煩悩の数だけデザインがある? ― 『テクノロジーに利他はあるのか?』に寄せて
『テクノロジーに利他はあるのか?』を読んで
著:伊藤亜紗、中島岳志、北村匡平、さえ、砂連尾理、三宅美博、三宅陽一郎、稲谷龍彦 他/編集:未来の人類研究センター/出版:ミシマ社
NPC※キャラクターは、煩悩を持たないと自律して動けない
『テクノロジーに利他はあるのか?』の中で紹介されていた、ゲーム開発の現場にまつわる一節。
その一文を読んだとき、私は思わずハッとさせられました。
(※ノンプレイヤーキャラクター)
AIが自発的に動くには、「勝ちたい」「目立ちたい」といった動機、つまり“煩悩”が必要なのだそうです。
「なぜ自分がここにいるのか」という存在理由が与えられなければ、キャラクターはただポリゴンとして立ち尽くすだけ。行動のトリガーが生まれないのです。
AI開発者の三宅陽一郎氏は、ゲーム世界のAI設計において、「キャラクターに自らの欲求のままに動いてほしい」と語っています。
この考え方は、書籍『テクノロジーに利他はあるのか?』でも掘り下げられており、AIと人間の根本的な違いについて考えさせられます。
逆にいえば、人間もまた、煩悩によって突き動かされている存在です。
「欲しい」「伝えたい」「評価されたい」――こうした主観的な動機が、私たちの行動をかたちづくっています。
いま、社会では共通の価値観を築こうとする動きもありますが、それは平均化を目指すものではありません。
むしろ、多様な主観が交差することを前提とし、個々の煩悩やこだわりを尊重する方向に進んでいます。
この視点をWebデザインに置き換えてみると、ユーザーの煩悩に寄り添うことが、いかに重要かが見えてきます。
たとえば、ある商品サイトを設計する際には、「これが欲しい!」という衝動を引き出す工夫が必要です。
写真は魅力的に、ボタンはわかりやすく。そうした設計の裏には、「欲求にどう応えるか」という問いが常にあります。
「もっと知りたい」「早く試したい」「迷いたくない」。
こうしたユーザーの細やかな欲望をくみ取ってこそ、快適で印象に残る体験が生まれるのです。
そう考えると、デザインとは単なる機能の提供ではなく、人の煩悩やこだわりを繊細に映すものなのかもしれません。
デザインには「こうすればいい」がありそうで、すぐに変わってしまいます。だからこそ、その都度、目の前の欲求に丁寧に向き合うことが大切なのだと感じます。
もし、煩悩の数だけデザインがあるとするなら、デザインもまた、終わりなく進化し続けるものなのかもしれません。
この記事は、Web Designing 2025年2月号『連載MISH MASH』へ寄稿した文章を一部改変して転載しています
ショート論考 『思索するデザイン書棚』
デザインにまつわる書籍を読んだときに立ち上がる思考や感情を、短く綴るマガジンです。本の要約ではなく、「なぜ今この本が気になるのか」「この考え方は、自分のデザインとどうつながるのか」。自分自身の視点を通して、そんな問いに向き合うための小さな記録です。
