誰よりもトーキョー
二月二十三日。
東京。
今日の気温は二十二度とのことで、
あいにくの大晴天。幸せだ。
過去の二月の中でも相当な高気温だということで、たしかに何を着たらいいか分からず家を出た。
歩き始めてものの十分もすると、汗が噴き出る。
長袖のインナーに、長袖のシャツ。
そして、コートを羽織り春仕様にするも場違いのような暑さに見舞われた。わたしは、何を着たらいいのだろうか。
自宅から代々木公園まで歩くと少し汗ばんでくる。
世田谷と渋谷を横断し、代々木界隈にたどり着くとそこには、TOKYOしている人たちがたくさんいる。
雑誌POPEYEの中から飛び出してきたような、目一杯のおしゃれをして歩く男女。
見たことない色のポルシェに乗り、
マフラー音と共に優越感をかき鳴らす人。
そんなところ撮って何になるの?といった不思議画角でカメラを構える人。
生活感溢れている身だしなみで界隈を徘徊する老人。
見たことない犬種を連れているただならぬ中年夫婦。
少し後ろにタクシーが停まる。
完璧に整った綺麗なオネエさんが、
ドレスに身を纏ったチワワ二匹と共に降車してくる。
そんな光景。眩しいぞ。
ここはTOKYO。
ランチはもっぱらカレーが多い私たちは、
代々木八幡の名店「スパイスポスト」の閉店に伴う食べ納めを検討していた。
閉店がわかってから一度食べにきていて、もしかしからこれが食べ納めかね〜なんて話をしていた。
三連休最終日だから、まぁ人もそれなりに分散しているだろうという甘い読みは的中。
ミニ大名行列だ。
さすがTOKYO。
保険をかけて、五組並んでいたら諦めるルールを設けていたわたしたちはすぐさま作戦を変更。
代替のお店に向かった。
開店して間もないこともあり、すぐに入ることができたのだが、いつもとガヤガヤの種類が異なることにすぐ気づいた。
私たち以外は全員犬連れだ。
しかも、刈りたての高校球児のような整ったタイプもいれば、ダンブルドアのようなモサモサまで前代未聞のドッグマウントを取られた。
(正確には、取られたというよりわたし達が無知でそこに行ってしまっただけである)
ワンワン、キャンキャン!!
小型〜大型まで人の数と同等のワンチャンたちを横目にニンゲン二人がカレーを頬張る。
幾十も織りなすスパイスの香りは、まさに店内を現しているようだ。
ただ、口の中に広がるカレーだけが、いつもの味だった。
飲食店だと店員さんの目が気になるが、今日は犬さんの目が気になる。
昼時、人が(ワンチャンも)増えてきた。
ゲラゲラという笑い声ではなく、オホホホホという気品あふれる声が店内を駆け巡る。
黙々と波風を立てないように私たちは完食し、
なんだかバツが悪くなってきたのでそそくさと店を後にした。
同時にクローブを噛んだ時のようなほろ苦い感情が、やや強めな春風と共に背中を押してくる。
「すごかったね、自分たちの場違い感」
わたし達が着ている服よりも、
犬が着ている服のほうがたいそう綺麗で豪華。
イヌが上等、ヒトが下等。
負け犬のように笑い飛ばしながら下北沢の方まで歩いてゆく。
風は追い風、足取りは軽い。
春の陽気は優しく、凡人なわたしたちを包む。
アメリカ・西海岸系のコーヒーショップに向かう私たちが、誰よりもトーキョーを楽しんでいる。
