鶴巻育子写真展「ALT(オルト)」展/視覚障害の可視化による「共鳴と限界」
「SHOOTING」編集長の坂田です。
キヤノンギャラリー Sで開催されている鶴巻育子写真展「ALT(オルト)」展を観ました。
これは鶴巻さんが、視覚障害者との関わりをきっかけに取り組んできたプロジェクトの集大成として、「みること」について思考を巡らすことを目的とした展示です。

会場は3つのセクションにより構成
セクション1:視覚障害者と対話しながら彼らをモデルに撮影したポートレート
セクション2:視覚障害者がそれぞれの見え方を「言語化」したものを鶴巻さんが「写真化」するという試みのもと撮影した作品
セクション3:鶴巻さんと視覚障害者の方が、カメラを持ちながら街を歩き撮影した写真で構成
と、なっています。
「セクション1」に関しては、白杖を持っていなければ、視覚障害者とは気づかない方がけっこう多い、ということ。実は「視覚障害者の中で全盲者は約2割で、弱視者(目で見える範囲が狭い、色の認識が困難など)が圧倒的に人数が多い」そうです。
目が見えない人(目が見えない人に準ずる者を含む)は、道路を通行するときは、法的には白杖は携えなくてはいけないが、必ずしも使わなければならない、というものではないそう(鞄に入るような、折畳み式の白杖もあるようです)。
一言で「視覚障害者」と言っても症状や状態は様々で、一般社会では普通に暮らしていらっしゃるので、障害を持っていることは、第三者にはわかりづらいのが実感として伝わってきます。


「セクション2」は、視覚障害者がそれぞれの見え方を「言語化」したものを鶴巻さんが「写真化」するという試み。
目の見え方は、全盲者以外は本当に様々であることがわかります。このセクションの写真は障害者の言葉から、鶴巻さんがイメージして視覚化されたものですが、「何をどのように撮って、見せるのか」を具現化する作業は大変です。撮る前のヒアリングからそれらを具体的なイメージとしてビジュアル化するには、想像力が試されるようなもの。この作品群から、本当に一人一人見え方が違うというのがよくわかります。

鶴巻さんの展示資料のコメントの中に「私の目ってロマンチックだなって…」という、網膜色素変性症の女性の言葉が綴られているように、日常の生活の中で苦労は多々あると思いますが、前を向いて歩いていらっしゃる方の言葉には勇気づけられます。


「セクション3」は、鶴巻さんと視覚障害者の方が、カメラを持ちながら街を歩き、撮影した写真で構成。
晴眼者は、視覚から情報を得て、「いまだ!」と思う瞬間にシャッターを切る。それは日常であれ仕事であれ、普通の行為だけれど、視覚障害者の方々は、それ以外の感覚を大切にして(感じて)、切り取っているということ。
聴覚や嗅覚、触覚、肌に触れる風や気温の変化…。視覚情報に頼っていると気づきにくい、もしくは脳があえて情報を削除している?のか、視覚障害のある方は、他の感覚が鋭敏なのかもしれない。
「写真を撮る、見る」行為は、ほぼ視覚に頼っているが、その中に含まれる、触感やその場の空気、気配みたいなものを意識することで、今までと違った写真の見方ができるかもしれないと思った。ただそこには想像やイマジネーションも含まれるけれど、「写真を見る行為」も、視覚情報以外を意識することで他の感覚が磨かれることもあるのではないでしょうか。

私ごとですが、実は今年の春に、左目(きき目)の中心部が徐々に歪んで見えるようになってきました。大学病院で検査したところ「加齢黄斑変性症」との診断。目のピントが合う網膜近くの黄斑(という部分)に、必要のない新生血管が発生してちょうど視界の中央がゆがんでしまうという症状。
近景、遠景は関係なく、どこを見ても中心部が歪むのでものがよく見えない。簡単に言うと、エクセルの格子のラインが「グニョグニョ」と歪んで見えてしまうという症状です。
もともと視力が0.03とか「強度近視」でハードコンタクトレンズがなければ何も見えなかったのだが、その先の「病的近視」はアジア人では、1〜3%の割合でいるそう。

傾向としては、この左ページの見え方のような感じ。
写真で見ると「周囲は全然見えている」と思われるかもしれないですが、要は視点の中央が見えないので、どこを向いてもよく見えなくなるのです。
仕事への影響はもちろん、生活の質が著しく低下してしまい、パソコンで原稿を書くにも、コンビニや店舗の値札も相当に近づかないと見えないし、会話している人の顔(目)も、歪んで見えるので、すべてが「ぼんやりした世界」になってしまいます。
現在は、硝子体注射(眼内注射)で症状が緩和されていますが、もともと強度近視であり、その内の数%の人にはそのような症状が発症するようです。
話を戻しますが、そのようなこともあり、今回の展示は個人的にもぜひ見ておきたいものでした。
視覚障害は、ものすごく濃いNDフィルターだったり、フォギーフィルターだったり、一部がマスキングされたものだったり…。各自が全員違うフィルターを目に抱えているようなものです。
網膜に定着している情報(個々人の見えている世界)を想像し、鶴巻さんが写真で視覚化することで、「こんな見え方もあるんだ」ということへの理解が進むといいなと思います。

自身の目は大丈夫でしょうか。
アスラムチャートで、チェックしてみてくださいね。
鶴巻育子写真展「ALT(オルト)」
会場:キヤノンギャラリー S
期間:2024年9月27日〜11月11日
