短編小説『あなたは旅が下手』
私は旅が上手い。
もう数えきれないくらいに旅をした。北海道、沖縄、広島、秋田......アメリカ、中国、カタール、ブラジル.......国内はもちろん、国外も三十カ国は足を運んでいる。
果ては先日、月面旅行にも行ってきたところだ。
旅とは何たるかを、私は知っている。
私は旅が上手い。
スケジュール管理も、最小限の荷物の運び方も、よくよく心得ている。
あなたは旅が下手だ。
たかだが一泊二日の旅で、その量の荷物はおかしい。何故スーツケースが閉じないのだ。
たかだか一泊二日の旅で、どうして行きたい店が10個以上もあるのだ。1日に一体何食するつもりだ。
荷物の重さで移動の負担が増える。1日に4食も5食もしたらお腹を壊すかもしれない。
旅が上手くないということは、トラブルの可能性が増えるということだ。全く。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
実際、旅行はてんやわんやだった。
案の定荷物が重すぎて開始早々電車を逃し、食べすぎて2人ともお腹を壊し、計2時間もトイレに引き篭もる羽目になった。計画が狂いに狂い、何度も絶望して、必死に解決策を捻り出し、ようやく家に帰ってきた時には、アメリカでキャンピングカー生活をしていた1ヶ月並みに疲労困憊していた。
本当に楽しかった。
私は旅が上手い自分を恥じた。
今まで行った場所の数と距離を誇っていた自分を恥じた。
あなたの目の輝きと、お土産で遂に溢れたスーツケースを羨んだ。
旅はいつだって下手であるべきだ。
もし旅が上手い状態だと感じているのなら、それは近所のスーパーに行くのと変わらない、ただの移動だろう。
誰だって旅には、移動以上の何かを求めている。
