健康寿命と資産寿命──お金が自由を作る
お金編も、この章で最後です。
「再雇用で後悔する人の共通点」から始まり、棚卸し、収入チェック、シミュレーションと、ずいぶん地味な作業を重ねてきました。
でも、何のためにこれをやってきたのか。
その答えを、この章でお伝えします。
資産寿命 = あなたの「自由度」
シート⑤で、あなたの資産寿命が何歳まで持つかを計算しました。その数字と、健康寿命(男性72歳・女性75歳が平均)を並べてみてください。
資産寿命 > 健康寿命 → あなたは"選べる"立場
資産寿命 < 健康寿命 → あなたは"選ばされる"立場
この違いこそが、自由度です。「お金があるから自由」という単純な話ではありません。自分の状況が数字で見えている人は、選択肢を持てる、という意味です。数字を"持っている"ことが、自由を作るんです。
老後の収入は「3つの支え」でできている
ここで、定年後のお金の設計図を見てもらいます。

図①は、支出と収入のマッチングです。
大江英樹氏(故人)がこちらの方法を提唱されています。
日常的な生活費 → 公的年金で賄う
医療・介護費用 → 退職金・金融資産で賄う
一時出費・自己実現費 → 働いて得る収入で賄う
ここが重要です。一つの財布ですべてを賄おうとしない、ということ。役割を分けるのです。
年金だけで全部まかなえないのは当たり前。逆に、年金は"日常を支える柱"として機能しさえすれば十分なんです。
医療費は公的保険でかなりカバーされますが、介護費用や施設費用は自己負担が大きくなります。だからこそ、退職金・金融資産をその備えに充てる設計が重要です。
旅行や趣味、孫へのプレゼントなど自己実現の費用は、働いて得る収入から。働き続けるモチベーションにもなります。
3つの支えで老後を成り立たせる、これが現代の定年後設計の基本形です。
WPP という考え方
図②はWPPの配分から収入を考える方法です。

Work longer(長く働く)
Private pensions(私的年金──退職金・iDeCo・個人年金)
Public pensions(公的年金)
この3つの円が重なる部分が、老後の収入の最適解という考え方です。
特に覚えてほしいのが、公的年金の受給をできるだけ先延ばしにするという発想。年金は、受給開始を1年遅らせるごとに 8.4%増額 されます(70歳まで繰り下げると最大42%増、75歳までだと最大84%増)。その繰り下げ期間を、働く収入+私的年金で埋めるわけです。
結果、70歳からの公的年金が、1.42倍の水準で一生涯続くことになるわけですから、これが資産寿命を延ばす最大の武器です。しかも、長生きすればするほど得をする設計になっている。
4つの収入パターン
つまり、収入の組み合わせはいろいろだということです。
Aパターン:仕事 + 金融資産
Bパターン:年金 + 金融資産 + 月10万円程度のバイト
Cパターン:年金 + 金融資産 + 起業/個人事業主
Dパターン:年金 + 金融資産 + バイト + 起業

どのパターンが"正解"ということはありません。どれを選べるかは、あなたの資産寿命と健康寿命次第です。
だから、6枚のシートを書いてもらったんです。自分の数字が見えていない人は、この表の前で立ちすくむしかありません。数字が見えている人は、この表から選べる。ここが、自由度の分かれ目です。
「細く長く働く」という最強のリスクヘッジ
この章のタイトルは「健康寿命と資産寿命」でした。資産寿命を延ばす方法は、実は大きく3つしかありません。
資産を増やす(運用・節約)
支出を減らす(ダウンサイジング)
働く期間を延ばす
このうち、3番目が最もパワフルです。
収入が入る → 資産を取り崩さなくて済む
年金を繰り下げられる → 将来の年金額が増える
健康寿命も延びるかも(仕事が脳と身体を動かす)
月10万円でいい。週3日でいい。自分のペースでいい。フルタイムに戻る必要はありません。「細く長く働く」だけで、資産寿命はもちろん健康寿命もじゅうぶん延びる可能性があるのです。
6枚のシートの意味
ここまで読んでいただいて、6枚のシートを書いた理由が見えたでしょうか。
シート①②③で 現状を把握し
シート④⑤で 将来を設計し
シート⑥で ギャップを診断する
すべて、「自分の自由度を知るため」でした。
自由度が高い人は → どのパターンも選べる
自由度がギリギリの人は → B/Cを早めに準備する
自由度が不足する人は → D+支出見直し+年金繰り下げ
どのケースでも、打ち手があります。書いた人だけが、それを手にできます。
次章予告:仕事の章へ
ここで、お金編は完結です。次章では、「老後に働く」ということを、もっと具体的に考えていきます。
再雇用の現実
副業は万能ではない
起業・個人事業主は誰向きか
60代向けの自己PR
お金の章で見えた自由度を、今度は働き方に落とし込んでいく作業です。お金と仕事は、両輪です。片方だけでは動きません。
また次章でお会いしましょう。
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