AI活用の「秘伝のタレ」を、どうやってチームに配るか
最近、海外のマーケティングメディアを読んでいて、ひとつ強く引っかかった記事がありました。Marketing AI Instituteが書いている「Is There an AI Gap Growing Inside Your Marketing Team?(チームの中にAI格差が広がっていないか?)」という記事です。読みながら、これは自分の中でまだ答えが出ていないテーマだなと感じたので、整理がてら紹介してみます。
記事が言っていること
著者はMike Kaput。Paul Roetzerとのポッドキャスト「The Artificial Intelligence Show」第221回をもとにした記事です。
出発点はシンプルな問題提起でした。
多くのマーケティングリーダーは「うちのチームはAIを使っている」と言う。でも、AIを使っているチームと、チームとして一緒にAIが上達し進捗を共有しているチームは別物だ、と。
記事の中における診断はこうです。
どのチームにも、AIとの付き合い方を本当に掴んだ人が数人いる。
より賢いプロンプトを組み、より良いワークフローを作り、適切な文脈をツールに与えて安定した成果を出している。
彼ら彼女らは速い。
でも、その学びがほとんど他のメンバーに移転していない。Paul Roetzerの言葉を借りると、「100人がAIにアクセスできるチームでも、日々ブレイクスルーを起こすパワーユーザーは5〜10人で、あとは全員その他大勢。
問題は技術ではなく、学びがチームの資産として扱われていないことだ」
その上で、記事は4つの打ち手を挙げます。
❶ パワーユーザーを見つけ、その仕事のやり方を見える化する。
成果が安定して優れている人、仕事が速い人を特定し、実際に何をやっているかを書き出してもらう。凝ったチュートリアルでなくていい。どうプロンプトを組み、どんな文脈を入れ、何が効くと学んだか、その実用的な記述で十分だと。
❷ プロンプトとプロジェクトの共有ライブラリを作る。
誰かがオンブランドな成果を安定して出すプロジェクトを組んでいるなら、それは個人アカウントに眠らせず、チーム全体がアクセスできる状態にすべき。一人の学びの便益を全員に移す現実的な方法だ、という考え方です。
❸ 軽いフィードバックループを作る。
週次MTGで15分でいい。誰かがその週のAI活用の成功例や実験を1つ共有するだけで、空気が変わる。この種の学びが価値あるものだと示し、本来埋もれる知見を表に出し、「もっとAIを使え」という曖昧な励ましでなく具体的に試せるものを与えられると。
❹ 文脈づくりをチームのプロジェクトとして扱う。
AIの成果を実際に役立つものにするブランドガイドライン、ペルソナ、メッセージング、過去の学びは、チームの資産だ。それを一元化し、AIツールに読み込ませやすくすれば、使う全員の価値が掛け算で増えるという主張でした。
そして記事は「複利の問題」で締めます。すでに先行している人は、より速く上達し続ける。AIをより多く使い、一回ごとの利用からより多くを学ぶからだ。その学習サイクルに繋がっていない人は、だいたい同じ場所にとどまる。時間とともに差は開く。今このタイミングで、基本的な仕組みでもいいから手を打つリーダーが、チームを一緒に伸ばしていける、と。
ここまで記事のご紹介でした。記載されている内容は正論だと思いつつ、実際にやろうと思うといくつかハードルを感じたのでその点を言語化してみます。
動機と評価設計
記事の打ち手は、全部「共有の仕組み」の話です。場をつくれ、ライブラリをつくれ、と。でも、なぜパワーユーザーがわざわざ共有するのかという肝心の動機には、ひとことも触れていない。
AIをうまく使うスキルは、今の社内ではかなり希少な資源です。穿った見方かもしれませんが、個人の目線に立った時に共有すれば自分の相対的な優位はその分だけ薄まると感じるのではないでしょうか。
マーケにおいても採用が絞られている局面では(今週、THE LEADで配信した記事で大手テックのマーケ採用が36%減というデータも出ていました)、「自分だけができる」状態は、ある種の雇用の安全弁にもなる。共有は、ミクロには本人にとって合理的じゃないわけです。いわば、各人が抱える"秘伝のタレ"。
そう考えると、仕組みだけ整えても空回りしそうな気がします。
もう少し言うと、共有が起きにくい理由は出し惜しみだけではなく、二つの構造も重なっている気がします。ひとつは暗黙知の移転コスト。パワーユーザーの強みは、きれいなプロンプト集ではなく「どの場面でどう判断するか」という文脈依存の判断力なのだと思います。これは本人にとっても言語化が面倒で、ドキュメント化には実労働がかかる。コストは本人持ち、便益は他人、という非対称がある。
もうひとつは評価制度との断絶。多くの組織で評価されるのは「自分が出した成果」であって「他人を底上げした貢献」ではない。共有が評価に跳ね返らないなら、合理的な人は自分の成果に時間を使います。
この辺りへの対処方法として、評価軸の立て方は工夫が必要そうです。すなわち、「AI活用が上手い人」を評価すると、たぶん抱え込みが進む。
反面、「型を配った人」を評価軸にすると、共有そのものが得になる。この構造に組み替えることが肝要です。
また、共有のコストを本人から剥がす(書かせるのではなく、横で観察して型に起こす役を別に立てる)、や、配った人ほど他人の知見も受け取れる互恵の場にする、金銭でなく「この領域の第一人者」という社内の地位で報いる、あたりも考えられます。
「誰が上手いか」をどう測るのか
もうひとつ、そもそも誰がパワーユーザーなのか、どう測るのか?こちらに関しても検討が必要です。
AIの活用情報について、利用ログでモニタリングしているかもしれませんが、それは多くの場合、量の指標かと思います。クエリの回数等。秘伝のタレを持つ人は「質」で効いている側面もあると想定されるのでそこが見立てられるかどうか。
これはかなり属人的ですが、AI活用によるアウトカムについて目利きができるマネジメントラインによる判断が求められそうです。これは結局、属人性こそが、AI時代のマネジメントの腕の見せ所になるとも言えます。
そもそも全員を底上げする必要があるのか
これは自分の中でもまだ答えが出ていません。別の記事で書かれているのは、「AIが中堅を不要にし、少数のオーケストレーターに集約される」という世界線です。こちらを信じるなら、打ち手は「全員底上げ」ではなく「少数のパワーユーザーをさらに尖らせ、その出力を最大化する」方向かもしれない。
Chat形式や議事録を取るなどは全員が標準搭載で活用していけば良いですが、AIエージェントの設計やそれによる業務の置き換えの際には少数のパワーユーザー + AIエージェント という構造になるのではないか、という考えです。
おそらくこの辺りはAI活用のレイヤーによっても分かれそうです、どこまでを底上げ対象とし、どこからはそうでなくするのか。
組織・実行体制の論点として採用、育成など含めて広範に及ぶ論点ですね、、変わっていく中でもあるので難しい😓、ですが、大きな流れは見えていると思うのでそれを踏まえた検討が求められますし、企業としての競争力の源泉になりうると感じます。
今回はこの辺りで。お読みいただきありがとうございました🙇
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