第7回:【説明が伝わらないと感じる事務職へ】“初心者/経験者”では測れないものをどう見るか?──アンケートは“相手のスキルの合わせて引き継ぎを行う道具”だった【#ワークライクバランス】
引き継ぎは、手順を渡すだけではうまくいかない──。 そう気づいたのは、相手の「分かるところ」と「つまずくところ」が、人によってまったく違うからでした。
だからこそ私は、作業に入る前に“相手の地図”を知るためのアンケートを始めました。
今回は、その小さな工夫が引き継ぎをどのように変えていったのかをお話しします。
第1章:メーリングリスト更新処理の引き継ぎ失敗から生まれた「アンケート」という発想
引き継ぎの難しさは、相手のスキル差に気づけないところにあります。
以前、メーリングリスト更新処理を引き継いだ際、私はその“差”を見誤り、説明がうまくかみ合わないまま作業が進んでしまいました。
その経験から、「作業に入る前に相手の地図を知る必要がある」と強く感じ、初めてアンケートという仕組みを取り入れることにしました。
👉 気づけなかった“スキル差”が残した違和感
メーリングリスト更新処理を引き継いだ際、私は新人さんのスキルを十分に把握しないまま説明を進めてしまいました。
自分では当たり前に行っている操作が、相手にとっては初めての手順であることに気づけず、
「なぜここで止まるのだろう」と感じる場面が何度もありました。その小さな違和感を見逃したまま作業を続けた結果、説明がかみ合わず、双方にとって負担の大きい引き継ぎになってしまったのだと思います。
👉 反省から生まれた「相手の地図を知る」という発想
この経験を通して、私は「相手がどこまで理解しているのか」を事前に知ることの大切さを痛感しました。
同じ説明でも、相手の得意・不得意によって理解のスピードは大きく変わります。
だからこそ、作業に入る前に“相手の地図”を知る必要があると感じました。
どの操作が不安で、どの部分は問題なく進められるのか?その凹凸を把握できれば、説明の順番や深さを調整でき、無理のない引き継ぎにつながると考えるようになりました。
👉 完璧ではなく“第1版”としてのアンケート導入
そこで私は、初めてアンケートという形で相手のスキルを事前に確認する仕組みを取り入れました。
とはいえ、最初から完璧なものを作ることは難しく、今回のアンケートは入金データ処理に特化した“第1版”のようなものでした。
それでも、使ってみることで見えてくる改善点があり、次に活かせる気づきも得られました。仕組みは最初から完成している必要はなく、試しながら育てていくものだと感じています。
📝 事務職向け・汎用スキルアンケート(サンプル)
業務で使用したアンケートは入金データ処理に特化しており、セキュリティ上アップすることができない為、Copilotさんにお願いして汎用的なものを作成していただきました。
1.パソコン操作の基本
・文字入力(ブラインドタッチ)
できる / ゆっくりならできる / 苦手
・ファイル操作(コピー・移動・削除)
問題ない / 少し不安 / 苦手
・フォルダ構成の理解
理解している / なんとなく分かる / 苦手
2.ショートカットキーの使用
・Ctrl + C / V(コピー・貼り付け)
知っている / 使っている / 知らない
・Windowsキー + E(エクスプローラー)
知っている / 使っている / 知らない
・Windowsキー + 矢印(画面分割)
知っている / 使っている / 知らない
・Windowsキー + Shift + S(部分スクショ)
知っている / 使っている / 知らない
・その他よく使うショートカット
(自由記述)
3.Excelスキル
・基本操作(四則演算、オートフィル)
問題ない / 少し不安 / 苦手
・関数(SUM・AVERAGEなど)
使える / 説明があれば使える / 使えない
・VLOOKUP / XLOOKUP
使える / 説明があれば使える / 使えない
・フィルター・並べ替え
使える / 少し不安 / 苦手
4.Wordスキル
・文書作成(段落、箇条書き)
問題ない / 少し不安 / 苦手
・書式設定(見出し、スタイル)
使える / 少し不安 / 苦手
5.業務理解(汎用)
・現在担当している業務の理解度
よく理解している / だいたい理解している / 不安がある
・業務用語の理解度
理解している / 一部不安 / あまり理解していない
・不安に感じている業務
(自由記述)
6.教わり方の好み
・文章で読みたい
・画面を見ながら覚えたい
・一緒に手を動かしたい
・動画やキャプチャがあると助かる
第2章:今回の新人さんは「初心者」でも「経験者」でもなかった
👉 もうすぐ入社2年目、基本業務は理解している新人さん
入社してもうすぐ2年目ということもあり、日常業務の流れや用語は理解しており、まったくの初心者ではありませんでした。
基本的な作業には慣れてきている一方で、まだ経験していない業務も多く、1年間の経験によって理解が深い部分と、これから慣れていく部分にどうしても偏りが生まれている状態でした。
👉 業務は理解していても、データの“癖”は初めての領域
新人さんは現在担当している業務については十分に理解していましたが、今回扱う入金データのように、銀行の癖のあるフォーマット(全銀協フォーマットなど)は未経験でした。
業務理解とデータの癖の理解は別物であり、経験がないとつまずきやすい部分だと改めて感じました。
👉 初心者でも経験者でもない“中級者の凹凸”に気づく
今回の新人さんは、初心者のように一から説明が必要なわけでもなく、経験者のようにすべてを任せられるわけでもありませんでした。
ショートカットの知識は豊富でも実務での使い方には慣れていない。
業務用語は理解していても、データの癖には戸惑う。
こうした“中級者ならではのスキルの凹凸”に気づき、説明の深さや順番を調整する必要性を強く感じました。
第3章:ショートカットの個別アンケートが見せてくれた「癖」
👉 基本操作から確認することで見えてきたこと
アンケートでは、まず ctrl+c や ctrl+v といった基本的なショートカットから、Windowsキー+e、Windowsキー+矢印、Windowsキー+Shift+s など、日常業務でよく使う操作を個別に確認しました。
普段は無意識に行っている操作でも、人によって習熟度が異なるため、ひとつずつ丁寧に確認することで「どこまで説明が必要か」が自然と見えてきます。
特に入金データの処理では、画面分割や部分スクリーンショットのような“作業効率を左右する操作”が多いため、最初に確認しておくことで後の引き継ぎがスムーズになりました。
👉 “知らない”のではなく“やり方が違う”だけだった
アンケートを通じて分かったのは、「知らない」のではなく「別の方法でできる」だけの項目が意外と多いということでした。
例えば、画面分割はすでに知っていたり、部分スクリーンショットも別の手順で行っていたりと、結果として同じことができているケースがありました。
方法が違うだけで、理解度そのものは十分にある──その気づきは、説明の仕方を大きく変えるきっかけになりました。
相手のやり方を否定せず、「その方法でも大丈夫です」と伝えることで、安心して作業に取り組んでもらえると感じました。
👉 相手の“操作の癖”が見えると、説明の無駄が減る
ショートカットの使い方には、その人なりの“癖”があります。アンケートでその癖が見えることで、説明の無駄がぐっと減りました。
すでにできている操作は省略し、慣れていない部分だけを丁寧に説明できるため、引き継ぎの時間も短くなり、相手の負担も軽くなります。
また、相手の得意な操作を把握しておくことで、説明の順番や深さを調整しやすくなり、理解のスピードも上がります。個別に確認することの大切さを、改めて実感した場面でした。
第4章:業務理解と“データの癖”の理解は別物だった
業務の流れを理解していても、実際のデータ処理では別の壁にぶつかることがあります。
特に銀行データのように“癖”が強いものは、経験がないと判断に迷いやすい部分です。
今回は、その“業務理解”と“データ理解”のズレがどのように現れたのかを振り返ります。
👉 業務用語は理解していても、実務の細部は別の話
新人さんは日常業務の流れや用語を理解しており、基本的な作業にも慣れていました。
しかし、業務用語を知っていることと、実際のデータ処理でつまずかないことは別問題です。特に入金処理のように、細かい判断が必要な作業では、用語の理解だけではカバーできない部分があると感じました。

※この図は、作業の“全体像”をイメージしやすくするために、私が簡易的にまとめたものです。
専門的な処理フローとしては不正確な部分があるかもしれませんが、
流れのイメージだけ伝われば十分と考えています。
👉 銀行データの“癖”は経験がないと見抜けない
銀行データには、全銀協フォーマットをはじめ、銀行ごとに微妙な違いや“癖”があります。
数字の並び方、桁数、空白の扱いなど、経験がないと気づきにくいポイントが多く、新人さんもそこで戸惑う場面がありました。
「業務は理解しているのに止まってしまう」
理由は、この“癖”の存在にありました。
なお、銀行データの“癖”は全銀協フォーマットにも表れており、初めて見ると戸惑いやすい部分です。参考までに、私が確認した資料のURLを記載します。
▼ 振込入金の全銀協フォーマット(参考:SMBC〈三井住友銀行〉)
https://www.smbc.co.jp/hojin/eb/web21/pdf/file-layout_04.pdf
👉 スキルの凹凸は“経験値の差”として現れる
今回の引き継ぎで強く感じたのは、スキルの凹凸は知識量ではなく“経験値の差”として現れるということです。
新人さんは業務の流れを理解している一方で、データの癖に対する経験が少ないため、判断に迷う場面がありました。
逆に、慣れている部分はスムーズに進む。この凹凸を把握することで、説明の順番や重点を調整しやすくなりました。
第5章:特化型アンケートの限界と、汎用型の必要性
今回作成したアンケートは入金データに特化していたため、そのまま他の業務に使うことはできませんでした。
流用できる部分もあるとは思うものの、毎回どこまで作り直す必要があるのかは、実際に運用してみないと分からないと感じています。 この経験から、汎用型と特化型を組み合わせる必要性が見えてきました。
👉 入金データに特化した“第1版アンケート”の強みと弱み
今回作成したアンケートは、入金データ処理に必要なショートカットや作業手順を前提にした“特化型”でした。
そのため、今回の引き継ぎでは非常に役立ち、相手の理解度を短時間で把握することができました。しかし、特化型であるがゆえに、他の業務にそのまま流用することは難しく、質問項目の多くが別の業務では当てはまらないことにも気づきました。
初めての試みとしては十分に機能した一方で、汎用性の低さという弱みも同時に見えてきた場面でした。
👉 使い回しができるかどうか、判断が難しいと感じた理由
今回のアンケートは入金データに特化して作成したため、他の業務でも同じように使えるのかどうか、実際のところはまだ判断できないと感じました。
流用できる項目もあるとは思うものの、業務ごとに必要なスキルや確認ポイントが異なるため、どこまで共通化できるのかは今後の課題です。
「次回はもう少し汎用的な形にしたい」と思ったのは、まさにこの“使い回しの見通しの立てにくさ”が理由でした。アンケートの設計を見直す必要性を強く意識した場面でした。
👉 汎用型+特化型の“二段構え”が必要だと感じ始めた
今回作成したアンケートは入金データに特化した内容だったため、相手の理解度を把握するうえで大きく役立ちました。
一方で、他の業務でも同じように使えるのか、どこまで共通化できるのかは、実際に運用してみないと分からない部分もあります。
こうした気づきから、まずは広くスキルを確認できる“汎用型アンケート”を用意し、そのうえで業務ごとの“特化型アンケート”を組み合わせる方法が良さそうだと感じ始めました。
今後の改善に向けて、アンケートの形を育てていく必要性を意識した場面でした。
第6章:相手のスキルに合わせるとは“凹凸を知る”ことだった
引き継ぎを進める中で、相手のスキルは「初心者か経験者か」という単純な分類では測れないことに気づきました。
人によって得意な部分とつまずきやすい部分の形はまったく違い、その“凹凸”が説明のしやすさを左右します。
この章では、その気づきがどのように見えてきたのかを振り返ります。
👉 初心者/経験者という分類では見えないもの
引き継ぎの場面では、つい「初心者か経験者か」で相手の理解度を判断しがちです。しかし実際には、その分類だけでは説明の難しさは測れません。
経験者であっても特定の操作が苦手な場合があり、逆に初心者でも一部の作業だけは得意というケースもあります。
こうした“単純なラベルでは見えない差”が、説明の量や順番を考えるうえで大きく影響していることに気づきました。
相手のスキルを正しく把握するには、より細かな視点が必要だと感じた場面でした。
👉 人によって異なる“得意・不得意の形”
スキルの凹凸は、人によって本当にさまざまです。ショートカットが得意で作業が早い人もいれば、画面操作は苦手でも判断の正確さでカバーできる人もいます。
また、細かい作業は得意でも例外処理になると急に迷ってしまう人もいます。この“形の違い”を理解していないと、説明が長くなりすぎたり、逆に省略しすぎたりして、相手の負担につながることがあります。
相手の特徴を丁寧に見極めることが、無理のない引き継ぎにつながると感じました。
👉 凹凸を知ることで説明の量・順番・深さが変わる
相手のスキルの凹凸が分かると、説明の仕方を柔軟に変えられるようになります。
得意な部分は短く、苦手な部分は丁寧に、そして理解しやすい順番に組み替えることで、説明の無駄が減り、相手の負担も軽くなります。
今回のアンケートは、その“地図”を手に入れるための道具として機能しました。
相手の現在地が分かることで、必要な説明だけを選び取れるようになり、引き継ぎ全体の効率も大きく向上したと感じています。
第7章:まとめ:仕組みは育てるもの、引き継ぎは相手を見ることから始まる
アンケートは、まだ第1版のままで十分だと思っています。使いながら少しずつ手を入れていけば、自然とその職場に合った“育った仕組み”になっていくからです。
大切なのは、最初から完璧を目指すことではなく、相手の癖や経験、理解の形を丁寧に見ていく姿勢でした。
相手に合わせるとは、相手を評価することではなく、“その人が動きやすい順番”を一緒に探すことなのだと気づきました。
今回のアンケートは、そのための小さな道具にすぎませんが、相手の現在地を知るための確かな手がかりになりました。 引き継ぎは、資料や手順を渡す作業ではなく、相手の視点に寄り添うところから始まります。
仕組みは育てられ、引き継ぎは人を見て深まっていく──その実感が、このシリーズの最後に静かに残ったことでした。
後書き
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。 全7回にわたって続けてきたこのシリーズも、今回で最終回となりました。長い文章にもかかわらず、途中で離れず、最後まで読み進めてくださったことに、静かに深く感謝しています。
今回の引き継ぎを通して感じたのは、仕組みも人も、一度作って終わりではなく、関わるたびに少しずつ形を変えていくということでした。
アンケートも、最初は手探りの第1版でしたが、使うほどに「もっと良くできる」と思える部分が見えてきます。それは欠点ではなく、育つ余地があるということなのだと思います。
そして何より、相手の癖や経験の形を丁寧に見ていくことで、引き継ぎはただの作業ではなく、相手の理解に寄り添う時間へと変わっていきました。
誰かと仕事をつなぐという行為は、効率だけでは測れない、静かな対話の積み重ねなのだと気づかされました。
引き継ぎの工夫や、相手の理解に合わせるための小さな仕組みづくりは、どれも一度で完成するものではありません。試しながら、迷いながら、少しずつ形を変えていく──その過程こそが、働く毎日を少し軽くしてくれるのだと思います。
このシリーズが、どこかで誰かの「引き継ぎのしんどさ」をほんの少しでも和らげるきっかけになれば嬉しいです。
最終回まで読んでくださったあなたに、心からの感謝を込めて。
▼もし「最初からじっくり読んでみたい」と感じてくださった方は、 こちらの第1回からどうぞ。 引き継ぎが苦手な事務職へ、やさしい仕組みをお届けしています。
▼事務職の本音や実務の工夫をまとめたマガジンはこちらです。 よろしければ、他の記事も覗いてみてください。
