで紹介する番組。夜7時から2時間くらいの放送で、10月から3月くらいの冬期間のみの放送だった。というのも当時のAMラジオは、夏場必ずプロ野球中継をしていたので、野球がオフシーズンのみこの番組が放送されていた。こちらもランキング当てのコーナーがあったが、この番組では生出演ではなく、電話をしてその日の1位から3位を予想し、当たった人の中から抽選で1名にLPレコードが貰えた。ここでも毎日電話し予想していて、ほぼ毎日当てることができたが抽選に当たることはなかった。ある日のランキング、私の予想は1位・3位・2位の順だった。「今日は外れちゃったな、残念」と思っていたら、なんと当選者の発表で私の名前が呼ばれた。「え????」。しばらくしてラジオ局から電話がかかってきて「おめでとうございます!」と。当時素直な子どもだった私は、その電話で「あの……予想外れたんですけど……」と正直に言った。すると電話の女性は「あら、そうだったんですか?ラッキーですね!」と、そのまま欲しいレコードを聞いてきた。なので私は「アース・ウィンド&ファイアーの宇宙のファンタジーが入ってるレコード!」と元気に答えた。
●誕生日に友人たちから貰ったレコード
MONEY AND CIGARETTES|Eric Clapton

マネー・アンド・シガレッツ|エリック・クラプトン
高校時代、音楽好きの友人たちの間で、誕生日にみんなで金を出し合ってレコードをプレゼントする習慣があった。本人の意向は聞かず、本人以外のメンバーで話してプレゼントするレコードを選んでいた。そして私の誕生日に贈られたのがこのレコード。
貰ったときは正直、これじゃない感しかなかった。当時はニューウェーブにハマっていたので(友人たちはニューウェーブ系はあまり好きではなかったので話したことはなかった)、「クラプトンかぁ……」という印象。もちろん表向きは「これ聴きたかったんだ!」とは言ったが。そして聴いてみたらなんと!
当時私が知っているクラプトンと言えば「Layla」や「Strange Brew」、「Cocaine」など、ブルースやオールドスタイルのロックという印象。それがこのアルバムは、洗練されたロックという感じで、AOR風の曲に彼の声がマッチしていて一発で気に入った。友人たちが何故このアルバムを選んだかはわからない(聞いたけど覚えていない)が、改めて感謝したい。
●初めて買った輸入盤
FAREWELL TOUR|THE DOOBIE BROTHERS

フェアウェル・ツアー・ライブ|ドゥービー・ブラザース
高校時代、毎日のように通っていたTower Records。当時はいまのように洗練されて洋邦問わず扱うレコード店ではなく、古く暗いビルの3階にある輸入盤専門店だった。店員はやる気のなさそうなロン毛・丸眼鏡のお兄さん。私はただレコードを眺めながら何時間もいるだけでレコードを買うわけではなかったのに、私が行くとお兄さんはいつも「よぉ」と声をかけてくれた。
そんなある日、ずっと欲しかったレコードが「SALE」の棚におかれていた。それがこのアルバムだ。「China Grove」ですっかりファンになったDoobie Brothers。特にラストアルバムで初のライブアルバム(どちらも当時は、という話だが)だったので欲しかったのだが、2枚組で輸入盤でも2,500円くらいだった。それが890円と書かれている。欲しい!でも……財布の中には1,000円札が1枚。これを買ってしまうと帰りの交通費がない。改めて来ようと思ってお兄さんに「このSALEいつまで?」と聞くと「今日までだよ」と。そのレコードを見つめ消沈する私。諦めて帰った。
数日後また行くとお兄さんが「ほい」とそのレコードをカウンターの上に置いた。そして「これ、欲しかったんだろ?SALEの値段でいいぞ」と言ってくれた。言葉にならない言葉でお礼を言って抱きしめるように帰った。レコードを聴きながら、ジャケットから香る輸入盤特有のビニールの匂いはいまだに忘れない。
●初めて買ったCD
WELCOME PLASTICS|PLASTICS

ウェルカム・プラスチックス|プラスチックス
中学時代に出合ったPLASTICS。大好きだったがレコードを持っておらず、友人から借りたレコードからカセットテープにダビングしたものだった。いつしかそのカセットテープも紛失してしまい、聴きたいと思ったが廃盤になったのか見つからず。
そしてCDが普及し始めた1989年頃。それがCD化された。当時はまだCD否定派だったがそんなことは言ってられない。迷わず買った。が、見つけたことがあまりに嬉しくて買ったはいいが、CDプレーヤーを持っていないことに気づいた。結局このアルバムをきっかけにCDプレーヤーを購入することになり、私の音楽ライフも徐々にCD化されていくことになった。
